The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 交渉という名の言葉の暴力を投げかけるセラフィエルは、酷くイイ顔をしている。
 楽しく相手を煽っているように見えるが、全ては悪魔の本体を炙り出したいから。

 煤の状態は、所謂影のような存在なのだ。
 だから、セラフィエルはこの悪魔を呼び出して名前を名乗らせたい。


 《俺がぁ……お前の前に……でることぁ……なぁい》

「…………いえ、出てもらいますよ。そうしないと、貴方はまだこの惨状を続けるのでしょう?」

 《俺が……どこにいるか、……わからない、のにぃ?》

「……そうですね、だから無理やりにでも引っ張り出しましょうか」

 《……いや、だね……》

 言葉を繰り返す。
 最初の祈りの効果はまだ効いている。 セラフィエルから紡がれる言葉は神の声、神の吐息、

 だが、それは永遠ではない。 継続時間は25分。

 
「…………………………あなた、24人食べました?23人?」

 《……さあな》

「………………ずいぶん、綺麗に話が出来るようになりましたね?」

 《………………………………》

「……………………食べましたね? この短時間に。25人目」
 
 細められる濁った琥珀の瞳に、煤の顔が笑うように歪む。

 《…………人間はうめぇなぁ……肉が柔らかく歯触りがいい……肉を噛み切った瞬間溢れる血肉が口の中に広がって……そりゃぁ……どんか酒より美味だぁ》

「……悪趣味ですね」

 《美食家の間違い……だろうがぁぁ》

 ジェイクが出した炎の壁を煤が覆いかぶし炎を消した。
 煤が聖水を汚して道を作り、セラフィエルに迫る。  だが、 セラフィエルのすぐ後ろに現れたジェイクが、肩から腕を伸ばし煤に向けたのは大きなリボルバー。
 ライターの形をした神具祓魔リボルバージャッチメント特製祈祷煙草サンクティタスに火をつけるだけの神具ではないのだ。


「悪しき者よ、退けよ」


 ジェイクの静かな声が響き、セラフィエルの少し前で銃弾が放たれた。
 響く銃声。すぐ後に立つジェイクの腕が、セラフィエルの肩に乗る。


「…………わざわざ僕の前で打つ必要ありました?」


 音に敏感なセラフィエルの肩の上から伸びる腕は、至近距離で銃声を鳴らした。
    その配慮の無さにセラフィエルは眉を寄せている。
 肩にあった腕はそのままに、逆の手が後ろから抱き締めるように腰に回った。
    
    ジェイクは、セラフィエルを抱えたまま祓魔リボルバージャッチメントの弾薬を入れるシリンジを横に出しクルクルと回した。

「ジェイク……?」

 返事の無いジェイクを振り返る。 顔があるだろう場所を見上げるが、光が遮られ闇しか見えない。

「どうしましたか?」

「…………25人、喰ったな」

「そう、ですね」

 25人喰ったという事は、その分力が増幅されている。  まだ煤の姿の影がこの場にいるが、確実に本体はどこかに潜んでいるだろう。
 カシャン……とジェイクがリボルバーを戻す音セラフィエルが聞いていると、2人分の足音が近付いてくる。
 すぐ横に来たニールとヴィクターは、煤の影を眺めた。
 
 ニールがチラッとジェイクを見る。 片手で持つ少し大きなリボルバー。 
 ジェイクの専用神具は2つあって、 普通1個でもなかなか持てないオーダーメイドを2個も……と、チラチラ視線を向けてしまう。
 その視線に気付いたからか、ジェイクはするりと腕を離してセラフィエルから数歩離れた。
 首の後ろに手を当てて首を動かすと、コキッ……と音が鳴っているのをセラフィエルが聞いている。


「…………出てくるっすかね?」

「出てくるだろ、あれは堪え性がなさそうだ」

 ニールの緊張混じりの声に、少し緩くヴィクターが返事を返す。 それにジェイクは腕を組んで立ったまま顎で示した。

「あれだけセラが煽って、その後銃弾ぶち込んだんだ。出てくるだろう」

「…………あれが、交渉……ヴィクターと全然違うっす」

「セラの性根の悪さが出た交渉だろう?」

「ジェイク?」

 そんな軽口を叩く4人の後ろでは、マシューが信じられないと目を見開き見つめていた。
 悪魔祓い、悪趣味なその内容は話で聞くだけだった。

 悪魔が一般常識になり、幼い頃から教育の一環として含まれるようになった昨今ではあるが、まだ一定数悪魔など居ない、そんなのは精神の病んでいる人が言う妄想や戯言だという人がいる。
 特に、高齢の人により如実に現れ、その人に育てられた子も思想が変わる。

 だから、実際に悪魔祓いを見て錯乱したり、こんなのはハッタリだと、祓い師に掴みかかったりする人がいるのだ。


「こ……こんな……こんなのは夢だ! 親父は悪魔なんていないってっ……!!」

 マシューには衝撃が強すぎた。 まだ悪魔祓いの前半で、本体すら出ていない状態でマシューが混乱してきたのだ。
 ニールがすぐさま走り出し、マシューの肩を掴む。

「マシューさん、これは夢でもハッタリでもないっす。現実に悪魔は現れて、力をつける為にここにいるっすよ」

「あ……あぁ……あ……」

 ガタガタと震えながら恐怖にひきつる顔でニールを見る。 目の焦点が合わずあっちこっちに忙しなく動く様子に、ニールは少し強くマシューの肩を叩いた。

「でも、大丈夫っす。安心してください。祓い師は必ず悪魔を祓うから。大丈夫っす、落ち着いて、深呼吸するっす」

 ニカッと太陽のように笑うニールに、マシューは荒い息が少しずつ落ち着いてくる。

「そうそう。渡した十字架は? お、いいっすね。ギュッと握っててください。怖くて見れなかったら薄目でもいいっすよ」

「…………は、はは。もう、大丈夫だ。悪かったな」

「いーすよ。俺も最初はビビってヴィクターにしがみつきましたもん!」

 あはっ! と笑うニールの姿を見たジェイクは口の端を持ち上げて笑う。

「…………パニックになった依頼人を落ち着かせる、優秀じゃないか。気絶させます? っていう、うちのセラとは大違いだな」

「ジェイク? 文句ありますか? あんな状態でいられても邪魔でしょう」

「…………相変わらず仕事になると切り替えが激しいな、セラは」

 苦笑するヴィクターに、セラフィエルはちょっとムッとして「人命優先じゃないですか……」と下唇を噛んだ。
 そんなセラフィエルの唇にジェイクは指を這わせる。
 人差し指を口の中に入れて無理やり開けさせ、「噛むな、赤くなる」と注意をされた。
 まだ不機嫌なセラフィエルはそのままジェイクの指を噛む。

「…………噛むな」

 不機嫌になったり、考え事をするセラフィエルの癖で、出血するまで噛み締める事もある。
 だから、その度にジェイクに止められるのだ。

「………………お前たちは、なんというか」

 後ろから腕を回してセラフィエルの口を抑えるジェイクと、指を噛むセラフィエルを見て、ヴィクターはいつも感じるふたりの距離感に苦笑した。
 

 
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