[完結]かぼちゃ頭と夜のハロウィン

くみたろう

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 休憩できる時間はすぐに過ぎ去ってしまうと、 4人は、大時計を窓から眺めた。
 刻一刻と時間はすぎる。 早くこの狂ったパーティを終わらせたいのにそれ以上にこれからまた参加者が居る外に出る必要があるのかと精神を擦り減らす。
 外に出る時間とセーフティでの休憩が、余計に神経を擦り減らすのを、感覚が麻痺している食彩の人たちは気づかない。
 
 セーフティの場所が変わるまであと5分、もうこの場に居続けるのは難しいだろう、全員が顔を見合わせて頷いた。
 その表情は張り詰めていて、全員の気持ちが表情に出ている。

「行くよ、みんな準備は大丈夫だね?」

 タクロウは全員に声をかけると、二回目の参加だという女性、サクラも同意する。

「毎回この瞬間は、緊張で胸が張り裂けそうだわ」

 心臓が早鐘を打ち、胸元を握っていると、隣にいるマリカがポツリと呟く。
 強気に話しているが、恐怖心はあるのだ。
 震える手を隠すように握りしめているマリカが、カナトに気付き苦笑した。

「なによ、意外?」

「……まぁ」

「私だって怖いわ。死にたくなんてない。ちゃんと生きて帰って彼氏と美味しいスイーツ食べ放題に行く約束だってしてるのよ。なのに、なんでこうなっちゃうのかしらね」

 眉尻を下げて悲しそうに話してくれるマリカにカナトは胸が締めつけられた。

「それに、何度もこの場で酷い扱いを受けている人が沢山いるし、何度も見てきた。もう、あんな悲しい姿見たくないわ」

 そう言われて思い出したのは、先程吸血鬼に襲われ服を引きちぎられてしまった女性。
 あの後、カボチャ頭の怪異によってその場を離れたから見てはいないが、なにが起きたかなど誰でも分かってしまうだろう。

 名前すら知らない女性だった。
 本当に一瞬の出来事で助ける事が出来る余裕が全くなかった。
 何度も言われた、見つかったら終わり。逃げろ。

 逃げられるわけが無い。



「じゃ、全員無事に次にたどり着きましょう」

 マリカが言ったことは、簡単な事ではない。
 見つからないように逃げることが、この場所ではとても難しい。

 だけど、生きて帰るには逃げ続けるしか無いのだった。





 はぁはぁはぁ……

 全員で街中を疾走する。
 後ろには二体の参加者の怪異が追いかけて来ていた。

 一体は巨大な鍋を持った魔女。
 鍋の中には混ぜる巨大なスプーンと、ボコボコと煙を上げている怪しげな緑色をした液体が入っている。
 そこから覗くのは、皮膚が溶けて骨が見えかけている腕。 はみ出してその惨い様子がしっかりと見える。

 膝丈のスカートがめくれるのも気にせず全速力で走る魔女の見た目は可愛いふわふわ系。
 なのに、大鍋を片手で持つ所を見るとかなりの力持ちなのかもしれない。

「魔女なのに脳筋かよ!」

 飛ばねえのかよ!と続けて言うと、サクラが思わず吹き出す。

「飛ばない方が良いじゃない!!」

「魔女はほうきで飛ぶんじゃないのかってビックリするだろ!」

「見習いかもしれないじゃん!! その割には歳くってるけど!」

 ビキリと魔女のこめかみに青筋は浮かぶ。
 魔女の視線はサクラに固定され、怒りながら笑う器用なことをしている。
 その顔を見て、サクラはヒィ! と悲鳴を上げた。

「冗談じゃないわよ!バカ!!」

「俺なんもしてないだろ?!」

「喧嘩してないで走りなさい!!馬鹿たち!!」

 振り返り騒がしい二人に注意するマリカだったが、 一気に表情が困惑に変わる。

「……ピエロが、いない?」

 魔女の隣には、ピエロが居たのだ。
 派手な化粧はピエロそのものなのだが、カラフルな衣装に似合わず化粧は毒々しい。
 白塗りの顔の上には崩れた赤と黒の化粧が滲んでいた。
 その汚れたパレットのような顔面の上に、黒い大粒の涙が頬で滲まず存在感を主張している。

 大きな玉乗り用ボールは元々は白地に暖色の色合いが可愛らしいボールだったのだろうに、何かを轢き殺したのかどす黒い。
 乾いてパリパリになっている場所と真新しい血液が滴る場所が混在していて何とも不気味だ。
 通ってきた場所は、地面に血の線が出来ているのだが、途中の道から血液の向きを変えている。

「…………移動し」 

「マリカさん!!」

 すぐ隣の横道から、音もなくヌッと現れるピエロ。
 人の2倍ほどする巨大な玉に乗るピエロは、よじれた泣き顔メイクでニヤリと笑う。

「あぶなっ……」

 ぐしゃ……

 真っ直ぐに、ピエロはマリカだけを見つめて前進した。
 マリカが振り向いた時には、眼前には巨大な玉しか見えなくて、全員が目を見開いて見ている。

 ゆっくりと玉が戻り、轢かれたマリカは見られないほどにひしゃげていた。

「…………なっ、なんで……トリックオアトリートじゃ……」

「っ! 逃げろ!!」

 タクロウの声に弾かれたように顔を上げた。
 無意識に足が動く。そうしないと死ぬと、どこかで囁いた。

「っ! あぁ!!」

 また後ろで、声が響いた。
 サクラが何かに捕まったのだろう、遠くでタクロウのちくしょう!! と叫んでる声が響く。
 ひっ……と声を上げてカナトは走り出したが足がもつれそうで下唇を噛んだ。

 今すぐにでも泣きたい衝動が膨れ上がる。
 30にもなって……とも思うが、今は周りの視線を気にせず泣き叫びたい気分だ。
 
 後ろから、何かが迫って来ている気がする。

 引き攣る呼吸、心臓の音が全身から響いているように感じるカナトは、顔を歪めていた。

「……つーかまぁぁぁぁえたぁぁぁ」

 右手を冷たく細い指先が撫でる。
 そして手首をガシッ! と捕まれ、わけも分からず喚き暴れた。

「俺だ! 俺だって!」

「……タクロウ、さん?」

 さっき、確かに女性の声がして手首を握られた気がしたのに。

「……あぁ、そう。ほら落ち着け、声落として。今のうちに逃げるぞ。セーフティ探さないと」

混乱していていたから勘違いしたのだろうかとバクバクとうるさい心臓を抱えて、必死に呼吸を整えた。



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