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80話 梅の実の収穫
しおりを挟む「…………んー! 絶景」
芽依は両手を広げ、目の前の立派な梅の木を見上げた。
隣にはフェンネルが腕を組んで一緒に見上げている。
フェンネルとハストゥーレも手伝い大事に育てた梅の木は、通常この世界でも2年弱成長してからの方が大ぶりの実が着いて美味しいのだとか。
なのに、また半年もたってない芽依の庭の梅の木は、既に立派な樹木となり薄ピンク色の花をつけていた。
この世界の梅の木は、見た目は鮮やかな薄ピンク色の花が見事に付く。
梅の木は今2株あるのだが、増やすことも可能だとハストゥーレが言っていたので時期に株分けをしようと思っている芽依。
そんな庭にある梅の木は見える場所に梅は成らない。
見た目は見事な花だけなのだが、小さな梅が枝に出来て次第に大きくなる。
だが、花の邪魔にならないようになのか、無色透明で触れることすら出来ないのだ。
梅の存在がわかるのは、地面に数個落ちてかららしいのだ。
そして現在、地面に梅の実が数個転がっていて、それがフェンネルの手のひらの上で転がっている。
「…………どうやって梅を収穫するの?」
「うん、こうするんだよ」
木の幹に手を置いて、魔術を試行するように魔力を木に送る。
それは微弱なもので、その魔力に驚いた梅の木な防衛本能で不可視化している梅が見えるようになるようだ。
薄ピンク色の花の間に無数の青梅が一気に現れた。
美しい花だけだったのに……と芽依は目を丸くしてその様子を見あげると、フェンネルはふわりと羽を動かして飛び上がった。
下にはシーツのような真っ白い布を予め敷いていて、それの上に落ちるように花に指先を触れてクルクルと回ると、その周囲の梅が落ちていく。
真っ白なシーツの上に落ちていく青梅のコントラストが美しい。
「…………すご」
「梅が見えるうちに手早く落とすのがコツなんだよ。30分くらいでまた梅が隠れちゃうから。木もね警戒して次魔力流してもビックリしないから、2日は空けないといけないんだ……あ、ハス君」
梅回収を見たハストゥーレがお手伝いに飛んで来てくれた。
それを見たパピナスも逆方向から飛んできて、梅の木の周りを3人の人外者たちが飛び回っている。
その光景は幻想的で、今後も見れるのに今カメラが無いことに悔しくなった。
魔術具のカメラは存在しているので、次は写真を撮ろうと決意する。
30分後、布からはみ出る梅の実が山になっていた。
それを見上げていると、ニコニコ笑うハストゥーレが嬉しそうに降りてきた。
「ご主人様、足りますか?」
「…………十分すぎるよ」
「明後日にはまた収穫しますね、メイ様」
「おぅ、さらに増える」
とりあえず箱庭にしまう。
すると、保存数が∞に変わっていて2度見した芽依は横から覗き込んできたフェンネルを見上げた。
「む……無限に……」
「あれ、メディさんがアップデートしたって言ってなかった?」
「アップデートォォォオ?」
知らないぞ? と首を傾げると、フェンネルも詳しくは知らないらしい。
他を見ると野菜類は無限では無いらしく、1200や、1225等で表記されている。
以前よりも箱庭に置ける上限量が増えているようだ。
他にも1個の大きさが小さなミニトマトやサクランボも無限表示されているが、苺はちがうようだ。
匙加減はわからないが、小さなものは無限なのだろうかと首を傾げた。
「……あとでメディさんに聞いてみる」
「それがいいかもねぇ」
顔を見合せて頷きあったあと、梅を漬けるために全員で場所を移動する。
場所は酒蔵。酒類はワイン以外こちらで作り保存するようになった。
芽依が知らない間に酒蔵が増えていて、見つけた時は狂喜乱舞したものだ。
「じゃあ、梅ジュースと梅酒、梅干しを漬けマース」
「はーい」
芽依の言葉に3人仲良く返事をする。
パピナスが梅干しを漬けたことがあるからやりますよーとにこやかに笑って梅をごっそりと持って移動した。
はちみつ梅と、しそ梅を作りまーす! はちみつ梅多めですね! と笑顔で壺に梅を漬けていくパピナス。
楽しそうに鼻歌を歌いながら漬けていて、フェンネルが梅酒をハストゥーレが梅ジュースをそれぞれ作っていく。
やる気満々だった芽依はもう手持ち無沙汰になり、ウロウロしていたのだが結局ハストゥーレの後ろにペタリと座って抱きついた。
「っ……ご、しゅじん……さま?」
「うん?」
「あ……あの……」
「なぁに?」
「あの……えと……」
「ジュース作って?」
「は……はぃ……」
プルプル震える手で魔術を試行する。
梅の黒いヘタを外して梅を綺麗に洗うのは先にフェンネルとパピナスと終わらせていたので、瓶を殺菌消毒してから梅を移していくハストゥーレの指先は震えていた。
いつ転がしてもおかしくないほどの緊張は、背中に感じる柔らかさと温かさに、腰に回る腕だろう。
ふにふにが体にまとわりつき、ハストゥーレは色々と限界に近い。
そんなハストゥーレをフェンネルとパピナスがニヤニヤと見ていた。
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