[完結]かぼちゃ頭と夜のハロウィン

くみたろう

文字の大きさ
6 / 24

6

しおりを挟む

 それは唐突に起きた。
 5人揃って外に出て、建物の陰に隠れながら周りを見て街中を駆け抜ける。
 1列に並んで息を潜めて、早く安息の地であるセーフティに向かって。
 街中はファンシーな薄紫やピンクに彩られ、可愛らしいのだが、そこかしこに血飛沫がかかったのか、血痕がある。
 それにヒッ……と喉がつるような声が漏れた。

 そんなカナトを誰も注視しない。

 
 セーフティの場所は確定していない。
 だからこそ、カナトたちは周りを見渡し、参加者に見つからないように紫の建物を探していく。
 瞬きを繰り返し、不安げに震える追加者の食彩である女性は、グズグズと鼻を鳴らしていた。
 物音にすら敏感に反応する参加者、聴覚や嗅覚にするどい参加者など相手によって特徴がるから、ほんの少しの隙が命取りになる。
 この場にいる食彩達は、それが分かっているからチラリと女性を見た。
 このまままなら捕まる。

 カナトは、ピリピリしだした三人を見て眉尻を下げると、ピィァァァァァと何かが鳴く音が響いた。
 なんの音……? と周りを見渡した時、前にいる三人がビクッと肩を揺らす。

「まずいっ! バレた!!」

 マリカが声を上げた。
 その瞬間一斉に走り出す三人に困惑して足を止めるカナトに振り向かず、マリカは叫んだ。

「走りなさい! 死にたくなければ!!」

 その言葉に弾かれたように足を動かした。
 あの参加者の誰かが、今まさに捕まえようと追いかけて来ているんだと気付いて悪寒が走った。

「っ、いゃ……」

 後ろから涙に濡れた声が聞こえる。
 恐怖に駆られて喉が焼けそうな感覚を覚えたカナトは、小さな悲鳴を聞いて首だけ振り返ると、泣きながら走る女性の後ろから、恍惚な表情で笑う男が巨大な羽を揺らして抱え込もうとしていた。

「………………つかまぁぁぁぁあえたぁぁ」

「ひっ……!!」

 ねっとりと撫でるような甘い声。
 後ろから抱きしめられた女性は、喉から絞り出されるような短い悲鳴を上げた。
 思わず足を止めて見ると、胸の前で祈るように手を組む女性を抱きしめながら耳元で囁く。

「……………………トリックオアトリート」

「…………っ」

「答えてよ、ねぇ? ここはハロウィンパーティだよ? …………答えろ!!」

「きゃあ!! っ……い、いたずら!!」

 殺されたくないと声を上げた女性の声を聞いた男は、くにぃ……と口の端を上げて笑う。
 バサッと羽を動かしてから女性を羽で包むようにしてから頬を舐めた。
  
「……イタズラ、な?」

「きゃぁぁぁぁぁああぁ!! い、 いゃぁぁ!! 」

 ビリッ……と音がなり、鮮やかな紫色の衣装が破られ宙を舞った。
 見ていたカナトは目を見開き、胸をさらけだした女性に口を開ける。
 すぐさま押し倒された女性を助けるべく駆け寄ろうとすると、目の前に現れたステッキがカナトを止めた。

「っ……!!」

 気付かなかった。
 すぐ隣にいるかぼちゃの被り物をした参加者。
 最初に、その精悍な姿に思わず見とれたその人が、まるで止めるように立つ。

「あっ……」

「アレはもう捕まっている。捕まってる相手に手出しは無用だ」

「で、も……」

 襲われている女性は悲鳴を上げて必死に抵抗をしていた。
 服は無惨にも破られて、ほぼ肌が出ている。
 上に跨る男性は嬉々として女性の肌を撫でていて、柔らかな女性の肉体に指を埋めていた。

「…………行くぞ」

 腰に腕を回して歩くように促すかぼちゃの男の力は優しくも強く、逃げられる感じはしなかった。
 たたらを踏みながらなんとか歩き出したカナトは、チラリと自分よりも背の高い男を見上げた。
 初めて見た時は細身だと思っていたが、全身に筋肉がついていてスリーピースを押し上げている。
 パンッと張った体に沿ったスーツは、今まで見た中でも抜群のプロポーションを保っていた。

「…………あの、どこに」

「走り疲れただろうから、セーフティまで送ろうとしてるんだが、迷惑か?」

「いや! 迷惑ではない!!」

「そうか」

 少しだけ柔らかな雰囲気に変わったかぼちゃ頭の怪異を見上げた。
 ふっ……と笑ったような雰囲気で、その人は腰に回す腕を少しだけ引き寄せる。
 体が触れ合い、暖かい体温が伝わってきた。
 この緊張状態に不思議だが、何だか安心してしまったのだ。

 だが、彼も参加者、先程の男と同じようにカナトを捕らえるかもしれない。 その筈なのに、落ち着いた人だからか、力が抜けそうになる。

 紫に光る建物の前まで来て、カナトはホッと息をついた。
 もう大丈夫だと、緊張感が解けてしまう。

 あれだけ、言われていたのに。

 
「…………トリックオアトリート」

 
 建物に向かおうとするカナトの、首にステッキの持ち手がかかった。
 ビクッ! と身体を震わせたカナトに腰を曲げて耳元で囁く。

「…………緊張してるのか?」

 低く響く甘やかな声。
 するりと後ろから腕が周り腰を抱かれた。

「私はな?  決めていたんだ。0時が回り31日になってすぐ見つけた人間を奪うと。だから、私のだと印を付けた」 

 抱きしめている腕がするすると這い上がり、首の鈴を鳴らす。
 チリィィィン……と静かな街中に響き、カナトはビクリと震えた。
 優しい声色なのに、じわじわと追い詰められてる感じがして粟立った。

「…………この鈴の中に、俺の印を刻んでいる。それに、この衣装も。似合うのを選んだが、気に入ったか?」

「…………こ、れ?」

「準備は我々参加者の仕事だから。君たちの最後の夜を彩る衣装を……まぁ。君は最後にするつもりはないがな」

 体を蝕む甘い声。
 痺れるような感覚にゾワゾワと快感が背中を駆け上がる。
 膝が震えて座り込みそうになったとき、扉が開いた。

「カナト!!」

「…………マリ、カ……さ……」

「腕を振り払って! 返事しないで走って!!」

 酷く緩慢にだが、マリカの声に従うように体が動き出す。
 優しく抱きしめていた手は、1度強く抱き締めたあと、問題なく離れていった。

「…………今は、逃がそうか。まだ時間はある」

 お腹の中までじんわりと響く声を残して、かぼちゃ頭はカナトから離れて行った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 最終回まで予約投稿済みです。 毎日8時・20時に更新予定です。

転生?憑依? 中身おっさんの俺は異世界で無双しない。ただし予想の斜め上は行く!

くすのき
BL
最初に謝っておきます! 漬物業界の方、マジすまぬ。 &本編完結、番外編も! この話は――三十路の男が、ある日突然、ラシェル・フォン・セウグとして異世界におりたち、ひょんな事から助けた8歳の双子と婚約して、ゴ◯チュウもどきから授かった力で回復薬(漬物味)を作って、なんか頑張るコメディーBLです!

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。 これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。 無自覚両片想いの勇者×親友。 読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。

処理中です...