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135話 羨ましがられる昼食
しおりを挟む昼食を挟んでの庭の視察となったので、今はご飯だと芽依は空腹の腹を撫でた。
昨日から酒も飲んでいない為、酒が欲しいと禁断症状が出そうだ。
チラリとシュミットやフェンネルを見たのを家族にはすぐにバレてしまった芽依。
メディトークが、ガシリと頭を掴んで阻止していた。
「…………あ、そういえば1週間がたつね」
ふと思い出した芽依はハストゥーレを見ながら言った。
困ったように笑って、帰るまで……と言いかけたが家族全員の視線を一気に集める。
「駄目よハス君。もし足りなかったり時間が過ぎたとかなったら取り返しがつかないんだから」
「そうだよハス君。メイちゃん食べる機会なんてないんだから、しっかり味わんなきゃ……わぁ!! 冗談だってー!!」
いつもなら静かなガイウス領の廊下。そこに響くリズミカルに響く足音に笑い声。
笑顔溢れるその華やかな雰囲気に、たまたま通りかかった何かを運んでいる白の奴隷が正面から歩いてきた為、視線が交差した。
「…………あ」
芽依が思わず声を漏らすと、その白の奴隷は足を止めて頭を下げた。
声を発する許可が出ていないのか返事は返さず静かに離れていく後ろ姿を見る。
「…………なんだか、悲しいね」
「悲しい?」
「食べることも話すことも、全てに許可が必要で、それを不思議に思わないその姿が、なんだか悲しいな」
眉を下げて言った芽依にフェンネルは少し考える。
「普通の奴隷だったら耐えられないと思うよ。いつもの日常を過ごしてきた僕達がある日突然、全てを奪われて奴隷になるのなんて。生まれた時から英才教育のように躾られた白の奴隷は、そもそものあり方から違うからね」
「……幸せなじゃ、ないと思うんだよなぁ」
「うん。今のハス君を知っているからそう思うんだけどね、白の奴隷はこういうものって世界的に認識されているから、白の奴隷が幸せか不幸せかなんて考える以前の問題だったんだよ」
『そんな固定概念で生きてるから、芽依が言う奴隷も1人の人間として、って事に白の奴隷は含まれてねぇんだよ。そうだな……アクセサリーならいい所で、大体は道具って認識しかねぇな』
二人の言葉に芽依はハストゥーレを見る。
微かに微笑んで首を傾げている姿を見るに、嫌悪感はないようだ。
当事者のハストゥーレがなにも思っていない様子に芽依は悲しそうに笑った。
大事にされている認識はあるけれど、自分を道具と言われても不快感などが無いのだろう。
そうやって育てられたから、その違和感に本質的な部分で気付かない。
例えば芽依たちが道具としてハストゥーレを扱ったとしても、悲しい気持ちにはなるが、それも当然と今でも認識してしまうくらいに、白の奴隷=奴隷=道具という考えが根強いのだ。
「…………いつか、自分でも怒れるくらいになってくれるといいんだけどな」
ハストゥーレの手を握りしめて、困ったように笑った芽依だが、残念ながら何に困っているのかハストゥーレには分からなかった。
「まずは午後に向けてご飯にしよう」
ガイウス領の領主館にも花で埋め尽くされた美しい中庭があった。
沢山の花が咲き乱れる中、巨大なガゼボがあり、それに向かって道が出来ている。
花のアーチが沢山連なり、花のトンネルみたいになっているのだが、全てから巨人サイズの為、ある意味花でできた室内にいるような感覚がある。
巨大なガゼボは薄茶色の巨大な屋根に骨組みだけに見える緑色の支柱。
底にまるでレースのような透け感がある壁があり、真っ白な階段が繋がっていた。
階段も、巨人サイズで縦にも横にも大きく、メディトークは全員を抱えて階段を上がってくれた。
シュミットなんかは光の無い瞳でひたすら遠くを見ている。
自分の今の姿を想像もしたくないのだろう。
普通なら転移でも移動できるのに、メディトークはいつもの癖でシュミットごと運んだのだ。
「…………っ……ふは!」
我慢できなくて笑ったら、シュミットに頬をつねりながら引っ張るというドメスティックバイオレンスな愛情を浴びたのだった。
『あかくなってんじゃねぇか』
椅子やテーブルが大きすぎて地面にシートを敷きピクニックのように昼食を始めることにした芽依たち。
事前に準備していたメディトーク特性のお弁当はボリューム満点で、全員が伸び伸びと食事を始めた。
お重に入った煮物は野菜や肉をたっぷり使っているし、子供が好きなラインナップであるハンバーグ、唐揚げ、スパゲティなども充実している
色んな具材のおにぎりがぎっしり用意されていて、芽依は最初にいくらのおにぎりを取った。
この世界ではイディクラと言うやつだ。
色とりどりの果物は飾り切りされていて、薔薇に切られたリンゴが鮮やかに咲き誇っている。
「相変わらず綺麗美味しい綺麗美味しい」
『情緒どうした』
うっとりしながら、でも目に涙が溜まりそうになる芽依に呆れているメディトーク。
芽依はよよよ……とハストゥーレに抱きつき言った。
「…………鉄分もう少し欲しい。いっぱい食べて貰うから……」
「ご……ご主人様……」
「うん、そこで照れるのがハス君だよね」
「貧血で倒れたら、どさくさに紛れてシュミットさんに抱きついて項あむあむするか、全力でフェンネルさん押し倒してお腹噛むしかないよね」
「噛まないで?!」
「全力で」
「駄目だよ?!」
また僕を歯型だらけにするつもりなの?! ね……ねぇ? 聞いてる? メイちゃん?! と、正面に座るフェンネルが騒ぎ出したが、芽依は冷静にハストゥーレから離れて熱いお茶を飲む。
「はぁ……美味しい……」
「聞いてよぉぉぉ!」
『……うるせぇぞ』
苦笑しながら食べ物を取り分けて芽依に渡し、それからハストゥーレにも取り分ける。
美味しそうなホタテがあり、先にハストゥーレに食べさせた芽依。
「ハス君あーん」
「恥ずかしいです……ご主人様……」
「ぐっ……尊い……」
恥じらい顔を赤らめて鼻を抑える芽依を、シュミットは呆れながら見る。
だが、こんな残念な女を、この4人は変わらず愛しているのだ。
こうして和やかに進む食事の時間だが、ジッと誰かの眼差しが刺すように向けられていたのだった。
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