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150話 出発準備
しおりを挟む翌朝、シュミットが今日も本を抱えて眠っているのを起き抜けに見た芽依は、ありがたい……と抱き着いた。
抱き着いてもぐっすり眠っているシュミットは、いったい何時に帰ってきたのだろうか。
「お疲れ様です、シュミットさん」
ぎゅっ……と抱きしめるが、シュミットは変わらず眠っている。
起こすのも可哀想だと、そっと頬に口付けを落としてからベットを出た芽依。
静かに扉を閉めてリビングへと向かうと、黒髪をなびかせたメディトークがエプロンをして食事をテーブルに並べていた。
(…………あぁ、今日は別行動なんだった)
今日も朝から豪華な料理が並ぶ。
それは全てメディトークが作っているもので、それを見ると気持ちは暖かくなるはずなのに、何だかしゅんと悲しくなる。
「…………メディさん」
「どうした」
部屋に来ているのは分かっていたのに、動かない芽依に様子を見ていたメディトーク。
ゆっくりと近づいてきた芽依は、カトラリーを並べるメディトークの後ろから抱き着いた。
「…………なんだ、寂しくなったか?」
「うん」
「シャルドネがいるだろ?」
「そうだけど、そうじゃない」
腰にある芽依の手を優しく撫でるメディトークにさらに力を込めた。
サーカスも、祈り子様の時も。
そばにいれずに芽依が1人になる事はあった。
だが、自ら選択して芽依のそばを離れるのは初めての事。
今更芽依の手を離しはしないとわかっていても、ちょっとだけ不安になる。
(グジグジしたくないけど……)
それでも、どうしてもメディトークには甘えて弱音を吐いてしまう。
最近色々あったから、その傾向が強いのだ。
(……いけない、面倒な女になっちゃう)
ふっ――と深く息を吐き出して、メディトークから離れた。
「メディさん、蟻でいてね」
「あ?」
「人型は駄目。蟻でいて」
「……まぁ、いいけど」
すぐに巨大な蟻に姿を変えたメディトークに、芽依は満足そうに笑う。
芽依はどちらも好き。 いや、むしろ蟻の姿の方が好きなのだが、一般的に人型のメディトークは、とてもモテる。
ただでさえ家族の見た目が良い。 性別関係なくホイホイ釣ってくる花雪の妖精や、庇護欲をかき立てる綺麗な森と収穫の妖精がいるのだ。
普段は別行動のシュミットも、美しく仄暗い。
「………………うん。浮気したら許さない」
『しねぇ』
「………………蟻さん最高。蟻さん至高。ほんと好き。このテラテラした黒光り、ツヤサラの肌触りに、ヒヤッとした冷たさが気持ちいい。もうすき。上に乗ってお昼寝したい」
『抱くぞ』
「っ! なんでぇ?!」
足にひしっ……と抱き着いて幸せを感じていると、まさかの言葉が降ってきて朝から驚かされた。
「……………………おはよぉ」
目を擦りながらポヤポヤと起きてきたフェンネルは、そのまま芽依の背中に抱き着く。
頭を擦り付けながらボーッとする相変わらず寝起きの悪いフェンネルに、キッチンから朝の紅茶を持って来たハストゥーレと、家族が揃い出す。
「おはようございます、ご主人様」
顔色が戻り、煌めく笑顔を見せるハストゥーレ。
二人の可愛い天使に芽依は顔を覆った。
「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。なんでこの2人から離れなきゃいけないの。意味わかんない。シャルドネさんとみんなで発掘でいいじゃない。みんなで楽しく石ころ探そうよ。やだやだやだやだやだやだ。離れるとか無理、暴れようかな」
『お前、心の声盛れすぎだろう……』
可愛いと不満が混ざり合い、よく分からないことを口走る芽依を相変わらず抱きしめながら船を漕ぐフェンネルに、慌ててオロオロするハストゥーレ。
そして、呆れるメディトークと、変わらない朝の風景がそこにあった。
_________
外出ようにと用意された白いブラウスに深緑色のハイウエストスカート。 足首までしっかりと長いスカートは、綺麗に広がり長時間歩いても足元を邪魔しない。
足首を覆う茶色のブーツはしっかりしていて足を守ってくれるだろう。
その上からフェンネルが魔術を掛けている。
足の痛み軽減と、怪我をしない為の保護である。
その横には、同色のケープを持つハストゥーレと、箱庭を確認するメディトーク。
巨大な蟻が持ったら、それなりに大きなはずの箱庭もミニマムサイズに見えてしまう。
『………………メイ、いいか。今日の昼食用にはここら辺を用意してる。飲み物はこっちだからな』
「ん?」
差し出されて示されたのは、準備万端のハンバーガーやポテトといったファーストフード。
更には炭酸ジュースなどもある。
勿論、果実水なども準備済み。
珍しく指定してきたメディトークを見上げると、箱庭の画面を芽依たちの庭に変えてしまった。
今日分の水やりや収穫等を先に済ませようとタップしているメディトーク。
その素早さに、画面の中にいるパピナスが驚き飛び跳ねていた。
「珍しいね、指定してきた」
『室内で食べれないだろうからな。あと……屋台があると思うが、俺たちがいねぇから買うなよ。体調悪くなる』
「…………屋台」
ゴクリ……と喉を鳴らすが、それでファーストフード系なのかな……と選んでくれた昼食を見る。
しかも、数がかなり多い。
こういう発掘現場等は、仕事としてくる人は勿論、観光名所となっている場合も多く、屋台がずらりと並んでいる。
だから、食事の準備はしない人が多いのだが、芽依はこの世界の食べ物と相性が悪い。
何でもかんでも食べて体調を崩すのは、来た当初に散々経験しているのだ。
だから、芽依の食事は常に気を使われている。
『屋台はまた今度な』
「うん。一緒に行こうね」
『ああ』
穏やかなこの時間も、もうすぐ出発時間になるから終わるのか……と小さくため息をこぼすと、目ざといメディトークに頭を撫でられた。
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