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59話 時計の魔術
しおりを挟むこういった夜会では、今まで交流の無かった人達と出会い人脈を作る場所として重宝されている。
だからだろうか、初めましての人達が相手をさぐりながらも会話を盛り上げていたり、はたまた壁の花を決め込む女性もいる。
話しかけられ待ちだろうか……と焼き鳥に似た食べ物を食べる。
これも、1個1個取り外し食べるらしいのだが、面倒だとかぶりついた芽依を見て、周りが少しずつ真似をする現象が起きている。
「……夜会って食べて喋ってだけ?」
「基本はそうだな。ずっと立ってるのも疲れるからプレイルームやお茶をする場所もあるが」
ボードゲームやビリヤードなど紳士の嗜みとして賭け事をしながら遊ぶ場所や、女性が集まりお茶会を開く場所も用意されている。
他にも、男女で過ごせる場所や休憩の為の部屋もあり基本的に行動は自由だった。
芽依はメディトークに誘導されて全員でテーブルを移動する。
定期的に場所を移して交流を図るのがマナーのようだ。
芽依はメディトークに食べていい食事かどうかを確認してもらってから、プリンをスプーンですくって食べた。
普段食べるのよりもしっかり硬い卵プリンで、これも美味しい……と笑みを浮かべる。
ディメンティールの力の継承により食べれる範囲は増えたのだが、食べすぎると毒となり体に蓄積されるとわかった。
その為、定期的に神水に変えて体内を正常化するのだ。
芽依にとっての一番食べたい料理はメディトークの料理なのであまり変化は無いのだが。
「ん! 美味しい!」
メディトークを見ながら笑顔で言うと、良かったなと言いながら、芽依が持つプリンのカップを奪いカパッとひっくり返して食べてしまった。
「んあああああ!!それは罪深い行為だよ!」
『あーあー、さわぐな』
「飲み物みたいにプリン食べないでぇ! 味わってよぉぉ」
『なんだよ、俺の作ったプリンより気に入ったのか?』
「………………くぅ! ちがう!!」
笑うメディトークの黒光りボディを叩くとフェンネルが新しいプリンを渡してくれて、悲しみにくれながらスプーンを口に運んだ。
そんな芽依を面白がりまた摂ろうとするメディトークに威嚇する芽依を馬鹿だな……とお酒お飲みながら見ているシュミット。
ハストゥーレもチーズのガレットを見つけて満足そうに食べていて比較的落ち着いた夜会だとお酒を飲み出す。
そんな穏やかな夜会が変わるのは、時間のあっていない時計からのボーンボーンボーンとなる音からだった。
「なんの音」
不意に周りを見る芽依。
他の参加者も首を傾げながら周りを見ていると、急にメディトークの足が絡まってきた。
シュミットやフェンネル、ハストゥーレにパピナスも捕まり1箇所にギュッと集まる。
全員表情が険しいので、なにか予期せぬ事が起きているとわかり芽依はへにゃりと眉尻を下げた。
「…………何が起きてるの?」
「さぁな」
シュミットも周りを見ながら目を細めていると、次第に悲鳴が響き出した。
何……? と騒がしい場所を見ていると、グルグルと針が動く時計が見えた。
「……あの時計、針グルグルしてるけど」
「時計……?」
全員が時計を見ると、確かに時計の針が逆回りしていた。
「…………ありゃ。まじかぁ」
「まぁた厄介なものを持ち込んでるな」
「戻りすぎています」
全員が嫌そうに言っているのを聞いていると、周りの困惑した様子がさらに広がっていった。
明らかに催し物ではなさそうだ。
様々な場所から魔術を試行しようとしている人達がいる。
『メイ、あれは時計を使って行う時間の魔術だ』
「時間の魔術?」
悲鳴が起きた割には何かがある様子は無い。
全員が時計を凝視していて、青ざめている。
『時計の針の分だけ時間が戻ったり進んだりする。あれは過去に戻ってるから、決められた範囲の中にいるヤツらは全員その分……昔に戻る』
「……嫌です……ご主人様」
カタカタと震えるハストゥーレを見ると手を握りしめていたハストゥーレは芽依に向かって両手を伸ばした。
「ご主人様を忘れるのは……嫌です」
「……え」
ギュッと抱きしめてくれるハストゥーレの背中に腕を回すと、その言葉が降ってきた。
「過去に戻るって事は、僕たちはメイちゃんを知らない頃に戻る。まぁね、ただで忘れるなんてしないけどね!!」
集まる芽依達の周りに不可侵の魔術や、様々な防御、敵意に対して反射する魔術などを一斉に編み強固に作り上げていく。
分厚い守護は小さなドーム状になっていて、ガチガチに芽依たちを守っていた。
4人の最高位人外者の家族と、高位人外者のパピナス5人で隙間も無いほどに魔術を編み、敷いていく。
まだ、この場に主催者は現れていない。
これは、主催者のやらかしなのだろうか……と全員が思っている時だった。
ゴトゴトと何かが運ばれてくる。
真っ黒く大きさは様々な長方形の箱で、その数は20はあるだろう。
「……なに、あれ」
「…………あー、随分とまた悪趣味な事するよね」
「……はぁ」
家族の反応を見てみると随分と面倒そうな顔をしている。
しかし、全員がそういうわけじゃない。
一斉に悲鳴が響いた瞬間、針が止まってボーンボーンボーンとまた音が響き渡る。
それは随分と不気味な音色だった。
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