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一杯目 出会いのニンニク醤油ラーメン
第1話 ラーメン屋、異世界で屋台をだす
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■都内某所
――俺にとってラーメン屋は夢だった。
サラリーマンとして働き続けてお金をためて、ついに俺――平和島 剛士――は夢をかなえた。
このご時世、テナントを借りて運営することに危機感があった俺は自由に動けるキッチンカーでのラーメン屋台にしている。
「店の名前はすぐに決めなくてもいいか。ラーメンのタイプも自由にする予定だしな」
本日納車されたキッチンカーは全体的に赤い塗装に黒い筆文字でデカデカと「創作らーめん」と書かれているだけだ。
その日、その日で食べれるラーメンが変わるのをコンセプトにやってみたいと思ってのことである。
1tトラックキッチンカーで各地を移動し、現地の食材を仕入れておいしいラーメンを作っていくのが夢であったのだ。
「今日は基本のにんにく醤油ラーメンの準備をして、試しに食べてもらいに行くか」
営業許可の手続きをしてから、慣らし運転も兼ねて走っていこう。
俺はそう思い、キッチンカーに水やラーメンの材料を入れていくのだった。
■エルドリエの迷宮・第10階層
――私にとって冒険者になることは夢だった。
その夢をかなえたAランク冒険者パーティ”夜鴉”のリーダーである私――カリン――は迷宮攻略の失敗に心が折れかけている。
「私たちの実力でも勝てないボスなんて……」
「手強い、手強いと聞いていたけどありゃないわ」
ボロボロになった私をヒーラーのリンダが回復魔法をかけて癒してくれた。
そうそうに撤退を決めたので、パーティへの被害はそれほどひどくないが、体の傷よりも心の傷のほうが問題である。
”夜鴉”は一度も失敗したことがないことで有名になった冒険者パーティであり、その名声を維持するためには地上に出ることなくボスを倒さなければいけなかった。
「私たちに失敗は許されない……」
私のつぶやきにパーティメンバー達が頷く。
全員が女性であることと、黒い髪に黒い瞳をしているのが夜鴉の特徴だった。
黒髪に黒い瞳は私たちの住むアルカディア王国では不吉な存在と言われて差別を受けている。
職業の選択もなく、奴隷になるか冒険者になるかくらいしかなかったので、私たちは冒険者になり互いに協力してAランク冒険者パーティへと成長してきた。
「無策でもう一度チャレンジしても失敗するだけですわ。作戦を練り直しましょう」
「そうね、どこかで休憩を取りながらいきましょうか」
パーティで1番の知恵者であるエルフで賢者のセシリアの提案に私は頷き、森の中で安全そうな場所を探しに進む。
すると、鼻をくすぐる不思議なにおいを感じた。
「何、この匂い……」
「おなか……すいてくる……あっち」
私の気のせいかと思ったが、猫獣人でパーティで1番腹ペコ娘なフェリシアがクンクンと鼻を動かし、匂いの元を探る。
「確かにいい匂いっスね。ちょっと空からも見てみるっス」
斥候を担当する鳥人族のミアが黒い羽根を広げて大きく羽ばたいた。
「あっちの開けたところに変な屋台があるっスー!」
ミアが指さす方向からは白い煙が上がっており、何か火を使っているのがわかる。
「警戒をしつつ行きましょう」
リーダーでもある私は剣を抜き、緊張を深呼吸をして解いた。
モンスターではないなら、大丈夫だが匂いにつられてモンスターが寄ってこないとも限らない。
屋台を出せているならある程度は安全地帯だろうと思い、私は森の中を進んだ。
◇
私がその白い煙の元にたどりつくと、先に降りてきていたミアがズルルルと妙な音を立てて、麺を食べていた。
「めっちゃ美味いっすよ! 『らぁめん』初めて食べたっす」
「そいつはありがとよ……らっしゃい! こちらの方のお仲間さんかい?」
ミアが料理を作っている男と話している。
男の髪は黒で、瞳も黒だった。
「私たちと同じ……か」
それだけで、安心した私は剣を鞘に納めると、男を改めて見直す。
見たことのない服を着ていて、顔は疲れが浮かんでいる無精ひげの男だった。
