東京ナイトスパロウ

狗嵜ネムリ

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東京ナイトスパロウ・13

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「それでな、あのなー、松岡さんが言ってた。俺には相方付けないで、複数プレイとかするんだってさ」
 昼食は近場のファミレスでとることになった。雀夜の正面に座った俺は、パスタを頬張り、口をモグモグさせながら頬杖をつき、第一日目の仕事の感想や今後の予定なんかについて、ひっきりなしに喋った。
「複数ならある程度はされるがままになってればいいから楽だけど、人数分のチンコ咥えないといけないから顎が痛くなるんだよね」
「桃陽」
「なに?」
 雀夜が大盛ライスのステーキセットに箸を伸ばしながら言った。
「口に物を入れて喋るな。肘もつくな。それから、公共の場で堂々とそんな話をするな」
「あ……」
 俺は慌ててテーブルから肘をどかす。
「……意外と真面目なんだね」
「育ちが知れるぞ。飯の食い方ってのは、そのまま人間を表すからな」
「気を付ける……。でもさ、仕事中は雀夜とゆっくり話せないんだもん。恋敵の遊隆がいるしさ。休憩、一時間しかないって思うといっぱい喋りたくなる」
 むくれる俺を、雀夜が笑う。
「遊隆はお前の恋敵なのか。あっちはそんなこと微塵も思ってねえだろうよ」
「だって俺の雀夜を独り占めするなんてズルい」
「いつから俺はお前のモンになったんだ」
 ニコッと目を細めると、雀夜は溜息をついて水の入ったグラスに手を伸ばした。
 そしてふいに俺を見て、思い出したように言った。
「近いうちに仕事終わった後、俺の部屋来るか?」
「雀夜の部屋? 行きたい! 今日行く!」
「今日は俺の仕事が遅くなるから無理だ。時間取れる時に、ゆっくり話聞いてやるよ」
「どうしたの? やけに優しいじゃん」
「定期的に優しくしねえと、突然辞められたら困るからな」
「なんだ、俺のこと好きになった訳じゃないのか」
 それから俺達は食事を終え、一服してからビルに戻った。
「あっ、雀夜。探したんだぞ」
 事務所で俺達を待っていたのは遊隆だった。
「どうした、何かトラブルか?」
「いや。午後からの撮影が例のスタジオに変更になったから、早めに移動しねえと」
 撮影、か。また遊隆は雀夜とセックスするんだ。……羨ましい。
「ふぅん。移動は面倒だけど、あの辺の店は飯が美味いからな」
「な! また帰りに焼肉食ってこうぜ。桃陽も後で合流して、一緒に来るか?」
 遊隆がニッと笑って俺の顔を覗き込んだ。明るくて優しくて、どこまでも健康的な笑顔。きっと、世界に何の不満も持たずに生きてきたんだろう。そんな笑顔だ。
「……ううん。俺はいい」
「そうか、残念だな」
 捨て犬のようにシュンとなってしまった遊隆に、俺はハッとして顔を上げる。
「なぁなぁ、遊隆。今度は雀夜に掘られて動けなくならないように、もっと鍛えてきたの?」
「なっ、……動けなくなんかならねえよっ」
「どうかな。遊隆は俺と違って、ネコ役はまだまだ未熟者だもんなぁ」
「も、桃陽っ」
「あはは」
 呆れ顔で溜息をつく雀夜。赤面して怒る遊隆。
 俺は笑ってるのに、……胸が痛い。
「そんじゃ遊隆、行くか」
「お、おう。じゃあな桃陽」
「いってらっしゃい」
 俺は松岡さん達と打ち合わせだ。事務所を出て行く雀夜の背中を寂しい思いで見送りつつ、雀夜の家に行くというさっきの約束を思い出して、思わず頬を弛めた。
 きっとその時、雀夜とセックスすることになる。部屋に上がるって、そういうことだ。約二週間ぶりの雀夜の体……想像しただけでとろけそうになる。
「桃陽、午前中の撮影どうだった?」
