続・美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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173話 鉱石の集め方


 急に現れた桃樹は芽依から与えられた神水によって空腹を解消させた。
 儚く微笑んでいたその人は、まるで花が咲くように笑み、芽依の手袋越しの手を優しく握る。
 暖かな木漏れ日のような雰囲気に変わったトウジュは、目尻を下げて綺麗に口を持ち上げる。

「こんなに幸せなことがあるなんて……本当にありがとう。とても、体が暖かい」

 ふわりと笑った桃樹は、生まれて初めて幸福に笑った。呪いから生まれたこの桃樹だから、今後も空腹に悩まされるだろう。
 だが、その解消方法を提示してくれた芽依に微笑み、感謝して消えていった。
 桃樹は元々何も無かったみたいに、今はその形跡すらない。
 サラサラと地面の砂が風に流されている。


 
「……桃樹の攻略方法があるとはな」

「驚きですね」

 報告が増えました、と笑うシャルドネを見上げる。
 穏やかな表情に戻ったシャルドネは、芽依に視線を向けた。

「桃樹は、ある意味厄災と捉えられていたのですよ。その生まれを知る人は多いのですが、現れた時の回避方法がありませんでした。強力な魅了を使うので、否が応でもそれに絡め取られてしまうんです」

 チラリと見る先には、桃の香りに導かれて来てしまった人たちで、ぼんやりと桃樹があった場所を眺めていた。
 時間が経つとそれも落ち着くので、ほっといて大丈夫だとオルフェーヴルが教えてくれる。
 綺麗で儚くて魅了する、悲しい過去を持つ妖精。

 本当に、フェンネルさんに似ていたな。

 そう思った芽依は、ニアに促されるままに歩きだし鉱石採取に戻ることとなった。



 あの桃樹が現れた時、周りは桃樹を中心に円形に場所が広がっていた。
 砂の地面が広がり緑溢れていた草花や木が全く無かったのに、桃樹が消えてから緑がまるで動くようにズズズ……と音を立てて戻ってきたのだ。その様子が不思議な現象だが、背を向けてしまった芽依たちは見る事が出来なかった。

 ぼんやりとしている魅了にかかった人たちをその場に残し、芽依達は足を進める。
 たまに、イタズラに編んだ草が芽依の足を取りながら、森の中に進んで行った。

 上を見る。
 木々に覆われて青空は隠された。
 隙間から見える空を眺めてると、木漏れ日がキラキラと降り注いでいて美しい。
 こんな場所で本当に鉱石が取れるのだろうかと、以前の芽依なら思っただろう。
 だが、この世界の不思議に沢山触れてきた芽依なのだ。
 今更それくらいでは驚かないぞ! と思いながら、美味しいたい焼きを思って鉱石に思いを馳せる。



「着きましたよ」

 あれから五分くらい経っただろうか。
 砂地に足を取られて思っていた以上に体力が奪われた。

「これは疲れるね。大変、芽依ちゃん痩せちゃう! なーんちゃ……て……」

 あはは、とふざけて笑った芽依に、全員が苦笑いをしている。
 ここの所、芽依は確実に太っていた。
 衣類を準備するセルジオの視線が最近痛い。
 そろそろサイズ調整が入ってもおかしくないだろう。
 そっと自分の腹部を握る。
 思っていた以上に肉の弾圧が凄いと頬を引き攣らせた。


「だ……ダイエットします。この鉱石集め、少しはダイエットになりますかね?」

 悲しそうに肩を落としながら言った芽依に、シャルドネとオルフェーヴルは苦笑しながら頷いたのだった。

 鉱石集めはやはり思っていたものとは違った。
 桃樹と同じくらいの立派な木が沢山あって、その中で咲く花の花弁の中に目的の鉱石があるというのだ。
 その木なのだが、困ったことに似たものがある。
 どうやらこの二つの木は縄張り争いをしていて随分と仲が悪いようだ。なのに、毎回同じ場所に生息して争っている。
 もう、仲良いんだろう! と何人もの人が思ったものだ。
 そして、このギスギスした雰囲気は、鉱石を採取する時も起きている。

 どちらも自分が優れている。求められていると思っている。
 だから、どちらも鉱石を採取される事には肯定的で、差し出してくれる位だ。
 
 問題は間違える事。

 この間違えるのだけは避けなくてはならない。

 
「ふんぬらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

 遠くで何かの叫びが木霊した。
 悲鳴はどんどん小さくなっていったが、小さく助けを呼んでいたのは間違いではないだろう。
 何が起きたの?! と振り返ると微笑むシャルドネと目が合った。

「きっと、間違えたのでしょう」

「……あー、なるほどね? そういう感じね」

 つまり、間違えると手痛いお仕置が用意されているという事だ。
 ふんふんと頷いた芽依は、ニッコリ笑って腕まくりをした。

「つまり、間違ったら、うちの玉ねぎやハンサムみたいになるってことね。オーケー」

「……お姉さん? なにするの?」

 ふふんと笑った芽依は任せろ! とかっこよく言い放つ。
 胸をはり、親指を立てる芽依に、三人は顔を合わせて首を傾げる。

「さあさあ、鉱石出してもらおうかぁ。隠しても無駄だよ。私に隠し事なんて、出来っこない」

 そう言った芽依の周りには、力にものを言わせるのだろう、沢山の野菜たちが不穏な雰囲気を醸し出して佇んでいた。今にも暴れだしそうだ。

 まだ制御出来ない野菜たちが、身を翻しビヨンと伸びた。
 
 
 
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