続・美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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185話 珍しい朝の風景


 翌日、元気を貰った芽依は身体的にも精神的にも復活の兆しを受けて目を覚ます。
 まだ少し薄暗い外はカーテンから差し込む光も目に優しい。
 寒くなく暖かな布団から出るのは至難の業ではあるが、目が覚めたしなぁ……と芽依は思案する。
 だが、その考えは腹部にかかる重さに簡単に変更されそうだ。
 服越しに触れる暖かな腕は腹部に回っていて、それが寝ぼけながらも自分を求める可愛い緑の妖精だから堪らない。
 このまま起きてしまうのは勿体ない。まだ起床には少し早いから、可愛い天使が起きてご主人様を抱きしめる自分に狼狽える姿を見てからでも十分じゃないだろうかとほくそ笑む。
 随分と意地悪い顔で笑っている自覚はあるのだが、寝返りもせずに芽依を抱き込むハストゥーレはただ可愛くて。
 逆隣にいるフェンネルも、真っ白な髪をベッドに散らばせて眠っているから余計に起きれない。

 そんな様子を、メディトークは呆れながら見ていた。相変わらずの早起きだ。
 人型で、緩いスエットのような服を着ている完全な部屋着だというのに、その気怠さがまた良いのだと芽依はくふくふと笑った。

「起きないのか?」

「見てメディさん。ハス君が抱き着いてるの。可愛いね」

「……はいはい」
   
 少しだけ布団を捲ったメディトークが、腰に回っているハストゥーレの腕を見つけて苦笑した。
 これは起きれないなと頷くと、布団をかけ直して寝室を出ていく。
 その奥には、巨大なクッションに身を沈ませているシュミットが寝る時だけ見せる幼い表情を晒していた。
 昨日は欲に濡れながらも余裕そうな表情を見せていたのに、今では静かに寝息を立てるシュミットの綺麗さにギュン! と心臓が跳ねる。
 どうしてこうも人外者は人を惑わせ惹きつけるのだろうかと、両端を独占する天使を撫でながら考えた。
 人外者の魅力は人間を狂わせる。
 少し混じってしまったとはいえ、芽依も人間だ。
 その魅力に簡単に屈服する意思の弱い人間は、家族以外にもその魅力を受けてフラフラしがちである。
 でも、芽依の中の1番はやっぱり家族で揺るぎないのだわと、この無防備な姿を晒す家族を見て毎回思う。
 家族が幸せなら、それ以上の幸福はない。
 芽依の小さな幸せは、広大な庭の中でひっそりと広がるのだ。



  「照れてるね」

 ソファに座って、朝から広がるコーヒーの香りを胸いっぱいに吸い込みながら体を小さくしているハストゥーレを見つめる。
 その眼差しは甘ったるく、目尻がこれでもかと下がっている。

 目覚めたハストゥーレは温かさと甘やかな香り、そして柔らかな体を全身に感じて顔をもふりと芽依の胸に埋めた。
 無意識に動いた口がはむっとシャツ越しに胸を食む。
 それを上から見た芽依が、赤ちゃんかな……? とにやけていると、フェンネルがもそりと上半身を起こした。
 そして見てしまう。目を瞑って胸をあむあむしているハストゥーレを。
 思わず口を両手で覆ったフェンネルは、キラキラとした眼差しをハストゥーレに向けた。
 無言で可愛いよね! と目で訴える二人に気付かないハストゥーレは、顔をふるふると左右に振っていて、それがまた可愛いと身悶える。

「………………起こしてやれよ」

 あまりの可愛さに見つめ続ける二人を、流石に起きてリボンを口に咥え髪を結う仕草をするシュミットが注意した。
 クッションに半分埋まりながら気怠げな姿で項が顕になる。口に挟まる赤いリボンで器用に結ぶ姿に今度は芽依が鼻を抑えた。

「っ! えっ………………ち!! 鼻血でてない? 私女子として死んでない?!」

「おい」

 半眼で見るシュミットに叫びそうになる芽依。
 その小さな悲鳴を聞きとったハストゥーレが目を開けた。
 芽依の緩いパジャマの上は胸元を少し見せている。
 そこに埋まるハストゥーレは自分がどういう状態なのか分かっていなかった。
 動かない思考が頬に触れるフワフワを認識しない。
 これはなに? と指先で触れると埋まる胸に首を傾げる。

「………………これは……なんでしょうか?」

「ぐっ……かっわい」

 寝ぼけている。
 新妻のように朝早くに起きてメディトークと共に朝食の準備をするハストゥーレの珍しい寝起きにキュンキュンした。
 ぽやぽやと胸をつつく姿に今にも心臓が爆発しそうになりながら、芽依は深呼吸する。
 上下する胸の動きに合わせてハストゥーレの頭も緩く動く。

「おはようハス君。よく眠れた?」

「………………ご主人様?!」

 じっくりと顔を見てから、やっと状況を理解したらしい。
 胸に手を当てているハストゥーレは、今にも叫び出しそうに飛び起きるとベッドから落ちて芽依とフェンネルの視界から消えていった。

「あぁ! ハス君?!」

「大丈夫?!」

 慌ててベッドから降りて尻もちをつくハストゥーレを抱き起こすと、真っ赤になってすぐに土下座をした。

「申し訳ありません! 私、私っ……」

「メイがすぐ土下座するからうつってるじゃないか」

 芽依がいつもお叱りの時に見せるスライディング土下座を綺麗に真似するハストゥーレ。それに苦言を零すのはスリーピースに着替えながら言うシュミット。
 いや、えぇ?! と困惑する芽依はハストゥーレの肩を抱えるように抱き締めて、謝られる事ないよ? いっぱい抱き締めて触っていいんだよ? と言葉を選ばない発言に、ハストゥーレは全身を林檎のように真っ赤にした。

 こうして可愛らしいハストゥーレの姿を堪能する素敵な朝を迎えた芽依は、メディトークが作るお腹も気持ちも満たす素敵な朝食にありついたのだった。
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