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面接
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「俺の知り合いが、空き部屋をシェアする相手を探してるんだけど、お前どう? 家賃は月に三万で、光熱費やなんかは応相談らしい」
友人の田中からの連絡に、智樹は一も二もなく飛びついた。
勤めていた会社が倒産してしまい、社員寮に住んでいた智樹は、今月中に新しい住処を見つける必要があったのだ。
相手側から「面接をしたい」という話があり、指定された喫茶店へ赴くと、ちぐはぐな印象の男性が二人、智樹の到着を待っていた。
智樹が店の扉を開けたのは、指定時刻の十分前。
彼らの前には、半分ほど量の減ったホットコーヒーが置かれている。
いやいや、どんだけ早く来たんだよ。
と喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、智樹は社畜時代に培った営業スマイルを浮かべる。
「お待たせしてすみません。本日、面接をお願いした佐藤智樹です」
軽く頭を下げながら挨拶すると、ガタイのいいスポーツマンタイプの男性が立ち上がり、挨拶を返しながら席に座るよう勧めてくれた。
「鈴木和葉です。今日はよろしくお願いします。隣にいるのは弟の彩葉です。どうぞ、座って下さい。ここは私達が払いますので、飲み物でも食べ物でも、好きなものを注文して下さいね」
彩葉と呼ばれた青年は、「どうも」と座ったまま会釈してから、智樹にメニューを差し出した。
奢ってもらえることが確定しているというのも、善し悪しである。
金欠の智樹にとって嬉しい申し出ではあるけれど、だからと言って遠慮なく好きなものを注文するというのも気が引ける。
ナポリタンやホットサンドの写真が載ったページをじっくり眺めながら、脳内で食べたつもりになる。
昔から、金がない時にはこうやって空腹をしのいできた。
実際に空腹が満たされるわけではなかったものの、心は若干満たされたので、智樹は店員を呼び止めて注文を告げた。
「すみません、ブレンドコーヒーを一つお願いします」
すると、彩葉が注文を付け加える。
「それから、ナポリタンとホットサンドも一つずつ」
和葉は呆れた顔を彩葉に向けた。
「お前、さっきここへ来る前にファミレスでオムライスを食べてきたばかりじゃないか。そんなに注文して、全部食べきれるのか?」
「あんな量じゃ足りないよ。それに、俺が食べきれなかったら、智樹にも食べてもらえばいいじゃん」
「おい! 初対面で呼び捨てにするなんて失礼だろう! すみません佐藤さん、こいつちょっと常識がなくて」
和葉が智樹に向かって頭を下げる。
「あっいえ、大丈夫です。佐藤ってよくある苗字なんで、下の名前で呼ばれることが多いから慣れてますし、その方がなんか、しっくりきます」
智樹が言うと、彩葉がさらに調子づく。
「ほら、本人もいいって言ってるじゃん。これから一緒に暮らすわけだし、俺達のことも下の名前で呼んでもらおうよ」
「お前なぁ……」
ため息をつく和葉の言葉を遮って、彩葉が智樹に話しかける。
「そういうわけだから、俺のことは彩葉って呼んでね。ところでさ、智樹は家事するの好き?」
「カジ?」
智樹が聞き返すと、彩葉は言葉を続けた。
「そう、家事。料理とか洗濯とか掃除とか、そういうの得意? もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ。なんなら、お金を払ってもいい。お小遣い程度だけど」
「おい、失礼なこと言うなよ! 佐藤さんは部屋をシェアする相手を探しに来たんだぞ! 家政夫の面接に来たわけじゃないんだからな!」
和葉が、キツイ口調で彩葉を注意する。
だが、智樹は彩葉の提案を不快に思うどころか、こんな幸運があっていいのだろうか、と信じられないような気持ちでいた。
「佐藤さん、すみません。気を悪くさせちゃいましたよね。うちの弟が、失礼なこと言って本当に……」
和葉さんが謝ろうとしている気配を察して、智樹はテーブルに額をぶつけそうな勢いで頭を下げる。
