The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 ヴィクターは悪魔から目を離さずに動き、力無く倒れるニールの腕を掴んだ。
 ゆっくりと顔を上げたニールは、真剣なヴィクターの横顔を見る。

「…………ニール。ここで挫けるな。まだ、お前は先に進める。今ここにはお前と同じ立場のセラフィエルがいるんだ。交渉や攻撃、スタイルは違うが、吸収するべきものは沢山ある。しっかり見て、技術を盗め」

「………………は、いっす!」

 腕で目元を強く擦り、流れる涙を拭ったニールは、聖水を持っているセラフィエルを見た。



 
 バシャ……と床に聖水を広げる。
 それは境界。 悪魔が接触を試みる距離を明確に遮るために、セラフィエルは先に聖水を撒いた。 

 バディは攻撃と防御に分かれる。
 そして、悪魔祓いを行う儀式のうえで、内部の役割は二人で決める。 交渉はセラフィエルの役割となっていて、それをジェイクが支えるのだ。
 どの祓い師も交渉が出来るようになるが、大体は固定となる。


 「天にまします我らの神よ、我に力を授け給え」


 小さく紡がれた言葉に寄ってセラフィエル自身の力が向上。 そして、交渉にはいった。


「全能にして唯一なる御名のもとに命ず。
闇に隠れし者よ、その姿を欺くことなく、ここに現れよ。
我は神の御前にて問う。
汝の名を告げよ。
汝の来たる理由を述べよ。
汝がここに縛られし因果を語れ。
我はただの人にあらず。神の代理人として、今ここに汝を裁く」 

 
 緩く両手を握って頭を下げる。 祈りは天に届き、その力はセラフィエルに宿る。
 静かに、だが厳かに。
 セラフィエルの言葉が響いて空気が張り詰めた。



 《………………………………》



 静まり返る。先程は声を出していた煤も、今はまるで口が無いかのように黙っている。
 交渉に進んだことで、悪魔が警戒して様子を見ている。
 じり……と距離を開けた。


「………………はじめまして。あなたは今、この聖域から出られる状態ではありません。それは、わかりますか?」

 穏やかな声が響く。 懺悔室で悔い改める信徒に優しく語りかけるような、柔らかく甘い声。
 頑なに閉じている心を真綿で包むような、包容力ある声。 だが、それにも身動ぎしない。

「……どうか、対話を望みます。貴方はどの位にいる悪魔ですか?」

 《………………だせ》

「貴方のお名前は?」

 《うぅ……るぅ……さい》

「この場を選んだ理由は何でしょうか」

 《だぇ……か……ぁ……い、うかぁ》
   

 途切れ途切れの話し方。 煤の悪魔の声色は分かりやすく苛立ちを伝えてくる。

「すでに25人の失踪者が出ていると聞きました」

 《フ……ン》

「……25人、25……の割には、貴方は姿を現しませんね?」

 《………………………………》

 25は、ただの数字じゃない。
 様々な偶然が重なり、様々な現象を起こす25という数字。

 工場内をぐるりと見る。
 黒い煙を吐き出すこの工場は、今も静まり返っている。 工場は変わりは無い。 ただ悪魔の影響でギシギシと結界が軋む。

「…………広い工場地帯。マシューさん。この場所は、入口から数えて25箇所目の工場ですね」

「あ、あぁ」

「この場所にたどり着くまで、連絡通路を通りましたが、25箇所、曲がりました」

「…………は」

 《……………………》

「連絡通路も、25の鉄の道を繋ぎ、鍵束に並ぶ25個目の鍵がこの地の扉を……開けませんでしたか?」

 無言でマシューが鍵束を出し、数を数える。
 そんな意識したことが無かった……と震える指先でゆっくりと数えると、25個目で手が止まった。


「……に……25個、目……だ」

「そうですよね。鍵を探す時の擦れる音が25回、ありました。これだけ25に溢れた場所は、悪魔が選びやすく力を蓄えやすい場になります。 ですが…………それにしては実体化も出来ない……随分と位の低い悪魔ですね」

 顎に手を当て微笑み、首を傾げるセラフィエルに悪魔は怒りを顕にした。

 
 《ガアァァァァアア…………!!》

 
 室内の熱が一気に上がり、気温をあげる。
 ジェイクは小さくため息を零して、また新しい煙草を用意した。
 薄く開いた唇に特製祈祷煙草サンクティタスを挟む。
 
 カチン……と祓魔リボルバージャッジメントが音を鳴らして煙草に火をつけると、ちょうど煤の形をした悪魔は不格好にも走り出し、セラフィエルへ一直線に向かって来ていた。
 聖水によって隔たれた境界線に触れる前に、ジェイクが投げ飛ばした煙草が跳ねる。
 ただの火ではない、青白くゆらめく光の壁が瞬時に立ち上がり、煤は慌てて動きを止めた。

「…………ジェイク、大丈夫ですよ?」

「お前は毎回毎回、見た目に似合わねぇ挑発をするな」

「見た目は関係ありません。……あぁでも、分かりやすい挑発に、こうも乗ってくれるなんて……助かりますね」

「………………はぁ」

  やれやれ……と首を振るジェイクと、大丈夫なのにと笑うセラフィエル。
 そんな二人をニールは目を丸くして見ているし、ヴィクターは相変わらずだな……と苦笑した。



「………………これで、ハッキリしました。拐ってはいるけれど25人死亡にまでは至っていませんね。そして、貴方は……憑依型のインプです」

「……インプ、なんすか?」


 ニールの驚いた顔がセラフィエルを見る。
 にこやかに笑うセラフィエルは、煤へと顔を向けたまま頷いた。


「そうですね 、これだけの場が整っていながら実体化も出来ていません。まだランクも上がっていないのでしょう」

 《あと一人だぁぁぁ! あと一人で25になるぅぅ……もう、もう!! 俺ぁぁ……レッサーデーモンになるんだぁぁぁぁ》

「………………なるほど? 目的はランク上昇の為の生贄として、25人の人の魂と…………ついでに広範囲の汚染、でしょうか。広い工場地帯を汚染するなら巣を作り、レッサーデーモンになった後に周囲をさらに汚染して…………また、位を上げるとでも思っているのかもしれませんね」

 フワッと笑うセラフィエルを敵と認識したのか、煤は火の壁をどうにか渡りたいと叫び声を上げ、近付いては下がるを繰り返している。

 上がる叫びは何を言っているかわからず、耳に響くしゃがれた奇声。

 それを見るセラフィエルは首を傾げた。


「………………まだ、ですね」






 カタカタと体が震えるのはニール。
 まだ見習いと呼ばれる等級にいるとはいえ、たった一つ上の等級のセラフィエルが行う交渉は、次元が違うと理解して首を振る。

「…………な、なんで……鍵の順番なんか……通路の数や……曲がった回数なんか……覚えてる訳ないっすよ……」

「目が見えないからこそ、常日頃セラは周りの状況を把握して記憶していると言っていたぞ。そうしないと、日常生活ですら困難になるって。それが、当然の事と刷り込まれているんだ。歩幅を揃え、歩数を数え、どこで曲がったらどこに着く……みたいに覚えてると」

「…………………………もう、そんなの技術以前の問題じゃないっすかぁぁぁ」

「まぁ、それはな……」


 まるで煽るように交渉するセラフィエルと、すぐ側に立つ呆れた顔をするジェイクを見る。
 顔を引き攣らせながらニールが「……無理無理」と言うと、ヴィクターは苦笑したのだった。
 

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