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第一章 黎明を喚ぶもの
第二十八話 『悠々たる来訪者』
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それからしばらくすると、再びモンスターたちが群れをなしてやってくる。
前線の転移者たちはタイムラグの間に体勢を立て直し、再び戦闘を開始する。
アレンたちも例外ではない。しかし先と違うのは、コラルのアドバイスを授かったことだ。
(えーと……狼の弱点は角。オークは腹……蛇は……口の中か? そんでゲーミングスライムは全身弱点……)
勝手がわかればこちらのものだ。アレンは頭部に知らず固執するのをやめ、弱点部位を狙い撃つことで、敵を倒す効率が向上した。無理をして戦線の前へ躍り出たりしなければ、ミカンと二人だけでも凌ぎ切ることが十分できた。
そしてまた、モンスターの波が止み、しばしの小休止。
「ああ、ここにいたのかぁ。やっぱ人目避けてるんだ?」
そこへ。またしても来訪者が、草を踏む足音とともにやってきた。
「……誰だ? あんた」
「おおっと、そう警戒しないでよ。僕に敵意はない。ほら、武器も持ってないでしょ」
「じゃあなんだ、その手に持ったカードは……!」
「えぇ? 別に……手が寂しいから持ってるだけだよ。銃まで構えなくてもいいじゃない。まあ、僕は撃ってもらってもいいけどさぁ」
「なんだと?」
現れたのはどこか軽薄な雰囲気の、取り立てて容姿に特徴のない中肉中背の男だった。
ゲームの世界らしくないシャツを羽織り、薄ら笑いを浮かべ、トランプ大のカードを片手でくるくると回している。そのカードは両面とも、渦のような模様が描かれているだけのようだった。
(こいつ……どこか変だ。普通のやつに見えて、それが気持ち悪いっていうか……)
歳は二十歳過ぎくらいだろうか。
モンスターや、プレイヤーキラーとはまた別種。名状しがたいその独特の気配に、アレンは思わず銃口を向けていた。
「ア、アレンさん? そんな、銃まで向けなくってもいいんじゃ」
「む……」
「ほら。ミカンちゃんだってそう言ってるじゃない? 初対面でここまでされると傷ついちゃうなぁ。僕、結構ナイーブなんだ」
「確かになんか怪しくて信用できない感じですけど……」
「あれ? 味方いない感じ?」
危害を加えるつもりはなさそうだったため、とりあえずアレンは銃を下ろす。
だがインベントリに入れはしない。不審な動きをすれば、にやけた面に弾丸を叩き込む。
「お前、どうしてミカンの名前を知ってる。その距離じゃIDだって見えないはずだ」
「あ……ほ、ほんとです。どうしてわたしのIDを……ス、ストーカーさんですか?」
「待って待って、あらぬ誤解だよ! 教えてもらったんだよ、カズラちゃんにね」
「カズラ……ちゃん?」
「そうそう。アレンちゃんだって知ってるでしょ? アイテム屋にして情報屋——僕は、彼女とはちょっとしたツテがあってね」
疑わしい発言だ、とアレンは内心で訝しんだ。
神出鬼没のアイテム屋、カズラが誰かと組んでいるという話は聞いたことがない。連絡を取る手段も、彼女を通して依頼を寄越してきた<和平の会>ギルドマスターのレーヴンにはあったのかもしれないが、基本的にはないはずだ。
それともこの見知らぬ軽薄な男は、レーヴンに並ぶ大物なのか。アレンの第一印象で言えば、仕事もせずにぷーたらしてる昼行灯といったところだ。
しかしそれよりもアレンが聞き捨てならなかったのは——
「待て。アレンちゃんってなんだ。おい」
「え? ああ、精神的には男なんだよね。でも……ほら、今はそんなだし。いいじゃん。ハハ」
「よくないが!? 取り消せこら! 俺は男だ、ちゃんを付けるなちゃんを!」
「ええー? ハハ、細かいこと気にするなぁ。アレンちゃんってばさ! アハハハ——うわぁっ本当に撃ってきやがった!!」
「ふー……ふー……」
「お、落ち着いてくださいアレンさん! これじゃただの逆ギレです!」
「問題ない……峰撃ちだ」
「銃弾に峰もへったくれもありませんよぉっ!」
「相変わらずクレイジーだなぁ……。あやうくユニークスキルで防ぐところだったよ。SPがもったいない」