「今の話、ぜひ受けさせて下さい! 失業して、社員寮も追い出されることになって、崖っぷちなんです。両親には心配かけたくないから実家には戻れないし、家賃と光熱費無しで小遣いまでもらえるなんて、最高です! ぜひ、よろしくお願いします!」
思いのほか、大きな声が出てしまった。店内は静まり返っており、周囲から注目を浴びているであろうことは、顔を上げなくても分かった。
やばい。死ぬほど恥ずかしい。
だけどもう、後には引けない。
下げた頭を上げられないまま、智樹は耳まで真っ赤にしながら向かいの席に座る兄弟の返事を待った。
「だってさ、決まりだね。小遣いは俺が払うよ。和葉、それでいいでしょ?」
「佐藤さんがそれでいいなら……」
智樹が顔を上げると、彩葉が僕に向かって片手を差し出した。
「これからよろしくね」
智樹はその手を握りしめながら答える。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ふと横を見ると、和葉が優しい顔で僕達が握手を交わす姿を見守っている。
かくして僕は、鈴木家の住み込み家政夫として雇われることが決まり、安堵の息を吐いた。すると同時に、空腹に堪え兼ねた胃袋が盛大な音を鳴らす。
ぐうぅ。
くぐもった腹の音に、鈴木兄弟が笑い声を上げる。
「あっ、すみません。つい笑っちゃって」
和葉が申し訳なさそうに謝る横で、彩葉はまだ笑っていた。
「やっぱ、腹減ってんじゃん。遠慮しないで、食べ物も注文すればよかったのに。俺、コーヒー飲んだら胃もたれしてきたから、頼んだ料理が来たら智樹が全部食べていいよ」
そこへ、携帯の着信音が鳴り響いた。
「あっ、すみません。ちょっと席を外しますね」
携帯の画面を確認した和葉は、即座に立ち上がって店の出口へと向かう。
仕事の電話かな、と思いながら和葉の後ろ姿を見送っていると、彩葉が気怠げな表情で言葉を吐き捨てた。
「婚約者からだよ。クソみたいな女。あんな女の何がいいのか、俺には全然分からない」
彩葉の言い方に、智樹は微かな違和感を覚えた。
なんだかまるで、意中の人を奪われたかのような言い草だ。
だが智樹は、すぐにその考えを打ち消した。
だって自分の身内に、それも同じ性別の相手に恋心を抱くなんて、そんなことあるはずがない。
その時は、そう思っていた。
友人の田中からの連絡に、智樹は一も二もなく飛びついた。
勤めていた会社が倒産してしまい、社員寮に住んでいた智樹は、今月中に新しい住処を見つける必要があったのだ。
相手側から「面接をしたい」という話があり、指定された喫茶店へ赴くと、ちぐはぐな印象の男性が二人、智樹の到着を待っていた。
智樹が店の扉を開けたのは、指定時刻の十分前。
彼らの前には、半分ほど量の減ったホットコーヒーが置かれている。
いやいや、どんだけ早く来たんだよ。
と喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、智樹は社畜時代に培った営業スマイルを浮かべる。
「お待たせしてすみません。本日、面接をお願いした佐藤智樹です」
軽く頭を下げながら挨拶すると、ガタイのいいスポーツマンタイプの男性が立ち上がり、挨拶を返しながら席に座るよう勧めてくれた。
「鈴木和葉です。今日はよろしくお願いします。隣にいるのは弟の彩葉です。どうぞ、座って下さい。ここは私達が払いますので、飲み物でも食べ物でも、好きなものを注文して下さいね」
彩葉と呼ばれた青年は、「どうも」と座ったまま会釈してから、智樹にメニューを差し出した。
奢ってもらえることが確定しているというのも、善し悪しである。
金欠の智樹にとって嬉しい申し出ではあるけれど、だからと言って遠慮なく好きなものを注文するというのも気が引ける。
ナポリタンやホットサンドの写真が載ったページをじっくり眺めながら、脳内で食べたつもりになる。
昔から、金がない時にはこうやって空腹をしのいできた。
実際に空腹が満たされるわけではなかったものの、心は若干満たされたので、智樹は店員を呼び止めて注文を告げた。
「すみません、ブレンドコーヒーを一つお願いします」
すると、彩葉が注文を付け加える。
「それから、ナポリタンとホットサンドも一つずつ」
和葉は呆れた顔を彩葉に向けた。
