ぐーたら聖女はキューピッドになりたい ~婚約者と妹が両想いなようなので全力で応援します~

桐谷

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閑話4.聖女さまの休息

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聖女交代に伴って起きた地方での混乱も収まり、現状維持段階に入れば無理なスケジュールでの地方訪問もなくなり段々と余裕ができてくる。週に一度は屋敷に帰れるようになったし、王子とのお茶会も無理に予定を調整する必要がなくなった。

基本的なスケジュールは午前と午後に行われる二度のお祈り。後は豊穣祭など季節に合わせた行事に向けた準備くらいのものだが、それも聖女が自らやることなど殆どない。

そう、つまり、暇なのだ。

何なら毎日タウンハウスから通ってもいいのではないのかと思うところだが、そもそもこれだけ頻繁に実家帰りすること自体が異例で本来なら余程のことがなければ大聖堂内の聖女宮から出ないものだと諫められ、これ以上主張すると実家帰りも減らされそうな気がしたのでセラフィは余計なことは言うのはやめた。

時間に余裕がある今、本来なら王子妃教育でも受けるべきなのだろうが、正直あまり乗り気になれずのらりくらりと躱しているところだ。幸い今のところそこまで急かされてもいない。いつか逃げられなくなる日が来るとは思っているが、今はまだのんびりしていたい。

「こんにちはセラフィ、元気にしてた?」
「レイナさま!」

聖女宮の自室で過去の資料を眺めるフリをしながらお茶をしていると軽快なノックと共に返事を待たずに扉が開いた。この場所でセラフィに対してそんな気安い態度をとれる人物は一人しかいない。開いた扉の向こうでは先代聖女レイナがひらひらと手を振っていた。
レイナは元々平民出身で17歳で聖女を継いだ後およそ30年間その務めを果たした。セラフィが聖女を継いだ翌年に正式に任を解かれてからは各地の教会を巡っていたのだとセラフィは聞いていた。

セラフィは椅子から立ち上がるとレイナのもとまで駆けて行き勢いよく飛びついた。セラフィにとってレイナは偉大な先代であり、母や姉のようにも思っている人だ。

「お久しぶりです! またお会いできて嬉しいです。いつまでこちらに滞在されるんですか? ずっといてくださってもいいんですよ」

髪が乱れるのも気にかけず、猫が主人に甘えるかのようにぐりぐりと額を擦りつけながら甘えたように捲し立てる。レイナはこんなことではしたないと叱ったりはしないことをセラフィはよく知っている。

「あははっ! 5年たっても甘えたは健在ね。ずっとは無理だけど長めに滞在するつもりよ」

セラフィの頭を優しく撫でる姿は我が子を慈しむ母のようだ。レイナはこれまでパートナーを持たなかったこともあり、セラフィのことを本当の子供か孫のように思っていた。そして、そんな小さな子供に重責を担わせることを後ろめたくも思っていた。

レイナが自らの力の衰えを感じ始めたころ、女神から次の聖女が見つかったことを知らされた。そうして連れてこられたのがまさか幼女と言って差し支えない3歳の子供だとは思ってもみなかった。この子がもう少し成長するまでどうにか持ちこたえることができないかと努めたが力の衰えは止まらず、結局3年しかもたなかった。その頃には無理が祟って体調も崩したしその結果民への影響も大きかった。
その皺寄せが全てセラフィの肩に乗り、衰えた土地を立て直すのには倍の時間を要した。
セラフィが聖女を継いで6年、彼女の人生の半分は求められるままに民の為に消費された。それが聖女の責務であることはレイナも重々承知している。だが、それはそれだ。民の生活も落ち着いた今、レイナは思い切りセラフィを甘やかしてやりたい。聖女にだって休息はあって然るべきだ。だから先代の聖女であり、人生の先輩としてやり残したこと、適度に気を抜く方法を教えにきた。

「さ、こんなところに籠ってないで、庭に出ましょう!」

それから数日、こっそり聖女宮を抜け出しては護衛騎士に叱られる二人がたびたび見られたとか。
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