流石に狙いはわざとそらしていたので、銃弾は彼方へ飛び去っただけだ。誰にも命中はしていない。
だが男は本気で焦ったようで、傷のない自身の体を見下ろしてふうとわざとらしく息をついた。
「ま、いいや。アレンちゃんには個人的に言いたいことも色々あるけど、こっちも時間がないんでねぇ。要件だけさっさと伝えさせてもらうよ」
「始めっからそうしろ」
「なんて言い草! ひどいなぁ、せっかくアレンちゃんが気になる情報をわざわざ教えにきたっていうのにさ」
「またその呼び方を……! なに? 気になる情報?」
「そうだよ。<エカルラート>のことさ」
「——!」
思わぬ名に、アレンは驚きを隠せない。
ジークを殺したマグナのギルド。もしかすると、目の前の男もその悪名高いPKギルドの一員なのではないかとさえ疑う。
「これホント仄聞なんだけど、アレンちゃんってば<エカルラート>のギルドマスターとなんか確執あるんだって? プロゲーマー時代の元チームメイトだとかなんとか」
「だから……どうした」
「いいや? ただ——彼らが<和平の会>のギルドハウスに入っていったのを見たから、教えてあげようと思って」
「はぁ……!?」
さっきよりも強く、今度は声が出るほどに驚いた。アレンの横で、ミカンも「えぇっ!?」と派手なリアクションをする。
それを見て男は満足そうにうなずく。
「あれは一種の火事場泥棒ってやつじゃないかなぁ。この襲撃イベントに乗じた強盗……もっとも盗むのは金庫の中のお金とかじゃなくて、ギルドハウスのどこかにあるギルドフラッグだろうけど」
「その話は本当なのか?? いや……仮に本当だとして、どうして俺に教える!? それを真っ先に知らせるべきは、俺じゃなくギルドハウスの持ち主である<和平の会>のはずだ!」
「そんな『ナントカするべき』みたいな道理を語られてもねぇ。僕は別に、道徳的な観点からアレンちゃんにこれを伝えに来たわけじゃないし」
「じゃあ一体なんのためにだ! 俺にそれを教えて、なんのメリットがある!!」
「さあね? ただ止めるんなら急いだ方がいいよ、僕が確認してからもう数十分経ってる。フラッグが奪われるのは時間の問題——かもしれないね?」
まるでそうではないとでも言うように、妙な含みを持たせて男は笑う。
「なんだそれは……! 詳しく言え!」
「ああ、それに付け加えておくと、そろそろモンスターどもの波が来る頃だ。戦闘が始まればレーヴンと話す余裕なんてない、また波を一掃するまではね。どうするかはアレンちゃんの自由だけど、いつだって決断は急いだ方がいいものさ」
「あ、あなたは……その、戦線に加わって戦わないんですか?」
伝えるべきことは伝えたと、背を向ける。それを呼び止めるように、ミカンが問いをぶつけた。
ひょっとすれば夜に叩き起こされたのが嫌で二度寝を決め込んだ転移者もいるかもしれないが、多くの者は戦闘に参加している。モンスターたちを倒してまとまったSPを得られるチャンスだからだ。特にボスは1000SPという類を見ないほどの大盤振る舞い。
しかし男は振り返ることもせず、ずっと手慰みにくるりくるりと回していたカードを指で挟み、肩越しに見せつけて言う。
「僕はボーナスウェポンもユニークスキルもハズレを引いちゃってね。そんなわけで……ボスの姿もまだ見えないしこのイベントのことは気がかりだけれど、僕にできることはない。<和平の会>を始めとするほかの連中に任せるさ」
町の方角へ遠のいていく男。その後ろ姿はどこまでも平凡で、だからこそ底が知れなかった。
彼が去ると、ミカンは未だ考え込むように難しい表情を浮かべるアレンの顔を覗き込んだ。
「どうします? あの人のこと、信じてもいいのでしょうか……」
「わからない。けど……万が一にも<エカルラート>が姿を表したのなら——」
火事場泥棒とあの男は評した。それが事実だとして、こうも突発的に起きたイベントに対して即座に行動を起こせるだろうか。
事前にこの襲撃イベントが起こると知っていたならばまだしも。
しかし、<エカルラート>はギルドハウスがどこなのかもわからない。慎重かつ狡猾なマグナのことだ、位置を知られないように隠蔽しているのだろう。
