愛妻~最強妻とメロメロ夫の日常生活

くみたろう

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はじまり


 春。入学から2ヶ月がたち、新入生は新しい日常に慣れ始めてきていた。
 真新しい制服は着慣れてきて、今までにあった新品感は体にフィットしている。
 友達も出来て、放課後には楽しそうに笑い合う生徒の声が廊下に響く。
 それを、職員室に戻る1年C組の担任である高橋茜は聞きながら小さく唇に笑みを浮かべた。
 いつもは無表情で怖いとすら言われる教師は、皺ひとつないシャツの襟に指を掛けて少しだけ引っ張った。
 毎日丹精込めてアイロンをかけてくれる妻のおかげで、シャツもスーツもパリッとしている。
 グレーのスーツに、生成色のシャツ。そして、藍色のネクタイにタイピン。
 全て、妻のコーディネートだ。
 朝起きて来たら、既に準備されたそれに大きめの弁当。
 まだ化粧せず、寝癖だらけの髪を簡単に結んだ妻が、半眼で「ん」と突き出してくるのだ。

「あ、先生さよーならー」

「はい、さようなら。廊下は走らないように」

「すんませーん」

 注意にも頭を下げて軽く謝る男子生徒。それでも足音を鳴らして走り去る学生に小さくため息を零す。
 180cmある高身長から見下されたら、やはり怖いと感じるのか慣れるまでは女生徒がこの教師に楯突くことはあまりないが、元気な男子生徒はニコニコ笑って気軽に話しかける。
 先ほどの生徒もそのうちの一人で、ヒラヒラと手を振っていた。

「……まったく」

 どうしようもないな……と首を振ると、前から歩いてくるこの学校の事務員の女性。
 膝丈のタイトスカートタイプのスーツを着こなし、ロングヘアをひとつに結んだ女性は、温和な笑みを浮かべて教師と視線を交わした。
 にこやかに笑って目を細めるその女性は、お淑やかで、綺麗で、穏やかな女性。
 既婚者なのに、職員や生徒にすら人気の事務員さんである。

「あら先生、お疲れ様です」

「お疲れ様です。すいません、この書類なんですが」

「はい」

 差し出された紙を見るため少し近づいた事務員の女性は両手に書類を持っているため覗き込む。
 紙を少しだけ下げて見やすくした茜よりも低いが、170cmの高身長女性。
 目を伏せてそれを見てうなずく女性は、穏やかに微笑み赤くきらめく唇を持ち上げた。

「わかりました。後ほど処理しますので、机に置いておいてくださいね」

「助かります」

 事務員さんとは正反対の教師は、無表情で眼鏡を押し上げながら感謝を示した。
 それに事務員さんは変わらない笑みで1歩近づく。

「……感謝は体で返してよ」

「…………………………ここ学校」

 クスクスと笑いながら離れる女性の背中をチラリと見てから、教師は少し赤らめた頬を軽く叩いて歩き始めた。
 職員室で心配されたのは言うまでもない。 

 そんなこのふたりは、夫婦である。


「……あー」

 庭付き二階建ての一軒家。室内は落ち着いた白と黒でまとめられている。
 女性らしい明るさは無く、シックでかっこいい室内は過ごしやすい。
 夫の好みのように思われるが、これは全て妻の趣味だった。
 
 黒いカバーがかかったフカフカのソファの背もたれに頭を乗せて、ビール片手に息を吐く。
 ショートパンツからさらされる白い足は組まれて、だらりとしていた。
 その足元に座って頭を預けるのは、学校ではありえない姿をさらす夫の姿。

「……茜、腹減った」

「まだ17時だけど、先にご飯にする?」

「ん。今日なに?」

「藤子さんがうどん食べたいって言ってたからうどんだよ。坦々麺風にしようかなぁ」

 うーん……と悩んでいると、背もたれから体を離した藤子はうつむき気味の夫の頬にそっと手を添えて上に向ける。
 そのまま顔を下げて、唇を添えた。
 柔らかな感触が唇を覆い、リップ音が静かな室内で響く。

「……え」

 見上げる先にはニヤリと笑う藤子。髪が流れてカーテンのように周りを遮断する。
 至近距離から見つめる妻は、また唇を少しだけ狭めてチュッと音を鳴らした。

「ありがとう、旦那さん」

 目を細めて笑うのは少しだけ意地悪そうで、夫はへなへなと妻の膝に頭を乗せた。
 真っ赤な顔を手で抑えながら、もごもごズルイよ……と呟く夫の頭を手のひらで撫でる妻は、またソファにだらりと体重をかけ、動き出せない夫がうどんを作るまで気長に待つことにした。

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