続・美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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163話 噛み合わない話題

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 暑い風がふわっと芽依を撫でていく。
 信じられないと如実に語る眼差しに、芽依は首を傾げるしかない。

「えーっと?」

「……あ、すみません。驚いてしまいまして」

 困ったように笑ったシャルドネが埋まっていく足元を見る。
 ズズズ……と入るのは足の半分だけだとわかるのだが、そこはかとない恐怖があった。
 芽依のように砂浜を裸足で歩く経験も、肌を出して水辺や海で遊ぶこともしないこの世界の人達は、この飲み込まれる感覚が苦手なのだ。
 こういった現象が起こる場所はあまりないのか、全員困惑しながらも歩いているのに、朗らかに笑う芽依に恐怖心が浮かぶのだろう。 

「楽しい……ですか?」

「砂浜歩いてるみたいで楽しいです!」

「…………砂浜」

 この世界の海辺は危なく、砂浜を歩いているだけでもアサリが襲いかかってきたり、巨大イカがジャンプするのだ。
 軽はずみにひとりで出たら命がいくつあっても足りない。
 そんな場所を楽しいとう移民の民に慄く。

「…………だい、じょうぶなの? それは」

 恐る恐る聞いてきたニアに首をかしげる。
 芽依は、この世界の荒ぶる海を知らない。知っているのは、時に荒れ狂うが、穏やかな白波を立てる静かな海だ。
 魚介類などを豊富に抱える海の存在は一緒なのに、こうも違ってしまうのだと後に知ることになる芽依。

「いいですよね、海! まさかアサリの時みたいに常に荒ぶってる訳じゃないですよねぇ。でも、水着はだめだから、やっぱり水遊びは山ですよねぇ。でも、いずれは浜辺でバーベキューとかいいですよね」

 ワクワクと話せば話す程に周囲の表情が固くなる。
 あの巨大タコがうねり、巨大イカが跳ねてアワビが飛来するあの海でバーベキュー……? と青ざめているのに、芽依は呑気にアリステアやセルジオ、セイシルリードやブランシェットなど知り合いの名前を並べて語る。
 一緒にやりたいなぁ、と可愛らしく笑うのだが、周りの温度は冷たく、あれ?と首を傾げる。

「どうしたんですか?」

「……海に行ったことはありますか」

「こっちに来る前は海沿いの家でしたので、毎日見ていましたよ。休みの日に散歩とかも行ってましたし」

 手を繋いで歩いていたニアの足が止まり、じっと芽依の顔を見ている。
 その表情は困惑で、恐る恐る口を開いた。

「お姉さん……自殺願望者だったの……?」
 
「なんで?!」 

 言われた意味も何もかもが分からず、芽依は立ち止まったニアを見る。
 幸いにも芽依の発言に驚いて自然と足を止めているので。階段での事故にはならない様だ。

「だって……海沿いに家なんて直ぐに壊されるよ」

「……だれに」

 ニアの話が何やら噛み合って無いぞと芽依は恐る恐る聞く。

「イカとかタコ?」

「私の世界にそんな好戦的な生き物はいないのよ……」

 脱力して座り込みそうになった芽依を、危なげなくシャルドネが支えてくれた。

「え。まさか皆さんのその困った様子は、私に対して……」

「高位人外者ですら簡単に殺すような場所で、凄い豪胆だなって思っただけだよ」

 爽やかに笑って言うオルフェーヴルに、小さく「ひえ……」と声が漏れた。
 ものすごい誤解だと伝えると、シャルドネは安堵したように笑い、ニアも緊張した面持ちから一気に穏やかにかわる。


「あ、アワビはお姉さん好きそう」

 そう呟いたニアに反応しないわけが無い芽依が美味しい日本酒を思い起こして吐息を漏らした。




 

 砂の階段を上がっている間にも視線は感じていた。
 ただその視線は、好意から好奇心に変わっていて。まるで観察するような視線に晒されている。

「え……本当ですか」

「ええ、そうですね。ただそれ程人気ではありませんよ。売れ残ると思います」

「売れ残る、あんなに美味しいのに」

 長い階段を登りきるまで、まだ暫く時間がかかりそうだと分かり、芽依は雑談をしながら登っていた。
 それに付き合わされるシャルドネやオルフェーヴルだが、嫌な顔1つしないで芽依の話に返事を返してくれる。

 
 そんな今の話題は豆腐について。


 ダイエットにもいい豆腐をあまり見ないなと思っていたのだが、まさかの場所にあったのだ。

「え、海ですか」
 
 大地のミルクとまで言われる程の栄養価を誇る大豆が、まさか海にあるなんてと呆然とした。

「海のミルクと呼ばれているな」

「それは牡蠣なんじゃ……」

「牡蠣? いや。それは殺戮貝だな」

「…………殺戮」

 予想外な名前に慄く。
 心做しか、埋まる砂が深くなった気がすると、芽依は足元を見た。

 足元は相変わらず半分ほど靴が飲み込まれていて、片足を上げると砂がカーテンのようにサラサラと落ちる。
 階段を登り始めた時よりも、周囲の砂の量が増えて落ちる砂の音が強くなった気がしていた。

 その事に誰も何も言わないから、芽依はこれが普通なのだと理解していた。

 砂に覆われたその場所は、歩く度に場が広がり、今では登り始めた時より三倍の広さとなっている。
 これってどこまで広がるんだろう……とぼんやり見ていたら不可解な現象になっていた。

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