マグナと再び接触できる機会は、そうそうないに違いない。
「——行くしかない」
決意を固めた碧眼で、アレンはそばの少女を見る。
彼女は、ついていくのが当然と言わんばかりの表情でこくんとうなずいた。
前線の転移者たちはタイムラグの間に体勢を立て直し、再び戦闘を開始する。
アレンたちも例外ではない。しかし先と違うのは、コラルのアドバイスを授かったことだ。
(えーと……狼の弱点は角。オークは腹……蛇は……口の中か? そんでゲーミングスライムは全身弱点……)
勝手がわかればこちらのものだ。アレンは頭部に知らず固執するのをやめ、弱点部位を狙い撃つことで、敵を倒す効率が向上した。無理をして戦線の前へ躍り出たりしなければ、ミカンと二人だけでも凌ぎ切ることが十分できた。
そしてまた、モンスターの波が止み、しばしの小休止。
「ああ、ここにいたのかぁ。やっぱ人目避けてるんだ?」
そこへ。またしても来訪者が、草を踏む足音とともにやってきた。
「……誰だ? あんた」
「おおっと、そう警戒しないでよ。僕に敵意はない。ほら、武器も持ってないでしょ」
「じゃあなんだ、その手に持ったカードは……!」
「えぇ? 別に……手が寂しいから持ってるだけだよ。銃まで構えなくてもいいじゃない。まあ、僕は撃ってもらってもいいけどさぁ」
「なんだと?」
現れたのはどこか軽薄な雰囲気の、取り立てて容姿に特徴のない中肉中背の男だった。
ゲームの世界らしくないシャツを羽織り、薄ら笑いを浮かべ、トランプ大のカードを片手でくるくると回している。そのカードは両面とも、渦のような模様が描かれているだけのようだった。
(こいつ……どこか変だ。普通のやつに見えて、それが気持ち悪いっていうか……)
歳は二十歳過ぎくらいだろうか。
モンスターや、プレイヤーキラーとはまた別種。名状しがたいその独特の気配に、アレンは思わず銃口を向けていた。
「ア、アレンさん? そんな、銃まで向けなくってもいいんじゃ」
「む……」
「ほら。ミカンちゃんだってそう言ってるじゃない? 初対面でここまでされると傷ついちゃうなぁ。僕、結構ナイーブなんだ」
「確かになんか怪しくて信用できない感じですけど……」
「あれ? 味方いない感じ?」
危害を加えるつもりはなさそうだったため、とりあえずアレンは銃を下ろす。
だがインベントリに入れはしない。不審な動きをすれば、にやけた面に弾丸を叩き込む。
「お前、どうしてミカンの名前を知ってる。その距離じゃIDだって見えないはずだ」
「あ……ほ、ほんとです。どうしてわたしのIDを……ス、ストーカーさんですか?」
「待って待って、あらぬ誤解だよ! 教えてもらったんだよ、カズラちゃんにね」
「カズラ……ちゃん?」
「そうそう。アレンちゃんだって知ってるでしょ? アイテム屋にして情報屋——僕は、彼女とはちょっとしたツテがあってね」
疑わしい発言だ、とアレンは内心で訝しんだ。
神出鬼没のアイテム屋、カズラが誰かと組んでいるという話は聞いたことがない。連絡を取る手段も、彼女を通して依頼を寄越してきた<和平の会>ギルドマスターのレーヴンにはあったのかもしれないが、基本的にはないはずだ。
それともこの見知らぬ軽薄な男は、レーヴンに並ぶ大物なのか。アレンの第一印象で言えば、仕事もせずにぷーたらしてる昼行灯といったところだ。
しかしそれよりもアレンが聞き捨てならなかったのは——
「待て。アレンちゃんってなんだ。おい」
「え? ああ、精神的には男なんだよね。でも……ほら、今はそんなだし。いいじゃん。ハハ」
「よくないが!? 取り消せこら! 俺は男だ、ちゃんを付けるなちゃんを!」
「ええー? ハハ、細かいこと気にするなぁ。アレンちゃんってばさ! アハハハ——うわぁっ本当に撃ってきやがった!!」
「ふー……ふー……」
「お、落ち着いてくださいアレンさん! これじゃただの逆ギレです!」
「問題ない……峰撃ちだ」
「銃弾に峰もへったくれもありませんよぉっ!」
「相変わらずクレイジーだなぁ……。あやうくユニークスキルで防ぐところだったよ。SPがもったいない」
流石に狙いはわざとそらしていたので、銃弾は彼方へ飛び去っただけだ。誰にも命中はしていない。
