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#8 男子高校生の夏休み
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体育祭の後で制服も夏服になり、梅雨も明けていよいよ夏休みが目前に迫っていた。
学ランを脱ぎ身軽になった俺の頭上には、七月の爽やかな青空が広がっている。先月から「正式に」付き合うこととなった天和との関係も良好で、今年は天和にとって高校最後の夏ということもあり……何か特別な思い出を残せたらと今から二人で考えている。
七月三日、金曜日。
「泊まりでどこか行けたら楽しそうだけど、海と山と迷うなぁ。天和はどっちがいいとかあるか?」
「どっちでもいいぜ。両方好きだし」
まだまだ日の高い午後四時、俺達は学校近くのファストフード店、ファニーズバーガーで軽食を取りながら夏休みの予定を話し合っていた。
「天和って受験しないんだっけ? 夏休み遊んでて大丈夫か?」
「ああ、卒業後は一旦兄貴の所で働く予定だからな」
「お兄さん、南米にいるんだっけ」
「今はメキシコだったかな」
卒業後に短期間とはいえ日本から離れてしまう天和。帰りを待つのは親で慣れているけれど、今からしばしの別れが決まっているというのは少し寂しい。まだ付き合って一か月。二人で迎える初めての夏休みだし、それならやっぱり、この夏で良い思い出を作りたい。
「……海にしようか、せっかくの夏だし」
「よっしゃ」
「マカも連れてってやるからな。こっちの海、見たことないだろ」
そう言って視線を落とした先には、ジュースのカップを背もたれにして一本のフライドポテトを両手で抱えたマカロがいた。ポテトの先端に一所懸命がっついているマカロは、おにぎりに続いてこの味が相当気に入ったらしい。
「海! 行ってみたい!」
「じゃあ、あのエセ保健教諭も誘えよ」
天和が言うと、ポテトを喉に詰まらせたらしいマカロが「んぐっ」と胸を叩いた。
「なっ、何でサバラもっ?」
「運転手とスポンサーと、お前のお守り役だ」
「えー。だってサバラ来たら、絶対に炎樽と天和のこと邪魔するぞ。そのくせに夜はベッドの横で張り込むぞ」
「種取らしてやるよ、いくらでもな」
「ほ、本当かっ?」
そんな約束して大丈夫かなぁ、と俺はテーブルに頬杖をつき、コーラのストローを咥えた。
夢魔であってもどこか浮足立ってしまう、夏。
「へえ、海に旅行か。いいね」
「サバラってこっちで免許持ってるの?」
「だいたい飛んでくから車は要らないと思ってたけど、人間の大人の男として振る舞う時にはあった方が便利だと思ってさ。一応、運転免許は取得してるよ」
自慢げに言うサバラだが、それが却って天和に「利用」される要素になるとは思っていない。
場所をファストフードから俺の家に移して四人で集まり、夏の計画を立てているのだが。
「どうせなら可愛い男の子がいっぱいいる所がいいだろう。目の保養にもなるし、あわよくば的なものもあるし」
「サバラってそれしか考えてねえもんな!」
「誰かさんが、俺に抱かれるの拒否するからなぁ……」
「う、うるさい!」
言い合うマカロとサバラの間に何があったかは知らないが、どうやら「それなり」のことは起きていたらしく、お互いを見る目付きが以前と比べて少し柔らかくなっているのに俺は気付いていた。夢魔も恋する夏、ってことだろうか?
