【BL】Real Kiss

狗嵜ネムリ

文字の大きさ
59 / 157
第9話 バブル&スイート

5

しおりを挟む
 *

「風呂、沸いたぞ」

 午後八時、夕食後。
 買い物が終わってからすっかり無口になっていた俺を、当然頼寿は訝しがっていた。何度も「どうした」「具合悪いのか」などと訊かれたけれど、もちろん本当のことは言えず、首を振るしかなかった。

 嫉妬してるなんて言えるわけがない。
 散々腹を立てて悪態をついてきたのに「誰かの物になっているというのは気に入らない」なんて、許されるわけがない。

「お前が選んだ入浴剤が本番に使えるか試すぞ。さっさと脱いで風呂場に来い」
「……うん」

 頼寿が好きなわけでもないのに嫉妬しているというのは、すなわち「自分専用」だと勝手に思っていた頼寿を他人に横取りされた気分になったからだ。それは完全に俺のワガママで、頼寿にも失礼な話である。

 ──世の中は俺の知らないことばっかりだ。

 集団社会の中をまともに生きていたら、こんな気持ちとも上手く向き合えるようになっていたのだろうか。
 俺一人じゃ重すぎて、心が潰れてしまいそうだ。

「無駄にデカい風呂だから、二人で入ってもまあ窮屈じゃねえな」
 頼寿が湯船の中で脚を伸ばしているせいで、俺は端で丸まるしかない。
 膝を抱えて温まっているフリをしていると、頼寿が脇に置いていた丸い入浴剤を俺に渡してきた。

「ほれ、入れろよタマちゃん」
「う、うん」
 俺の手のひらくらいある、大きな入浴剤。ドボンとお湯の中に沈めるとたちまち細かな泡が噴き出し、しゅわしゅわと音を立てて溶け始めた。
 同時に中に詰まっていた薔薇の花びらが湯船に広がるように浮いてきて、浴室中が薔薇の柔らかな香りに包まれる。

「いい匂い……」
「悪かねえな、たまには」
「本番に使えそう?」
「まあ、想像してたよりは見た目もいいかもしれねえな。泡風呂と迷うが……アッチは甘ったるい匂いで俺が耐えられそうにねえ」
 バスバブルはキャンディの香りだ。確かに頼寿には酷な匂いかもしれない。

「じゃあ、本番もこの入浴剤にしよ。二個買っといて良かったじゃん」
「どうしたよ、やけに乗り気だな」
「……べ、別に」

 視線だけでそっぽを向くと、頼寿が口元を緩めながら湯船の中で俺の腕を掴んできた。

「もっと寄れ」
「っ……!」

 慣れた手で俺の腰を支えて持ち上げ、自分の上に向かい合うようにして座らせる。一気に距離が縮まって焦ったが、俺の口からいつもの罵倒は出てこなかった。

 俺と頼寿の、男のそれ同士が触れ合っている。

「………」
「オイル入りの入浴剤だったか? 肌が光って見える」
「あ、洗い流さなくていいんだって。肌がしっとりするんだって、……」
「玉雪の体がより滑らかに柔らかくなるってことか。今後は入浴剤にも気を使わねえとな」

 頼寿も恐らく気付いているだろう。
 こんな至近距離で抱きしめられながら、俺が何の抵抗もしていないということに。

「………」
 だからか、探るような目で俺を見ながら、頼寿が俺の体を更に自分の方へと抱き寄せた。

「薔薇の味になってたら面白れえのにな」
「あっ……」

 そうして薔薇の花びらよりも薄い色の乳首が、ゆっくりと口に含まれる──。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...