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第10話 衝撃!金縛り姦!?・その2

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 心臓のバクバクが止まらない。先生の先端が俺のそこにぴったりと触れている。
 相変わらず俺は金縛りにかかったままだ。閉じた目蓋越しに見える先生の顔もぼやけているし、全身が淡く痺れているような感覚も続いている。だけど動けなくて声も出せない状態なのに、先生が触れているそこだけはまるで起きている時以上に敏感になっていた。

 ──早く。先生、早く。

「黎人っ、……」
「んっ──!」
 ズププ、と先生のマグナムが俺の中に挿入されて行く。内側を擦られる感覚はいつもの倍以上……挿れられただけでイッてしまいそうだ。

「ふ、あっ! 先生っ……ゆっくり挿れるの、今は凄く……駄目ですっ……!」
 喉から叫んだつもりでも、実際俺が出しているのはくぐもった呻き声だけだ。もちろん先生には伝わっておらず、俺の中を貫く速度は変わらない。
「こ、擦れるのっ、……じんじんして、えぇっ……!」
「いつもより締め付けが強いな。無抵抗の状態で犯されて感じてるのか黎人、エロい奴」
 ぼわん、ぼわんとしたエフェクトがかった先生の声。その声すら気持ち良くて堪らない。

「んっ、う……あぁっ。感じてます、せんせ……俺、ぇっ……!」
 奥まで入った先生のペニスが、またゆっくりと引き抜かれる。最上級の快感──鳥肌が立つほど全身が痺れて、危うく気を失いそうになってしまった。
「黎人っ……、黎人……」
 そうして先生の腰が速まり、俺は開いた内股をビクンビクン痙攣させながらその快楽に身を委ねた。一突きされるごとに体の中がスパークするみたいだ。こんなに余裕がないのに、俺の中を貫く先生のペニスの形がしっかりと感じられる。熱くて気持ち良くて、物凄く幸せで……。

「せんせ、好きっ……愛してます、先生っ……」
 今の先生には届かない、俺の心からの気持ち。
 俺の荒唐無稽なお願いをしっかりと聞いてくれた夜城先生への、めいっぱいの愛の言葉。

「あー、堪んねえ。金縛り中の黎人のケツ、マジ最高……あー、すげ……」
 全っ然通じてないけど、……いいんだ。この状況を望んだのは俺なんだから。

「……でも、何か物足りねえな……」
 先生の呟きが遠くに聞こえて、俺の意識がピクリと反応する。

「黎人、このまま起きねえのか? もう充分だろ、起きてくれよ」

 ──先生。

「睡眠姦も悪かねえが、やっぱお前と目を合わせたセックスがしてえ。……黎人」
「あ、……」
「俺の顔を見て、声を聞かせてくれ」

 先生──。

「……せ、んせ……」
「黎人……?」
 あんなにも待ち望んでいて、こんなにも気持ち良かった金縛り姦なのに。
 先生のその一言で、あっという間に俺の金縛りは解けてしまったようだ。

「ん、あ……」
 全身の痺れが徐々に消えて行く。深いところで微睡んでいた意識がはっきりと覚醒し始める。
 靄がかかっていた先生の顔が、みるみる俺の目の前で鮮明になって行く──。

「先生っ……!」
「黎人……!」
 俺はさっきまで一ミリも動かなかった両腕を先生の背中に回し、その逞しい体に強く強くしがみついた。
「……は。起きたのか黎人」
「先生、気持ちいっ……すげえ気持ち良かった、……もっと気持ちいいの欲しっ……」
「欲張り小僧だな」
「──んっ、あ! あっ、ああっ!」
 金縛り中も最高だったけど、やっぱり言葉が交わせる、目と目を合わせることができるって幸せだ。今更だけど、セックスって二人でするものなんだと心から思えた瞬間だった。

「先生、大好きです……。ずっとずっと傍にいさせて下さい、お願いします……!」
「当たり前だ」
 ゆっくりと腰を前後させながら、先生が俺の前髪をかきわけて汗ばんだオデコを撫でてくれた。
「愛してるぞ黎人」
「あ、うぅ……泣きそうです、……せんせぇ、おれほんとに、しあわせでっ……」
 涙でぐしゃぐしゃになった俺を見て先生が苦笑し、何も言わずに優しいキスをしてくれた。
「ん、んん……」
 先生にしては控えめに絡む舌が心地好い。俺の中に収まった硬いペニスが更に奥までグッと入ってきて、俺はその圧迫感と温かさにこの上ない喜びと愛情を感じていた。