「とにかく夏休みが始まったらすぐに発とう! 八月の頭には母さん達も帰ってくるって連絡来たし、それまでたくさん遊んで夏を満喫するぞ!」
*
そんな訳で、七月二十日。
俺達はサバラの運転する車で地元を飛び出し、県を越えて緑あふれる海沿いの町の別荘へと辿り着いた……のだけれど。
「サバラが格安で買った別荘って、これ?」
「ああ、そうだが。文句あるか?」
四人で見上げたその家は、今にも朽ち果てそうな洋風お化け屋敷だった。一体何十年前に建てられたのだろう。白い木製の壁に赤い屋根で、当時はそれなりにオシャレで綺麗だったかもしれないが、とにかく今は心霊スポットにしか見えない。
「………」
沈黙する俺達三人を見て、サバラがむくれたように腕組みをした。
「文句がある奴は野宿だ。雨風しのげるだけ有難いと思え」
「雨降ってないし……」
「まぁ、仕方ねえだろう。来ちまったモンは」
天和が車から荷物を下ろすのを見て、俺もそれを手伝った。今から宿を取るにしても夏休み中でどこもいっぱいだろうし、何より「別荘に泊まる」という皆のテンションが台無しになってしまう。
ここは無理にでも盛り上げないと。
「で、でもさあ! ボロくてもレトロな感じだし、海も近いし、中は掃除すれば綺麗になるよな! 庭も広いからバーベキューもできるじゃん!」
「炎樽くん、ありがとう……さりげなくボロいって言われたけど」
「掃除しよ、全員で手分けすれば早く終わる!」
運よく倉庫にあったモップとバケツを手にしながら、俺は目の前のデカい別荘を見上げてごくりと息を飲んだ。……果たして、一日で終わるだろうか。
「炎樽。俺、頑張るからさ。ちゃっちゃと終わらせて遊ぼうぜ!」
「マカ、何か夢魔印の掃除用具とかないのか? 一瞬で掃除を終わらせられるようなやつ」
「ご、ごめん……そういうのはないかも」
「いや、いいんだ。頑張ろう」
そうして夏休み第一日目の大掃除が始まった。
汲んできた水を床にぶちまけ、デッキブラシでごしごしと擦る。テーブルや椅子を外に運んで丁寧に水拭きする。窓ガラスを洗剤を使って拭き、溜まった埃をほうきでかき出す。
この暑い中休むことなく働く俺達は全員、滝のような汗を流していた。
「暑いー!」
一番最初にギブアップしたのはマカロだ。いつもの黒い服が太陽光を受けて更に熱くなっているらしく、止まる間もなくぽんぽんと脱ぎ始める。
「パンツ一丁マン、登場!」
「ガキか……」
ぎゃははと笑いながら、下着一枚になったマカロがホースの水を俺に向けて噴射させた。
「わっ、やめろ、マカ!」
「炎樽も脱げ! 気持ちいいぞ!」
「お、俺はいいから!」
天和とサバラも早々に上半身裸になっている。町から離れた場所ではあるけれど、時折近くの通りを走る車の中で俺達を笑っている人がいると思うと少し恥ずかしかった。
結局マカロにびしょ濡れにされて、俺もシャツを脱ぐ羽目にはなったが……これはこれでまあ、恥ずかしささえ気にしなければ良い思い出になるだろう。
「サバラ、部屋は二つあるんだろうな」
「もちろんあるさ。鍵はかからないけどね」
頭にタオルを巻いた天和が、モップを手にサバラを睨みつける。
「……まぁ、マカと約束したからな」
「え、何を?」
「あんたには教えねえ」
学ランを脱ぎ身軽になった俺の頭上には、七月の爽やかな青空が広がっている。先月から「正式に」付き合うこととなった天和との関係も良好で、今年は天和にとって高校最後の夏ということもあり……何か特別な思い出を残せたらと今から二人で考えている。
七月三日、金曜日。
「泊まりでどこか行けたら楽しそうだけど、海と山と迷うなぁ。天和はどっちがいいとかあるか?」
「どっちでもいいぜ。両方好きだし」
まだまだ日の高い午後四時、俺達は学校近くのファストフード店、ファニーズバーガーで軽食を取りながら夏休みの予定を話し合っていた。
「天和って受験しないんだっけ? 夏休み遊んでて大丈夫か?」
「ああ、卒業後は一旦兄貴の所で働く予定だからな」
「お兄さん、南米にいるんだっけ」
「今はメキシコだったかな」
卒業後に短期間とはいえ日本から離れてしまう天和。帰りを待つのは親で慣れているけれど、今からしばしの別れが決まっているというのは少し寂しい。まだ付き合って一か月。二人で迎える初めての夏休みだし、それならやっぱり、この夏で良い思い出を作りたい。
「……海にしようか、せっかくの夏だし」
「よっしゃ」
「マカも連れてってやるからな。こっちの海、見たことないだろ」
そう言って視線を落とした先には、ジュースのカップを背もたれにして一本のフライドポテトを両手で抱えたマカロがいた。ポテトの先端に一所懸命がっついているマカロは、おにぎりに続いてこの味が相当気に入ったらしい。
「海! 行ってみたい!」
「じゃあ、あのエセ保健教諭も誘えよ」
天和が言うと、ポテトを喉に詰まらせたらしいマカロが「んぐっ」と胸を叩いた。
「なっ、何でサバラもっ?」
「運転手とスポンサーと、お前のお守り役だ」
「えー。だってサバラ来たら、絶対に炎樽と天和のこと邪魔するぞ。そのくせに夜はベッドの横で張り込むぞ」
「種取らしてやるよ、いくらでもな」
「ほ、本当かっ?」
そんな約束して大丈夫かなぁ、と俺はテーブルに頬杖をつき、コーラのストローを咥えた。
夢魔であってもどこか浮足立ってしまう、夏。
「へえ、海に旅行か。いいね」
「サバラってこっちで免許持ってるの?」
「だいたい飛んでくから車は要らないと思ってたけど、人間の大人の男として振る舞う時にはあった方が便利だと思ってさ。一応、運転免許は取得してるよ」
自慢げに言うサバラだが、それが却って天和に「利用」される要素になるとは思っていない。
場所をファストフードから俺の家に移して四人で集まり、夏の計画を立てているのだが。
「どうせなら可愛い男の子がいっぱいいる所がいいだろう。目の保養にもなるし、あわよくば的なものもあるし」
「サバラってそれしか考えてねえもんな!」
「誰かさんが、俺に抱かれるの拒否するからなぁ……」
「う、うるさい!」
言い合うマカロとサバラの間に何があったかは知らないが、どうやら「それなり」のことは起きていたらしく、お互いを見る目付きが以前と比べて少し柔らかくなっているのに俺は気付いていた。夢魔も恋する夏、ってことだろうか?
