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いちご飴
今日は学校の調理実習。
果物に飴をコーティングしてデザートを作るようで、事務員さんの高橋藤子は箱に詰まった苺を運んでいた。
小ぶりの少し酸味が強い綺麗な苺で、同じ事務員の牧下二郎と一緒に1クラス分を今日の使用クラスである1年C組の教師である高橋茜がいる職員室までのお届けだ。
事務員室と職員室は近いが場所が違う為、こうやって荷物を届けるのは日常なのである。
「凄い量ですね、苺うまそう」
じっと見る牧下は、チラリと藤子を見た。
その瞳には、じっとりとした熱が点っているのだが、一切視線を交わさない藤子。
「あの、高橋さんは苺好きですか?」
「はい、好きですよ。美味しいですよね」
「あ! それじゃあ……」
一緒に いちご狩りに行きませんか? とデートに誘おうとした牧下だったが、職員室前に着いて言葉が遮られた。
その内容に予想が着いた為、返事を返さず扉をノックする。
冷徹にも、プライベートとのオンオフをしっかりしている藤子はチラリと牧下を見て仕事中ですよ? と釘をさした。
「失礼します」
扉を開けると、職員室内に居る教師達の視線を集めた。
にこやかな笑みを湛えたまま入室した藤子は、目的の人物である茜の元へと進んでいく。
大きな黒い弁当箱を片手に口を動かしている教師は、顔だけ向けた。
(藤子さん、またあの男と一緒にいる)
無表情ながら不機嫌そうな夫の様子に、藤子は笑みを深めた。
2人は夫婦である。だが、よくある高橋という苗字のせいか、2人を夫婦と結びつける人はいなかった。
つまり、2人の関係を知る職員は極めて少ないのだ。それも、婚姻の際の状況にも起因しているのだが。
「調理実習の苺をお持ちしました」
「……ん、ありがとうね」
箱に並んでいる苺をちらりと見てから、隣の教師の机を指さした。
「ここ置いて」
窓際の高橋茜の机、その隣は仲の良い教師の机で、太陽の様な笑みを浮かべておにぎりを食べている教師は机の一角を指さした。
「ここ、いいぜー」
「はい、ありがとうございます」
「おー、美味しそうじゃん。甘いの?」
「コーティングするので少し酸味が強いのを選んでるんですよ」
へぇ、と全員でツヤツヤの苺を見てから、藤子は変わらない笑みで職員室を後にした。
「…………まぁた、男ホイホイしてんね、奥さん」
「……はぁ」
牧下の眼差しは分かりやすく藤子に向いていて、2人は呆れていた。
同僚は椅子に背を預けて茜を見ると、人を殺しそうな凶悪な顔をしていて、こーわ! と笑った。イライラしているのか指先が何度も机を叩いた。
「せんせぇ、見てみてー! キラッキラ!」
美しくコーティングされた苺がお皿に並んで転がっている。
茜に慣れた女生徒達がキャッキャと笑いながら見せるのを、腰を屈めて眺めた。
「先生にもあげるよ、奥さんのお土産にしたらー?」
そう言って、ラッピングされた1粒の手渡された苺を現在ソファに座って眺めていた。
コーティングしたイチゴはキラキラと輝く。指先で日にかざして見てから唇に挟んでみたが、飴の味しかしない。
それを見ていた妻が、おもむろに口を合わせてきた。ぬるりと動く舌が口の中に苺を押し込む。
「噛んで」
「……ん」
パリパリと小気味いい音を鳴らして小さな苺のコーティングを割ると、中から少し酸味の強い苺の甘みが口に広がった。
飴の甘みと苺の甘酸っぱさ、ぐちゃりと潰される果肉を感じていると、妻は目を細めて口を開ける。
「見せて」
軽く開けた唇の中に、迷うことなく入り込む舌が艶めかしく動き、苺をさらに潰していく。
苦しさに妻の服を握りしめて顔を背けようとすると、後頭部が手で支えられた。
「んん……」
「まだ、逃げるなって」
口端から流れる潰れた苺を舐め取りながら、楽しそうに笑う妻は、また噛み付くように唇を合わせてきた。
「んっ……急に……どうしたの?」
「同僚に嫉妬してる可愛い夫を慰めてやったんじゃないか」
口に残った飴をガリッ……と噛みながら言う妻に、顔がじわじわと赤くなる。
えっ、えっ、と焦る夫の顎を指先で捉えて妻は笑った。
「わかりやすいよ、お前。大丈夫、好きなのは茜だけだよ」
「…………や、だぁ……もぅ……」
真っ赤に染まった顔は手では隠しようがない。
こうやって今日も、妻にまた恋をするのだ。
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