 大好きだからどんなプレイもしたいしさせてあげたいし、大好きだから普通のセックスがこんなに幸せに思える。
 ……結局何をしても幸せだということだ。


 *


「はあぁ……もう腰が痺れて砕けて動けません……」
 ベッドの上でうつぶせになった俺は、両手をバンザイの格好に伸ばして「はっふ」と大きく息をついた。先生がストローをさしたボトルの水をくれて、一口、二口と飲み込んでゆく。

「金縛り姦は成功か?」
「もう凄かったです……。全身が性感帯になったみたいに触られるとびりびりして……」
「ふむ。薬で朦朧としているところをヤられた感じか?」
 俺の隣では全裸のまま、先生が仕事用のノートを枕の上に開いてペンを走らせる。俺より運動量が多かったはずなのに、疲れていても仕事の頭になると瞬時に行動できるから不思議だ。普段は人一倍気だるげな癖に。

「薬で朦朧と……っていうのがまず経験ないので、分からないですけど……。多分それよりもっと気持ち良かったですよ」
「俺が何をしているか全て分かってたのか?」
「あんなに気持ちいいフェラは初めてでした! 金縛り解けないようにちょっと急ぎ足だったのが勿体ないくらい」
 そうか? と先生がメモをしながら俺を見た。

「お前が全く起きねえから、だいぶ時間かけて前戯したんだがな。フェラで一回、指で前立腺弄って二回、前戯だけでも三回イかせたぞ」
「えっ、記憶にないですけど……」
「一時間くらい弄り倒しても起きなかったな。仕方なく挿れたらすぐ起きたから、ああ死んでなかったと思って安心したが」
「え」
 全く、これっぽっちも記憶にない。先生に気持ちいいことされたのは覚えてるけれど、そんな三回もイかされたなんて……全然知らない。

「せ、先生……『お前と目を合わせてセックスしたい』って言って、だから『起きてくれ』って、俺のこと起こしましたよね……?」
「いや、『死姦してるみてえで不気味だから起きろ』とは言ったが……」
「っ……!」

 じゃあ、俺のあの甘い記憶は……先生の泣けるほど甘い言葉は……。

「ぜ、全部……金縛り特有の、……ゆ、夢……」

「良い夢だったか?」
「ふっ、複雑ですっ!」
 うつぶせの状態から思い切り上体を起こしたせいで腰に激痛が走り、俺は「うっ」と声を詰まらせて再びベッドに寝そべった。

「うぅ……気持ち良くてもすぐ終わる夢じゃ意味がないです……。でも先生のあの嬉しい台詞を聞けただけ夢でも得したと思えるし……でも現実じゃないなら空しいだけだし……」
「じゃあ結局、金縛り中の快感てヤツも現実かどうかは分からねえんだな」
 先生がノートを閉じて肩をすくめる。手品の種明かしを喰らった子供と同じ、「なぁんだ」の呆れた顔だ。
「そうかもしれませんけど……。でも俺は、何よりも大事なことに気付かされたからいいんです」
「大事なこと?」
「うひひ」

 もしかしたら「目を見て言葉を交わしながらセックスしたい」と強く思っていたのは、夢の中の先生じゃなくて俺の潜在意識だったのかもしれない。
 俺は先生と意思疎通ができないというだけで、心のどこか気付かないところで無意識に不安になってしまったのだ。だから金縛りが解けて意識が覚醒した時、あんなに嬉しくて幸せで安心できたのかもしれない──。

「先生、大好きですよ」
「おう、俺も大好きよ黎人」
 心で通じ合える幸せ。それを知れただけで、金縛り姦を試した甲斐はあった……と考えないと。

「結局俺のはただエロい夢を見たってだけですけど、設定に凝れば割と先生の創作にも生かせそうですよ。幽霊が金縛りからのセクハラをしてくるとか、そういう話で」
「……何となくコメディ寄りな話になりそうだな」
「そこを怖い話にするのが先生の仕事ですね」
 俺はごろりと体を回転させ、隣で寝転がっていた先生に横から抱きついた。体に少し残った汗の匂いが大好きだ。その癖っ毛も、冷めた半開きの目も、だけど俺を見て少し笑ってくれている口元も。

「俺のお願いきいてくれて、ありがとうございました」
「構わねえさ、俺の大事な恋人だからな」

 ああ、幸せ。

 幽霊も金縛りも、隣に先生がいれば全然怖くなんかない。


 第10話・終
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