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第一章:ローズ街工場地区の事件録
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しおりを挟むセラフィエルが使う神具 光導杖
ジェイクが使う神具 祓魔リボルバーと、特製祈祷煙草
どちらも個人使用の特注品で、それぞれに性能がある。
神具は元々高額なものだが、個人の特性に合わせたオーダーメイドが1番馴染み、力が発揮しやすい。
特に愛用品を媒体にした神具は使用者との調和も良く、より馴染む。大事にしているものを破損不可の魔術をかけて肌身離さず使い込むのだ。
セラフィエルは目が見えない。
その為、導くための白杖に「純粋さ」「浄化」「神の声を透す媒介者」を意味するクリスタルを装着し、悪魔が現れたら濁るように。
杖に着けた銀の小鈴の音は、視覚を持たないセラフィエルが「音で世界を導く存在」であることを象徴し、退魔の意味合いがある鈴が甲高く鳴り響く時、悪魔が近づいているとわかるように。
その人にあった神具を作る。
それは、祓い師の一種のステータスでもあった。
セラフィエルの周りも、ジェイクの周りも神具や祈りの影響で煌めいている。
それを、少し離れた場所でニールは見ていた。
誰もが憧れる個人の神具。
セラフィエルは、ニールのひとつ上の階級ではあるが、その力の差は歴然だった。
この『浄化の祈り』だけでも、力量の差をありありと感じるニールは、冷や汗をかきながらセラフィエルを見つめる。
「…………は、は……どの口が守ってあげたくなるなんて……言ってんすかね」
「セラは、あのジェイクと組めるヤツだ。そんな弱いわけないだろう」
ヴィクターは以前、別のバディと組んでいた時にセラフィエルたちと一緒に仕事をした事がある。
当時、まだアプレンティスだったセラフィエルが貸し出しの神具を使ってヴィクターを圧倒した。
見習いとも言える階級で、現れた悪魔を慈悲もなく倒す姿は神がかっていて思わず見とれたものだった。
その姿が、今はさらに神々しく見える。
セラフィエルの姿は美しく、そして慈悲なく力で叩き潰す。
それを思い出したが、今はニールの昇格試験を加味した仕事なのだ。
美しく正常化された場に、ゆらぎも歪みも無く張り巡らされた結界によって出来た聖域は極上の仕上がり。
これ程お膳立てされた場所はない。
「あ、炙り出すっす!」
慌てたように借りてきた十字架とベルを出す。
神具とはいえ、合う合わないがあり、現場の中で自らに合う物を模索するのだ。
どうやら、ニールは十字架かベルが合うようだ。
ニールが持つベルを高々と掲げて鳴らす。静かな場に不協和音が響き、その不快感さにセラフィエルが顔を顰めた。
「全知全能なる神々よ。その御力を我に貸したまえ。この場に隠れる悪しき存在を、闇に紛れる悪の姿を…………聖なる光で……姿を表わせ!」
途中途中、祈りが途切れる。
神に力を借り入れる願い。 それが祈り、 それが祈祷。
それが途切れたら、貸そうと力を振るう神の手がゆっくりと閉じてしまう場合がある。
途切れそうになる祈りは、ギリギリ聞き届けられた。
とはいえ、その威力は本来のものより弱く周囲に多少の影響を与えるくらいだ。
悪魔からの干渉もあり、祈りを捧げるニールの声がガサガサと聞き取りづらくなっていたせいだろう。
耳がいいセラフィエルには、この不協和音ですら不快感を感じさせる。
よろっ……と体を揺らすセラフィエルは小さく声を上げた。
「…………ん」
じんわりとまた、室内の温度が上昇していく。
ふわりと空気を孕んで広がりバサバサと鳴る服の音がそこかしこで聞こえるのを、今は聞きたくないと首を緩く横に振った。
突然始まった体を揺らすほどの不快感に目を瞑ると、そばに居たジェイクが腰を抱いて引き寄せてきて、ゆるゆるとセラフィエルは目を開けた。
「大丈夫か?」
「不愉快な音です……これがニールの炙り出しなんですね」
「お前には相性が悪いな」
杖で支えながらジェイクに寄りかかるセラフィエルが小さく頷く。
目が回るような感覚すらあって、ジェイクの衣をそっと握ると、抱き締める手に力が入った。
煤の混じった煙の香りが充満してきて、スン……と鼻を鳴らす。
「…………匂いが濃くなりました」
「そろそろ来るな」
頭を抱きしめるように、ジェイクの腕が耳を塞ぐ。
響く不協和音は少しずつセラフィエルの耳から離れていき、次第に聞こえるのはジェイクの鼓動。
両手でキュッと光導杖を握りしめるセラフィエルは次第に落ち着きを取り戻し、ゆっくりと息を吐き出した。
じわじわと壁が黒く変色している。
煤が染み付いたような薄汚れた黒いシミが広がっていくようで、見ていて気分が悪くなるな……とジェイクは黙って視線だけを向けた。
それは次第に人の形になり蠢く。 目だけは不気味に赤黒く光り、手が壁から剥がれ落ちてくる。
広範囲に広がった煤が集まり、人型になって壁から離れ具現化した。
「出てきたな」
ヴィクターが指先で十字にきってから、聖水を撒いた。
バシャ……と水の跳ねる音がして、セラフィエルはゆっくりと体勢を整える。
「大丈夫か」
「はい、ありがとうございます」
聖水の清らかな気を吸い込み、セラフィエルは、滲む琥珀色の目を数度瞬きした。
「…………ニール、僕たちはどう動けば良いですか?」
「あっ……えっと、俺が本体を出しますので、サポートお願いしたいっす!」
「そう……わかりました」
焦りからニールの声は上擦ったが、しっかりと指示を出していた。 バタバタと走る音と、隣を走り抜ける気配、風をセラフィエルが受ける。
「本体……ですか」と、少し悩みながらも頷いたセラフィエルは見えない瞳を宙に彷徨わせた。
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