天獄パラドクス~夢魔と不良とギリギリライフ

狗嵜ネムリ

文字の大きさ
34 / 64
#5 エロス&インテリジェンス

しおりを挟む
「今回は被害者も少ないだろうけど、他のユーザーの為にも攻略サイトを作ってあげたらいいんじゃない?」

 面倒だけど、真相を知っている俺にしかできないことだ。これ以上の被害者を出さないようにゲームそのものを抹消したいけれど、サバラ曰くそれは時間の問題らしい。悪徳業者と同じように、目的の物を回収できるだけしたらさっさと姿を消すからだそうだ。

「だけどいきなりトンズラされたら、クリアできなかった被害者の視力は戻らないんじゃないのか?」
「ゲームにかかってる呪いがどの程度か分からないけど……。多分、今回のは向こうも遊び心でやってることだと思うからそれはないんじゃないかな。救済処置として、呪いを解除したゲームだけポツンと残るのかもね。とにかくクリアできればいいんだよ」
「奪った視力も結果的に全部元に戻されるなら、ますます何のためにやってるんだか」
「試作段階のテストみたいなモンなんじゃないかな。炎樽くん含め運悪く波長が合ってゲームを見つけちゃった人間が、勝手にテストプレイヤーにされてるんだよ」

 めちゃくちゃ迷惑な話だ。俺にはたまたまマカロやサバラのような味方がいたから対処できたけど、一般のプレイヤーは恐らく原因も知らずに泣き寝入りするしかないじゃないか。

「……攻略サイト作って、絶対に全プレイヤーの呪いを解いてやる」
 決意を固めたその時、四時限目終了のチャイムが鳴った。

「……昼休みだね。結界を張ったらマカロの防御魔力も発動しなくなっちゃうけど、どうする?」
 どこか楽しそうにサバラが言って、俺は眉間に皺を寄せながらしぶしぶ眼鏡をかけた。

「マカ、他の生徒が来るかもしれないからどこか別の場所に移動しよう」
「んー、あとちょっとだけ……」
 うつ伏せになってゲームをやりながら、短い足をぶらつかせるマカロ。取り敢えずベッドに散らばったお菓子の残骸を片付けてからもう一度声をかけると、再び「あとちょっとだから」と言われた。俺のためにやってくれていることは分かっているが、いつ生徒が来るとも限らない。子供にゲームを止めさせたい親の気分だ。

「そんな恰好で転がってゲームしてたら風邪ひくぞ」
「おれ、服着てるよ」
「あ、そうか……。もう、面倒臭せぇ眼鏡だな!」

 ゲームを操作し続けるマカロを抱えて、保健室のドアからそっと廊下へ出る。昼休みのくだけた風景の中で生徒は全員全裸だけど、ここが一年校舎だからか、近くに三年生はいないみたいだ。


 今では魔力を消費しすぎて、マカロは子供どころかぬいぐるみのようなサイズになっている。その小さな手でのゲーム操作は相当大変そうだが、万が一誰かに見られてもこうして抱えていれば、キャラクターのぬいぐるみと思ってもらえるかもしれない。

「ほたる、揺らさないで」
「ご、ごめん」

 愛らしく整った顔の、アイドルみたいな一年生たち。きゃっきゃと騒ぎながら全裸で廊下を歩いているその姿は、まるで絵画の中の天使の子供みたいだ。幸いにも俺のゾーンには入らないタイプだから、まだこうして落ち着いていられるけれど……

「ここでもし彰良先輩と遭遇したら、今度こそ鼻血噴くだろうな……」
「ほたる、あと1ステージでラスボス面だぞ!」
「ほ、ほんとか! マカ、凄い!」

 とにかく人が来ない所へ。全裸の生徒達の間を縫うようにして通り抜け、何処か良い場所がないかと辺りを見回す。──結局、今日も昼飯は食べられそうにない。


「あっ、可愛い!」
 丁度すれ違った一年生の集団が俺を振り返って言った。
「先輩、その人形何ていうやつですか?」
「え? こ、これのことか?」
 胸に抱いたマカロは無言でゲームに集中している。一年生たちからは画面が見えてないせいで、変わったデカめのスマホアクセサリーと思われているらしい……が、このままだとマカロが生き物だとバレてしまう可能性の方が高い。

 ──いや、そんなことよりも。

「わ、可愛い。こういうキャラクター好き」
「バンドのグッズみたい。羽と尻尾が悪魔っぽいし」
「いいな。先輩、どこで買ったんですか?」
「あ、いや、……その、……」

 素っ裸の一年生たちに囲まれ、ぐいぐいと迫られ、俺はその迫力につい後ずさってしまった。年下は好みではないといえど、手入れされた艶々の肌は彰良先輩のそれと同じくらい眩しい。というかこの一年達、下の毛も手入れしてるのか……

「先輩っ」
「先輩、先輩っ」
「や、やめろ……くるなっ……」

 じりじりと悪意のない彼らが距離をつめてくる。マカロはちゃんと無反応を決めてくれているが、こういう時にこそ「透明の香水」でも出してくれたらいいのに。

「何やってんだ、お前ら!」
「えっ……」

 廊下の奥から駆けてきた全裸の男を目にした瞬間、俺は危うく卒倒しそうになった。

「あっ! 天和先輩だ!」
「天和先輩!」
「先輩先輩っ、お昼ご飯一緒に食べませんかっ?」

 手のひらを返したかのように、目の色を変えて天和に群がって行く一年生たち。彼らも天和も全裸なせいか、見てはいけないものを見ているようで顔が真っ赤になってしまう。

「炎樽? 何してんだお前!」
 俺が堂々とマカロを抱いているのを見て、天和が目を丸くさせている。それから群がってきた一年達をかき分けるようにしてこちらへ来て、眼鏡をかけた俺をじっと見つめ──

「なるほどな。なかなかエロいじゃねえか」
 悪巧みを企む鬼の顔で、ニヤリと笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...