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61話 時計の魔術 3 (挿絵あり)
しおりを挟む次第に泣き叫ぶ声や痛みに藻掻く声が聞こえてくる。
飛びかかって噛み付くゾンビもいるが、何か光り輝いているのもいて。
何あれ……と見てからすぐ後ろにいるメディトークの腕を引っ張った。
「あれ、なんで光ってるの?」
「あ? 魔術使うからだろ」
「え? ゾンビが……魔術?」
当たり前だろう? と首を傾げるメディトーク。
家族たちの反応は何もおかしい所はなく、あれ? そんなアグレッシブに魔術使うの? 死んでるのに? とポカンとする。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」
よく分からない声だか悲鳴だかの音を聞いた後、何やら青い線が横にビっ! と伸びた。
不可侵と防御の魔術に阻まれ、その青い線が芽依に触れる前に掻き消えたが、それに触れた人はスパッと切れて人形のように崩れ落ちた。
「ひえぇぇぇぇ!!」
ハストゥーレにギュッと抱きつくと、ちょうどドレスコードの淑女ゾンビが壁を伝ってジャンプしてきた。
血を垂れ流し、歯をむき出しにしたまだ崩れていない綺麗な体だが、肌は青く血管が浮き出て瞳が真っ赤になっている。
ひっ……と声が漏れると、ドレスを翻して回し蹴りしたパピナスが首をねじり切り吹き飛ばした。
「アレは首をねじり切るか頭を飛ばすかしたら止まりますよ」
良い笑顔で凄いことを言うパピナス。
その後ろに現れた少年姿のゾンビは、どうやら棺の中にいた子らしく体が腐って異臭を放っていた。
シュミットが煙草を媒体にしているのか片手に魔術陣が浮かばせてその子供を焼き払った。
一気に減った煙草の残りをひと吸いしてから手を離した。
(挿絵はイメージです)
「…………フェンネル、向こういけるか?」
メディトークが指さした方から5体のゾンビが走りよってくる。
更に壁を踏んで飛びかかる1体。
ため息を吐き出し、冷気を纏わせたフェンネルは手に身長と同じほどの刀を具現化させた。
「……まったく、困ったもんだよね」
そう言って笑ったフェンネルの顔は楽しそうに歪んでいた。
ドレスコードとして準備したフェンネルの服は大ぶりのフリルがついたふわりと揺れる可愛い服だった。
窮屈な服が嫌いなフェンネルに用意したその服は、動きに合わせてふわりと揺れる。
飛び散る血液に汚れること無く迫り来るゾンビを斬り伏せ、回る度に結っていない髪が綺麗に広がる。
(挿絵はイメージです)
1箇所に足を置き、その場を動かないようにゾンビを軽々斬り伏せ、遠くから魔術を放つ様子に気付いて物凄いスピードで氷の壁を魔術で作るフェンネルをポカンと見つめていた。
かと思えば浮かび上がり上から魔術の玉のようなものを撃つシュミットの着物のような服が揺れる。
「ひぇぇぇ……ゾンビの概念が……わぁ!!」
火と水の魔術が放たれ、ビクリと体を震わせるとメディトークが指を鳴らしてそれを消した。
少しずつ場所を移動させながらゾンビの少ない場所を探す。
その途中で、見知った顔を何人か見つけたが必死に逃げ惑い芽依には気付いていないようだった。
「っ……メロディアさん! ユキヒラさん!!」
「メイ?!」
ここは移民の民を好ましく思う主催者が多く読んでいる夜会。
だから、知り合いもいるのだ。
「よかった! 無事ね? 噛まれてないわね?!」
「だ……大丈夫……私は平気……2人は?」
「大丈夫よ! ……あっ!! リリ! 後ろ!!」
メロディアの目に飛び込んだ、真っ赤な着物を着る人外者に飛びかかるゾンビ。
それは2体、3体と増えていき床に倒れ込んでいた。
隣にはリリの移民の民、アジュールがガタガタと震えていて、その後ろからまた別のゾンビが飛びかかって来ていた。
背中に飛び乗り頭を掴まれて首に噛み付く。
肉を引きちぎるグロさと、血が噴水のように吹き出す様子が目の前に広がっていた。
「うわぁぁあ!! っいだぁぁあ!! あぁぁ……」
「……っ……あじゅ……る……」
血まみれになり、ちぎれかけた手を伸ばして自らの伴侶に声を掛けるが、流れる血が床に広がり目の光がゆっくりと消えていく様子を見てリリは唇を噛んだ。
そして、リリはメディトークを見る。
「……殺してたもれ」
「………………」
リリもアジュールも噛まれていた。
噛まれて死んだ人も、噛まれて逃げたとしても、その近い未来は動く屍に変わりは無い。
メディトークは、指先に火花を散らす。
床を這う炎が周りを巻き込み一直線にアジュールに向かっていく。
アジュールや、まだ意識があるリリを囲むように炎がぐるりと囲うと、穏やかに笑ったリリが血まみれの口で笑った。
「…………ありがとう」
火に巻かれながら動き出し他を狙うゾンビを抑え込むリリを見て、芽依は目を見開き口を抑え震えた。
あまり親しくないが、定例会議では話をした。
庭を作りたいからと、一から教えて欲しいと太陽のように笑っていたアジュールが、今はもう見ることも出来ない。
「…………なんで、こんな……なんで……」
カタカタと震える芽依を抱きしめるハストゥーレ。
どんどん集まるゾンビは増えていて、この場にいた客の大半が噛まれているのが分かる。
勿論、強い人外者も噛まれている人はチラホラといて顔を歪ませ少しでも数を減らしている。
「メイ、頑張って動けよ。扉まで下がるぞ」
数が増えてきて時計の魔術が次に移行する。
閉じ込められていた扉は開き外へと解き放たれると言うメディトークに、芽依は涙を拭ってハストゥーレの手を握りしめたまま歩きだした。
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