だが男は本気で焦ったようで、傷のない自身の体を見下ろしてふうとわざとらしく息をついた。
「ま、いいや。アレンちゃんには個人的に言いたいことも色々あるけど、こっちも時間がないんでねぇ。要件だけさっさと伝えさせてもらうよ」
「始めっからそうしろ」
「なんて言い草! ひどいなぁ、せっかくアレンちゃんが気になる情報をわざわざ教えにきたっていうのにさ」
「またその呼び方を……! なに? 気になる情報?」
「そうだよ。<エカルラート>のことさ」
「——!」
思わぬ名に、アレンは驚きを隠せない。
ジークを殺したマグナのギルド。もしかすると、目の前の男もその悪名高いPKギルドの一員なのではないかとさえ疑う。
「これホント仄聞なんだけど、アレンちゃんってば<エカルラート>のギルドマスターとなんか確執あるんだって? プロゲーマー時代の元チームメイトだとかなんとか」
「だから……どうした」
「いいや? ただ——彼らが<和平の会>のギルドハウスに入っていったのを見たから、教えてあげようと思って」
「はぁ……!?」
さっきよりも強く、今度は声が出るほどに驚いた。アレンの横で、ミカンも「えぇっ!?」と派手なリアクションをする。
それを見て男は満足そうにうなずく。
「あれは一種の火事場泥棒ってやつじゃないかなぁ。この襲撃イベントに乗じた強盗……もっとも盗むのは金庫の中のお金とかじゃなくて、ギルドハウスのどこかにあるギルドフラッグだろうけど」
「その話は本当なのか?? いや……仮に本当だとして、どうして俺に教える!? それを真っ先に知らせるべきは、俺じゃなくギルドハウスの持ち主である<和平の会>のはずだ!」
「そんな『ナントカするべき』みたいな道理を語られてもねぇ。僕は別に、道徳的な観点からアレンちゃんにこれを伝えに来たわけじゃないし」
「じゃあ一体なんのためにだ! 俺にそれを教えて、なんのメリットがある!!」
「さあね? ただ止めるんなら急いだ方がいいよ、僕が確認してからもう数十分経ってる。フラッグが奪われるのは時間の問題——かもしれないね?」
まるでそうではないとでも言うように、妙な含みを持たせて男は笑う。
「なんだそれは……! 詳しく言え!」
「ああ、それに付け加えておくと、そろそろモンスターどもの波が来る頃だ。戦闘が始まればレーヴンと話す余裕なんてない、また波を一掃するまではね。どうするかはアレンちゃんの自由だけど、いつだって決断は急いだ方がいいものさ」
「あ、あなたは……その、戦線に加わって戦わないんですか?」
伝えるべきことは伝えたと、背を向ける。それを呼び止めるように、ミカンが問いをぶつけた。
ひょっとすれば夜に叩き起こされたのが嫌で二度寝を決め込んだ転移者もいるかもしれないが、多くの者は戦闘に参加している。モンスターたちを倒してまとまったSPを得られるチャンスだからだ。特にボスは1000SPという類を見ないほどの大盤振る舞い。
しかし男は振り返ることもせず、ずっと手慰みにくるりくるりと回していたカードを指で挟み、肩越しに見せつけて言う。
「僕はボーナスウェポンもユニークスキルもハズレを引いちゃってね。そんなわけで……ボスの姿もまだ見えないしこのイベントのことは気がかりだけれど、僕にできることはない。<和平の会>を始めとするほかの連中に任せるさ」
町の方角へ遠のいていく男。その後ろ姿はどこまでも平凡で、だからこそ底が知れなかった。
彼が去ると、ミカンは未だ考え込むように難しい表情を浮かべるアレンの顔を覗き込んだ。
「どうします? あの人のこと、信じてもいいのでしょうか……」
「わからない。けど……万が一にも<エカルラート>が姿を表したのなら——」
火事場泥棒とあの男は評した。それが事実だとして、こうも突発的に起きたイベントに対して即座に行動を起こせるだろうか。
事前にこの襲撃イベントが起こると知っていたならばまだしも。
しかし、<エカルラート>はギルドハウスがどこなのかもわからない。慎重かつ狡猾なマグナのことだ、位置を知られないように隠蔽しているのだろう。
マグナと再び接触できる機会は、そうそうないに違いない。
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