「せっかくだから、食べていきな。食べた感想を聞かせてくれよ」
男は顎でミアが座っている椅子とテーブルのある場所を示すと、麺を沸騰した湯でゆで始めた。
パスタとしてみる固い直線状のものではなく、縮れた柔らなそうなものである。
「ミア、毒見もしないで食べるなんて……何かあったらどうするの?」
「いやぁ、あたしもそう思っていたんスけど、おいしそうな匂いに我慢できず……」
私は小声でミアを諫めるとミアはしょぼんと背中の羽と肩を落としてうつむいた。
「ミアは悪くない……この匂いが……悪い」
猫獣人のフェリシアはフンスフンスと鼻息を荒くして、『らぁめん』の完成を待つ。
「『らぁめん』……確か、遥か昔の伝承にあったものですわ。つまりは〈異邦人〉ですわね」
〈異邦人〉とは遥か昔、人類が魔族と戦っていた時に異世界から呼び寄せた存在で、いったん平和になったものの、〈異邦人〉が不思議な力をもって世界を支配しようとしたことが伝承となっている。
その伝承の〈異邦人〉は黒髪、黒目であったことから私たちのような黒髪、黒目は蔑まれているのだ。
「へい、ガッツリ醤油ラーメンおまち! 激しい運動しているっぽいから、スタミナつくよう『ニンニクマシマシ背脂濃いめ』だよ」
私を含め6人分の『らぁめん』が用意された。
ちゃっかり、ミアもお代わりしていた……替え玉というらしい。
「食べてみましょう……ミアが食べているから、毒はないだろうしね」
「ひどいっス! けど、らぁめんは本当においしいっス!」
私はミア横目で見ながらラーメンのスープを先ずは飲んだ。
新しい世界が広がるような衝撃を受ける。
油が浮いていてギトギトしているかと思ったら、飲みやすかった。
麺の上に乗っている白くて細い何かと肉をスライスしたものをフォークで突き刺して食べてみる。
「おいしい……」
ミアの言う通り、おいしかった。
体の隅々までおいしさが広がり、ポカポカしてくる。
気づけば皆、無言でラーメンを食べていた。
「具は出せないが、麺は替え玉があるから欲しければいってくれ」
「「「カエダマ!」」」
「あいよ」
食べ終えた全員が替え玉を頼み、ラーメンを堪能する。
こんな迷宮の奥地で、おいしいものと出会うとは思ってもみなかった。
――俺にとってラーメン屋は夢だった。
サラリーマンとして働き続けてお金をためて、ついに俺――平和島 剛士――は夢をかなえた。
このご時世、テナントを借りて運営することに危機感があった俺は自由に動けるキッチンカーでのラーメン屋台にしている。
「店の名前はすぐに決めなくてもいいか。ラーメンのタイプも自由にする予定だしな」
本日納車されたキッチンカーは全体的に赤い塗装に黒い筆文字でデカデカと「創作らーめん」と書かれているだけだ。
その日、その日で食べれるラーメンが変わるのをコンセプトにやってみたいと思ってのことである。
1tトラックキッチンカーで各地を移動し、現地の食材を仕入れておいしいラーメンを作っていくのが夢であったのだ。
「今日は基本のにんにく醤油ラーメンの準備をして、試しに食べてもらいに行くか」
営業許可の手続きをしてから、慣らし運転も兼ねて走っていこう。
俺はそう思い、キッチンカーに水やラーメンの材料を入れていくのだった。
■エルドリエの迷宮・第10階層
――私にとって冒険者になることは夢だった。
その夢をかなえたAランク冒険者パーティ”夜鴉”のリーダーである私――カリン――は迷宮攻略の失敗に心が折れかけている。
「私たちの実力でも勝てないボスなんて……」
「手強い、手強いと聞いていたけどありゃないわ」
ボロボロになった私をヒーラーのリンダが回復魔法をかけて癒してくれた。
そうそうに撤退を決めたので、パーティへの被害はそれほどひどくないが、体の傷よりも心の傷のほうが問題である。
”夜鴉”は一度も失敗したことがないことで有名になった冒険者パーティであり、その名声を維持するためには地上に出ることなくボスを倒さなければいけなかった。
「私たちに失敗は許されない……」
私のつぶやきにパーティメンバー達が頷く。
全員が女性であることと、黒い髪に黒い瞳をしているのが夜鴉の特徴だった。
黒髪に黒い瞳は私たちの住むアルカディア王国では不吉な存在と言われて差別を受けている。
