[完結]かぼちゃ頭と夜のハロウィン

くみたろう

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 かぼちゃ頭の怪異が離れたのを見てから、マリカは建物から出てきてカナトの腕を引っ張った。
 そのまま引かれるままに建物に入ったカナトは、腕を掴まれて真剣な顔をしたマリカにじっと見られる。

「…………はぁぁぁ、捕まっていたからびっくりして飛び出しちゃったわ」

 扉の上の電球は紫に輝いているのをチラリと見てから、俯きがちに安堵しているマリカを見た。

「心配かけて、わるかった」

「いいわよ……もう1人は?」

「…………………………捕まった」

「! …………そっか」

 行きましょう、座った方がいいわ。と促されて歩き出す。
 今回はビルではなく二階建ての一軒家だった。
 清潔に保たれているが、住んでいるような感じはしない。
 モデルルームみたいな、見せる家の印象がある。
 ここは狭間の空間で、この1日の為に存在するから、食彩の休憩スペース以外の使い道がないのだろう。
 
 案内された場所はリビングだったが、ここに紫の電球はなかった。
 中には、先に走っていた二人もいて、大きなカウチソファに足を伸ばして座っていた。
 テーブルには、飲み物とつまみも並んでいる。

「……これだけ見たら、最高な飲み会会場なのにねぇ」

 ずっしりと落胆がわかる声がマリカから聞こえる。酒好きなのだろうか。 
 たしかに綺麗な室内に、各種準備された飲み物や食べ物が並んでいる。 冷蔵庫には他にもあるのだろう。

「……おー、無事だったか?」

「…………もう1人は捕まったんだね」

「カナトだけでも無事でよかったわ……無事、なのよね?」

 少し考えて首を傾げながら聞いてきたマリカに、カナトも困惑しながら首を傾げた。

「なんだぁ?」

「いや、参加者に触れられてトリックオアトリートって言われていたのに、私が行ったら簡単にカナトを解放したのよ」

「…………それは」

 マリカの声に眉を顰めるタクロウ。
 顎に手をやって、何か考えているようだ。

「…………わからないなぁ。こんなのは初めて聞いたよ。目を付けられているのに関係があるのかな」

 ふーむ……と悩むタクロウに、カナトは顔を向けた。

「……さっきいた参加者が朝から見てた人だったみたいだ」 

「っ! ……よく、連れていかれなかったわね」

「…………逃がしてやるって。まだ、時間があるからって言われたな」
 
「………………」 


 カナトの言葉に三人は静まり返った。 
 まだ、時間はある。
 その言い方は、時間が無くなったらすぐにでも迎えに来るというものだった。

 

 こうして、無事にセーフティに入ったカナトたちは、20時までの安息を手に入れた。

 意外と早くセーフティに入ったのか、まだ30分ほど時間がある。
 飲み物片手にカナトは窓から外を眺めていた。
 わざわざ2階に上がって、ひとり静かな時間を過ごしたかったカナトにとって、この二階建ての家は都合がいい。
 寝室らしき場所で、紅茶のペットボトルを傾けながら薄紫とピンクが溶け合う空を見ていると、黒い羽を羽ばたかせた怪異が飛んでいる。
 片手には女性を捕まえぶら下がっていた。

「…………あれは」

 そう、ついさっきまで一緒にいた女性だ。
 ほぼ裸の状態で、なんの配慮もなく連れていかれる女性は大時計の前に連れていかれて、20時が過ぎるのを待たれるのだろう。
 20時を過ぎたら、また言われるのだ。



 トリックオアトリート



 その先の選ぶ選択は、どちらを選んでも地獄だろう。
 怪異にしたら女性に乱暴をしても喰い散らかしても、一夜の宴なのだ。
 楽しくて、腹が脹れる最高の一夜。

 どうやらセーフティの建物内は、参加者からは見えないようだ。
 空を飛ぶ吸血鬼も、練り歩くゾンビも、四足歩行する狼男も、真横を通ってもこちらに気付くことは無い。
 ま
 覗き込むこともなく素通りして行く様子を見ながら紅茶をすする。

「……はぁ」

 自分だけの時間をほんの少しだけでも取れたカナトは、やっと頭を整理することが出来た。

「…………参加者って呼ばれる奴らに捕まらない事。死ぬ気で逃げる。0時まで逃げ続ける」

 ごちゃごちゃしたことは、この際どうでもいい。
 今考えることはこれだけだと弱りそうな心を奮い立たせる。
 弱音を吐いたら、もうとめどなく溢れるだろう。
 涙が流れて顔中ぐしゃぐしゃにしながら、なんでこんな事になったんだと喉から出血しても叫び続けるかもしれない。
 それくらい、心は疲弊していた。

 それに、握りしめたウィッグ。
 それは頭皮から直接生えているかのように全く動かなかった。
 それどころか、引っ張ると皮膚が引き攣る。
 このコスプレ衣装に自分自身が違和感なく溶け込んできているのに、やはり自分はおかしいのだろうか、違和感が感じないのだ。
 まるで、元々そうだったかのように。

「………………ちがう、ちがう」

 首を振って、この気持ち悪い違和感を振り払おうとカナトは顔を覆った。

 まるでこの世界に、じわじわと侵食されているようだった。

 

 
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