「お前、さっきここへ来る前にファミレスでオムライスを食べてきたばかりじゃないか。そんなに注文して、全部食べきれるのか?」
「あんな量じゃ足りないよ。それに、俺が食べきれなかったら、智樹にも食べてもらえばいいじゃん」
「おい! 初対面で呼び捨てにするなんて失礼だろう! すみません佐藤さん、こいつちょっと常識がなくて」
和葉が智樹に向かって頭を下げる。
「あっいえ、大丈夫です。佐藤ってよくある苗字なんで、下の名前で呼ばれることが多いから慣れてますし、その方がなんか、しっくりきます」
智樹が言うと、彩葉がさらに調子づく。
「ほら、本人もいいって言ってるじゃん。これから一緒に暮らすわけだし、俺達のことも下の名前で呼んでもらおうよ」
「お前なぁ……」
ため息をつく和葉の言葉を遮って、彩葉が智樹に話しかける。
「そういうわけだから、俺のことは彩葉って呼んでね。ところでさ、智樹は家事するの好き?」
「カジ?」
智樹が聞き返すと、彩葉は言葉を続けた。
「そう、家事。料理とか洗濯とか掃除とか、そういうの得意? もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ。なんなら、お金を払ってもいい。お小遣い程度だけど」
「おい、失礼なこと言うなよ! 佐藤さんは部屋をシェアする相手を探しに来たんだぞ! 家政夫の面接に来たわけじゃないんだからな!」
和葉が、キツイ口調で彩葉を注意する。
だが、智樹は彩葉の提案を不快に思うどころか、こんな幸運があっていいのだろうか、と信じられないような気持ちでいた。
「佐藤さん、すみません。気を悪くさせちゃいましたよね。うちの弟が、失礼なこと言って本当に……」
和葉さんが謝ろうとしている気配を察して、智樹はテーブルに額をぶつけそうな勢いで頭を下げる。
「今の話、ぜひ受けさせて下さい! 失業して、社員寮も追い出されることになって、崖っぷちなんです。両親には心配かけたくないから実家には戻れないし、家賃と光熱費無しで小遣いまでもらえるなんて、最高です! ぜひ、よろしくお願いします!」
思いのほか、大きな声が出てしまった。店内は静まり返っており、周囲から注目を浴びているであろうことは、顔を上げなくても分かった。
やばい。死ぬほど恥ずかしい。
だけどもう、後には引けない。
下げた頭を上げられないまま、智樹は耳まで真っ赤にしながら向かいの席に座る兄弟の返事を待った。
「だってさ、決まりだね。小遣いは俺が払うよ。和葉、それでいいでしょ?」
「佐藤さんがそれでいいなら……」
智樹が顔を上げると、彩葉が僕に向かって片手を差し出した。
「これからよろしくね」
智樹はその手を握りしめながら答える。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ふと横を見ると、和葉が優しい顔で僕達が握手を交わす姿を見守っている。
かくして僕は、鈴木家の住み込み家政夫として雇われることが決まり、安堵の息を吐いた。すると同時に、空腹に堪え兼ねた胃袋が盛大な音を鳴らす。
ぐうぅ。
くぐもった腹の音に、鈴木兄弟が笑い声を上げる。
「あっ、すみません。つい笑っちゃって」
和葉が申し訳なさそうに謝る横で、彩葉はまだ笑っていた。
「やっぱ、腹減ってんじゃん。遠慮しないで、食べ物も注文すればよかったのに。俺、コーヒー飲んだら胃もたれしてきたから、頼んだ料理が来たら智樹が全部食べていいよ」
そこへ、携帯の着信音が鳴り響いた。
「あっ、すみません。ちょっと席を外しますね」
携帯の画面を確認した和葉は、即座に立ち上がって店の出口へと向かう。
仕事の電話かな、と思いながら和葉の後ろ姿を見送っていると、彩葉が気怠げな表情で言葉を吐き捨てた。
「婚約者からだよ。クソみたいな女。あんな女の何がいいのか、俺には全然分からない」
彩葉の言い方に、智樹は微かな違和感を覚えた。
なんだかまるで、意中の人を奪われたかのような言い草だ。
だが智樹は、すぐにその考えを打ち消した。
だって自分の身内に、それも同じ性別の相手に恋心を抱くなんて、そんなことあるはずがない。
その時は、そう思っていた。
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