職業の選択もなく、奴隷になるか冒険者になるかくらいしかなかったので、私たちは冒険者になり互いに協力してAランク冒険者パーティへと成長してきた。
「無策でもう一度チャレンジしても失敗するだけですわ。作戦を練り直しましょう」
「そうね、どこかで休憩を取りながらいきましょうか」
パーティで1番の知恵者であるエルフで賢者のセシリアの提案に私は頷き、森の中で安全そうな場所を探しに進む。
すると、鼻をくすぐる不思議なにおいを感じた。
「何、この匂い……」
「おなか……すいてくる……あっち」
私の気のせいかと思ったが、猫獣人でパーティで1番腹ペコ娘なフェリシアがクンクンと鼻を動かし、匂いの元を探る。
「確かにいい匂いっスね。ちょっと空からも見てみるっス」
斥候を担当する鳥人族のミアが黒い羽根を広げて大きく羽ばたいた。
「あっちの開けたところに変な屋台があるっスー!」
ミアが指さす方向からは白い煙が上がっており、何か火を使っているのがわかる。
「警戒をしつつ行きましょう」
リーダーでもある私は剣を抜き、緊張を深呼吸をして解いた。
モンスターではないなら、大丈夫だが匂いにつられてモンスターが寄ってこないとも限らない。
屋台を出せているならある程度は安全地帯だろうと思い、私は森の中を進んだ。
◇
私がその白い煙の元にたどりつくと、先に降りてきていたミアがズルルルと妙な音を立てて、麺を食べていた。
「めっちゃ美味いっすよ! 『らぁめん』初めて食べたっす」
「そいつはありがとよ……らっしゃい! こちらの方のお仲間さんかい?」
ミアが料理を作っている男と話している。
男の髪は黒で、瞳も黒だった。
「私たちと同じ……か」
それだけで、安心した私は剣を鞘に納めると、男を改めて見直す。
見たことのない服を着ていて、顔は疲れが浮かんでいる無精ひげの男だった。
「せっかくだから、食べていきな。食べた感想を聞かせてくれよ」
男は顎でミアが座っている椅子とテーブルのある場所を示すと、麺を沸騰した湯でゆで始めた。
パスタとしてみる固い直線状のものではなく、縮れた柔らなそうなものである。
「ミア、毒見もしないで食べるなんて……何かあったらどうするの?」
「いやぁ、あたしもそう思っていたんスけど、おいしそうな匂いに我慢できず……」
私は小声でミアを諫めるとミアはしょぼんと背中の羽と肩を落としてうつむいた。
「ミアは悪くない……この匂いが……悪い」
猫獣人のフェリシアはフンスフンスと鼻息を荒くして、『らぁめん』の完成を待つ。
「『らぁめん』……確か、遥か昔の伝承にあったものですわ。つまりは〈異邦人〉ですわね」
〈異邦人〉とは遥か昔、人類が魔族と戦っていた時に異世界から呼び寄せた存在で、いったん平和になったものの、〈異邦人〉が不思議な力をもって世界を支配しようとしたことが伝承となっている。
その伝承の〈異邦人〉は黒髪、黒目であったことから私たちのような黒髪、黒目は蔑まれているのだ。
「へい、ガッツリ醤油ラーメンおまち! 激しい運動しているっぽいから、スタミナつくよう『ニンニクマシマシ背脂濃いめ』だよ」
私を含め6人分の『らぁめん』が用意された。
ちゃっかり、ミアもお代わりしていた……替え玉というらしい。
「食べてみましょう……ミアが食べているから、毒はないだろうしね」
「ひどいっス! けど、らぁめんは本当においしいっス!」
私はミア横目で見ながらラーメンのスープを先ずは飲んだ。
新しい世界が広がるような衝撃を受ける。
油が浮いていてギトギトしているかと思ったら、飲みやすかった。
麺の上に乗っている白くて細い何かと肉をスライスしたものをフォークで突き刺して食べてみる。
「おいしい……」
ミアの言う通り、おいしかった。
体の隅々までおいしさが広がり、ポカポカしてくる。
気づけば皆、無言でラーメンを食べていた。
「具は出せないが、麺は替え玉があるから欲しければいってくれ」
「「「カエダマ!」」」
「あいよ」
食べ終えた全員が替え玉を頼み、ラーメンを堪能する。
こんな迷宮の奥地で、おいしいものと出会うとは思ってもみなかった。
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