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24話 増えた移民の民
しおりを挟む外の騒ぎはどうやら新しく来た移民の民と、その伴侶らしい。
この部屋は邪魔が入らないように現在封鎖していて侵入しないようにしているが、その分オルフォアが苦労しているようだ。
最近漆黒の翼のツヤがなくなってきていると、もっぱらの噂である。
「新しい移民の民……」
『…………なんだよ』
シュミットから離れた芽依がアリステアが言う新しい移民の民と聞いてジロリとメディトークを見る。
以前新しく来た移民の民の女性にぶつかった話をしていた。
更にフェンネルからも話を聞いて、芽依はあまりいい気分はしなかった記憶が残っている。
「…………いやぁ? べつにぃぃ?」
『なんか文句ありそうだなぁ? あ?』
ギリギリと頭を押さえつけられ、その足をペチペチと叩く。
「他の女の子に鼻の下を伸ばす蟻がいるなんて言ってませんけどぉ?」
『だぁれが鼻の下を伸ばすだ? あ? お前がいて周りを見るやつなんざ、うちには誰もいないんだよ! あっ? わかってんのかこら。その空っぽの頭に刷り込むぞ』
「頭をゆらさないでよぉ! ばーか! ばーか!! 蟻!!」
『蟻は悪口じゃねぇんだよ!子供かっ!』
2人の幼稚な言い合いに、アリステアが苦笑する。
お疲れのようで、こんな言い合いすらホッとしているのだろう。
そんなアリステアに気付いて、メディトークに掴まれたまま聞く。
「…………大丈夫ですかアリステア様、何か食べます? 甘いのがいいですか? スイートポテト?」
以前気に入っていたスイートポテト。
さつまいもを継続して安定収穫出来るようになったから、さつまいも料理やスイーツに惜しみなく使えるようになった。もちろん芋焼酎も。
煩悩に忠実な芽依が、酒を作らないわけが無いのだから、日本酒の次に改良をと任せたフェンネルによって素晴らしい酒が生まれている。
箱庭を見ながら心配そうにアリステアをチラチラと見る。
スクロールして甘いものを見ていると、黒光りする足がポンと押してきた。
出てきたのはハストゥーレ作のモンブランである。
それを前屈みになって見るアリステア。
「…………これは?」
「モンブランっていうさつまいもを使ったケーキですよ。食べますか?」
「…………これがさつまいも……いただこう」
3人分だしてアリステア、セルジオ、シャルドネに渡す芽依。
全員がまじまじと眺めている様子を後ろに立つ新人3人も見ていた。
ちょうど11時。お茶の時間には遅いか、昼までの間食には丁度いい。
小さめのモンブランにフォークを指し、まったりとしたさつまいもの甘さと、不思議な軽さで気付いたら口の中からモンブランが消えていた。
口の中に残る甘ったるさがあるのに、べったりと口腔内に張り付く感覚は無い。
「…………うまいな」
「これは……初めて食べる味です」
「少し甘いな……」
アリステアとシャルドネには高評価。セルジオには甘すぎたようだ。
だが、しっかり完食するセルジオはお茶で口を洗い流した。
「…………はぁ。アイツらには困ったものだ」
紅茶ではなくお茶を飲むアリステア。
茶柱の妖精以降、領主館ではお茶のブームが到来していた。
紅茶のような蒸らしを必要としない甘さのないお茶は、甘味を苦手とする人には高評価だった。
食事にもお茶の時間にも合う為、芽依に発注している人が日に日に増えてきている。
「新しい移民の民はそんなに厄介なんですか?」
「どうやら芽依を見て、ドラムストでは壊れない移民の民を育てられると思ったようなのだ。どこにいても扱いこそ間違わなければ健やかに生活出来るというのにな」
芽依がこの世界に来た事で、ドラムストは急激な変化を迎えた。
今まで正しいと思われていた移民の民への対応のせいで自死に追いやったと分かった人外者達は、できる範囲で柔軟に動き大切な伴侶に細やかな気配りをするようになった。
人間と人外者、そして世界の常識の差異から全てを理解出来るのは難しいのだが、歩み寄る事は出来る。
人外者の力を受けいれた移民の民の寿命は長くなる。その分、お互いの意見を言い合い絆を深める時間が長いというものだ。
これは、国を通して全国に発表された。
だが、直接見ていない人外者は誰一人として信じていなかった。
しかし、ここにきて春呼びの祝祭である。
恋の祝祭でもある春呼びのまつりはドラムストで開催された。
その時に芽依は沢山の人の目に止まる。
沢山の人外者に囲まれ弾ける笑みを浮かべていた。
続々と集まる人外者に、領主すらいる。
交流などしないはずの他の移民の民とその伴侶も、まるで自室のように寛いでいた。
そしてサーカスで起きた事件に巻き込まれて、家族と呼ぶ4人の人外者への熱烈な愛を叫ぶ姿に沢山の人外者たちは喉を鳴らしたのだ。
自分たちもこんな伴侶が欲しい。
自分に笑顔を向けてくれる伴侶が。
ドラムストの土地がいいのか、他の移民の民も笑みが浮かんでいる。
そうか、ドラムストなのか。
こうして、あまり考えを働かせること無くドラムストで召喚をした人外者は領主館で手続きをすませたのだった。
「おいっ!! どんどん元気がなくなっていくぞ!! どういう事だ!!」
「ねぇ! 私の子がご飯を食べない! どうなってるの?! ドラムストなら大丈夫じゃないんじゃないの?!」
完全に音を遮断しているので聞こえないのだが、シャルドネが手を動かし音だけを届けた。
不満をぶつける人外者にオルフォアは怒っている。
「だから言っているだろう! 移民の民の声を聞け! 自分の意識に無理やり従わせず感情を押し付けるな! 周りとの交流も交えて自由を約束することだ。まったく、やっている事が今までとかわらんな、話にならん」
呆れながら、ここ毎日言っている言葉を今日も吐く。
それに満足いかない人外者たちは、さらに文句を重ねていくのだ。
馬鹿馬鹿しい……とシュミットが呟くと、ん? と芽依は見た。
「…………ああ、他でも全体的に移民の民は増えていて、お前みたいな反応をさせる為に色々苦労をしているみたいだな。上手くいかずに当たり散らしているようだが……上手くいくはずなど無いだろう」
従来と同じやり方をする人外者たちだから、向かう先は鬱ルートだ。
あれほどマニュアルのようなものを出したというのに全く変わっていない。
自業自得だな、と呆れたような様子に芽依もなんとも言えない顔をした。
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