「とにかく夏休みが始まったらすぐに発とう! 八月の頭には母さん達も帰ってくるって連絡来たし、それまでたくさん遊んで夏を満喫するぞ!」
*
そんな訳で、七月二十日。
俺達はサバラの運転する車で地元を飛び出し、県を越えて緑あふれる海沿いの町の別荘へと辿り着いた……のだけれど。
「サバラが格安で買った別荘って、これ?」
「ああ、そうだが。文句あるか?」
四人で見上げたその家は、今にも朽ち果てそうな洋風お化け屋敷だった。一体何十年前に建てられたのだろう。白い木製の壁に赤い屋根で、当時はそれなりにオシャレで綺麗だったかもしれないが、とにかく今は心霊スポットにしか見えない。
「………」
沈黙する俺達三人を見て、サバラがむくれたように腕組みをした。
「文句がある奴は野宿だ。雨風しのげるだけ有難いと思え」
「雨降ってないし……」
「まぁ、仕方ねえだろう。来ちまったモンは」
天和が車から荷物を下ろすのを見て、俺もそれを手伝った。今から宿を取るにしても夏休み中でどこもいっぱいだろうし、何より「別荘に泊まる」という皆のテンションが台無しになってしまう。
ここは無理にでも盛り上げないと。
「で、でもさあ! ボロくてもレトロな感じだし、海も近いし、中は掃除すれば綺麗になるよな! 庭も広いからバーベキューもできるじゃん!」
「炎樽くん、ありがとう……さりげなくボロいって言われたけど」
「掃除しよ、全員で手分けすれば早く終わる!」
運よく倉庫にあったモップとバケツを手にしながら、俺は目の前のデカい別荘を見上げてごくりと息を飲んだ。……果たして、一日で終わるだろうか。
「炎樽。俺、頑張るからさ。ちゃっちゃと終わらせて遊ぼうぜ!」
「マカ、何か夢魔印の掃除用具とかないのか? 一瞬で掃除を終わらせられるようなやつ」
「ご、ごめん……そういうのはないかも」
「いや、いいんだ。頑張ろう」
そうして夏休み第一日目の大掃除が始まった。
汲んできた水を床にぶちまけ、デッキブラシでごしごしと擦る。テーブルや椅子を外に運んで丁寧に水拭きする。窓ガラスを洗剤を使って拭き、溜まった埃をほうきでかき出す。
この暑い中休むことなく働く俺達は全員、滝のような汗を流していた。
「暑いー!」
一番最初にギブアップしたのはマカロだ。いつもの黒い服が太陽光を受けて更に熱くなっているらしく、止まる間もなくぽんぽんと脱ぎ始める。
「パンツ一丁マン、登場!」
「ガキか……」
ぎゃははと笑いながら、下着一枚になったマカロがホースの水を俺に向けて噴射させた。
「わっ、やめろ、マカ!」
「炎樽も脱げ! 気持ちいいぞ!」
「お、俺はいいから!」
天和とサバラも早々に上半身裸になっている。町から離れた場所ではあるけれど、時折近くの通りを走る車の中で俺達を笑っている人がいると思うと少し恥ずかしかった。
結局マカロにびしょ濡れにされて、俺もシャツを脱ぐ羽目にはなったが……これはこれでまあ、恥ずかしささえ気にしなければ良い思い出になるだろう。
「サバラ、部屋は二つあるんだろうな」
「もちろんあるさ。鍵はかからないけどね」
頭にタオルを巻いた天和が、モップを手にサバラを睨みつける。
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「え、何を?」
「あんたには教えねえ」
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騎士×妖精
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