 夢現の中でぼんやりしていると、松岡さんが苦笑して言った。
「……あれくらいなら、どうってことないか」
「えっ、あ、はい……全然ないです」
 しまった、あんまりよく聞いてなかった。
「それで、本格的な動画撮影の話になるが……桃陽は多少の演技なんかはできるか? 例えば全力で抵抗したり、本気で嫌がったり」
 頷きかけ、首を捻る。
「うーん、できるけど……途中で気持ち良くなったら、普通に感じちゃうかもしれないです」
 松岡さんの隣に座っていた義次さんが「それも一興じゃないですか」とにこやかに言った。
「そうだな。あんまり桃陽にひどいことしても、売り専時代の客からクレーム来るかもしんねえし……」
「あのー、松岡さん」
 俺は控えめに手をあげ、自分の考えを口にした。
「レイプ系の話をしてるんだと思いますけど、それよりも俺は、複数人相手にやる気全開モードでいった方が、全体的にエロい感じになっていいと思うんですが……」
 松岡さんが腕組みをして首を傾げた。
「嫌がるどころか、乗り気になるってことか?」
 俺は頷き、座ったまま身を乗り出して不敵に笑った。
「俺ならたぶん実際にレイプされても、気持ち良ければ乗り気になっちゃうと思うから」
「……なるほどな。相手が誰だろうと、何人いようと、関係ねえってことか」
「そういうこと。全然好みの男じゃなくても、気持ち良ければ大丈夫!」
 無表情で頷く松岡さんの横で、義次さんは驚いたように目を丸くしている。
「桃陽は本当にセックスが好きなんだなぁ」
「ふふ」
 当然だ。ずっと昔から、セックスは俺にとって生活の一部。食事や睡眠と同じ、息をするのと同じなのだ。長年の習慣は、そう簡単に変わることはない。
「それじゃあ、和姦の3Pでいくか。メインはあくまでも桃陽だ。他のモデルは目立たないような奴を用意する」
「……そうだよなぁ。いい男がいたら、お客さんはそっちに集中しちゃうもんな……。複数の中に雀夜が紛れ込んでくれる可能性はゼロかぁ」
 この期に及んで雀夜の名前を出すと、松岡さんの無表情が少しだけ弛んだ。
「桃陽はそんなに雀夜が好きか」
「大好き!」
 間髪入れずに即答する。更に松岡さんの顔が柔らかくなった。
「あいつがここまで誰かに好かれるなんて珍しいな。どっちかって言うと、雀夜は嫌われ役だからな……」
「意地悪で素っ気なくて厳しいからでしょ? でも俺としてはライバルは少ない方が助かるから大丈夫。もっと嫌われまくって欲しいくらいだよ」
「そういや松岡さんて、雀夜と同じ高校だったんですよね」
 義次さんの聞き捨てならない発言に、俺は目を見開いて身を乗り出した。
「そうなのっ? もしかして松岡さん、雀夜と同い年?」
 だとしたらかなり若い歳で、この会社を作ったということか。そういえば雀夜だけが、松岡さんのことを「幸城」と名前で呼んでいる。
「いや、俺の方が二つ上だ。だから高校では一年しか被ってないが……。ま、それなりに交流があってな」
「松岡さん、雀夜とヤッた? 雀夜って昔からセックス上手かった?」
「………」
「直球すぎるよ、桃陽。代表に向かってそんなことを大声で……」
 俺の質問に、義次さんが焦ってフォローを入れた。周りのスタッフもうろたえ、だけどみんな興味津津な顔で松岡さんの答えを聞き耳立てて待っている。
「……さぁ、どうかな。教えねえよ」
「うー」
 はぐらかされ、俺は頬を膨らませてソファに深くもたれた。
「そんなことはどうでもいい。桃陽、雀夜に惚れるのは勝手だが、くれぐれも私情を仕事に持ち込むなよ?」
「分かってますって。好きな奴がいながら他の男に抱かれるのなんて、昔から慣れてますもん……」
「………」
 自分で言って、悲しくなった。何だか惨めすぎる。
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