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しおりを挟むそれは唐突に起きた。
5人揃って外に出て、建物の陰に隠れながら周りを見て街中を駆け抜ける。
1列に並んで息を潜めて、早く安息の地であるセーフティに向かって。
街中はファンシーな薄紫やピンクに彩られ、可愛らしいのだが、そこかしこに血飛沫がかかったのか、血痕がある。
それにヒッ……と喉がつるような声が漏れた。
そんなカナトを誰も注視しない。
セーフティの場所は確定していない。
だからこそ、カナトたちは周りを見渡し、参加者に見つからないように紫の建物を探していく。
瞬きを繰り返し、不安げに震える追加者の食彩である女性は、グズグズと鼻を鳴らしていた。
物音にすら敏感に反応する参加者、聴覚や嗅覚にするどい参加者など相手によって特徴がるから、ほんの少しの隙が命取りになる。
この場にいる食彩達は、それが分かっているからチラリと女性を見た。
このまままなら捕まる。
カナトは、ピリピリしだした三人を見て眉尻を下げると、ピィァァァァァと何かが鳴く音が響いた。
なんの音……? と周りを見渡した時、前にいる三人がビクッと肩を揺らす。
「まずいっ! バレた!!」
マリカが声を上げた。
その瞬間一斉に走り出す三人に困惑して足を止めるカナトに振り向かず、マリカは叫んだ。
「走りなさい! 死にたくなければ!!」
その言葉に弾かれたように足を動かした。
あの参加者の誰かが、今まさに捕まえようと追いかけて来ているんだと気付いて悪寒が走った。
「っ、いゃ……」
後ろから涙に濡れた声が聞こえる。
恐怖に駆られて喉が焼けそうな感覚を覚えたカナトは、小さな悲鳴を聞いて首だけ振り返ると、泣きながら走る女性の後ろから、恍惚な表情で笑う男が巨大な羽を揺らして抱え込もうとしていた。
「………………つかまぁぁぁぁあえたぁぁ」
「ひっ……!!」
ねっとりと撫でるような甘い声。
後ろから抱きしめられた女性は、喉から絞り出されるような短い悲鳴を上げた。
思わず足を止めて見ると、胸の前で祈るように手を組む女性を抱きしめながら耳元で囁く。
「……………………トリックオアトリート」
「…………っ」
「答えてよ、ねぇ? ここはハロウィンパーティだよ? …………答えろ!!」
「きゃあ!! っ……い、いたずら!!」
殺されたくないと声を上げた女性の声を聞いた男は、くにぃ……と口の端を上げて笑う。
バサッと羽を動かしてから女性を羽で包むようにしてから頬を舐めた。
「……イタズラ、な?」
「きゃぁぁぁぁぁああぁ!! い、 いゃぁぁ!! 」
ビリッ……と音がなり、鮮やかな紫色の衣装が破られ宙を舞った。
見ていたカナトは目を見開き、胸をさらけだした女性に口を開ける。
すぐさま押し倒された女性を助けるべく駆け寄ろうとすると、目の前に現れたステッキがカナトを止めた。
「っ……!!」
気付かなかった。
すぐ隣にいるかぼちゃの被り物をした参加者。
最初に、その精悍な姿に思わず見とれたその人が、まるで止めるように立つ。
「あっ……」
「アレはもう捕まっている。捕まってる相手に手出しは無用だ」
「で、も……」
襲われている女性は悲鳴を上げて必死に抵抗をしていた。
服は無惨にも破られて、ほぼ肌が出ている。
上に跨る男性は嬉々として女性の肌を撫でていて、柔らかな女性の肉体に指を埋めていた。
「…………行くぞ」
腰に腕を回して歩くように促すかぼちゃの男の力は優しくも強く、逃げられる感じはしなかった。
たたらを踏みながらなんとか歩き出したカナトは、チラリと自分よりも背の高い男を見上げた。
初めて見た時は細身だと思っていたが、全身に筋肉がついていてスリーピースを押し上げている。
パンッと張った体に沿ったスーツは、今まで見た中でも抜群のプロポーションを保っていた。
「…………あの、どこに」
「走り疲れただろうから、セーフティまで送ろうとしてるんだが、迷惑か?」
「いや! 迷惑ではない!!」
「そうか」
少しだけ柔らかな雰囲気に変わったかぼちゃ頭の怪異を見上げた。
ふっ……と笑ったような雰囲気で、その人は腰に回す腕を少しだけ引き寄せる。
体が触れ合い、暖かい体温が伝わってきた。
この緊張状態に不思議だが、何だか安心してしまったのだ。
だが、彼も参加者、先程の男と同じようにカナトを捕らえるかもしれない。 その筈なのに、落ち着いた人だからか、力が抜けそうになる。
紫に光る建物の前まで来て、カナトはホッと息をついた。
もう大丈夫だと、緊張感が解けてしまう。
あれだけ、言われていたのに。
「…………トリックオアトリート」
建物に向かおうとするカナトの、首にステッキの持ち手がかかった。
ビクッ! と身体を震わせたカナトに腰を曲げて耳元で囁く。
「…………緊張してるのか?」
低く響く甘やかな声。
するりと後ろから腕が周り腰を抱かれた。
「私はな? 決めていたんだ。0時が回り31日になってすぐ見つけた人間を奪うと。だから、私のだと印を付けた」
抱きしめている腕がするすると這い上がり、首の鈴を鳴らす。
チリィィィン……と静かな街中に響き、カナトはビクリと震えた。
優しい声色なのに、じわじわと追い詰められてる感じがして粟立った。
「…………この鈴の中に、俺の印を刻んでいる。それに、この衣装も。似合うのを選んだが、気に入ったか?」
「…………こ、れ?」
「準備は我々参加者の仕事だから。君たちの最後の夜を彩る衣装を……まぁ。君は最後にするつもりはないがな」
体を蝕む甘い声。
痺れるような感覚にゾワゾワと快感が背中を駆け上がる。
膝が震えて座り込みそうになったとき、扉が開いた。
「カナト!!」
「…………マリ、カ……さ……」
「腕を振り払って! 返事しないで走って!!」
酷く緩慢にだが、マリカの声に従うように体が動き出す。
優しく抱きしめていた手は、1度強く抱き締めたあと、問題なく離れていった。
「…………今は、逃がそうか。まだ時間はある」
お腹の中までじんわりと響く声を残して、かぼちゃ頭はカナトから離れて行った。
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