The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 マシューが落ち着いたのを見て、ニールが聖水をふりかけ祈りを捧げたあと、ヴィクターの隣に戻ってきた。

「落ち着いたっす、よかっ…………うぉぉお?! なんすかその至近距離のえっちな感じは?!」

「…………なにがですか?」

「なにが?!」

 ジェイクの指を離して首を傾げるセラフィエル。 見えないから、他の人達の距離感がいまいち掴めていない。
 まぁ、ジェイクは少し距離感が近いですよね? くらいの認識なのだ。  指を離されたジェイクの腕はセラフィエルの肩に乗り、ニールを見ると、ぷるぷると震えている。
 そんなちょっとズレてるセラフィエルに、ニールの悲鳴に近い声がまた響く。

「いやっ! 指舐めてましたよね?! いま!!」

「………………?  いえ、噛みました」

「そうじゃなぁぁぁぁいっすぅぅぅ!!」

「………………舐めた方が良かったんですか?」

「ちがうな」

 ジェイクを見上げて聞くと、ベシッ……と軽くセラフィエルの頭に衝撃がくる。
 ジェイクの手のひらが頭に乗り、そのまま撫でられた。
「ちがうんですか……」と、首を傾げると、ふわっ……と空気が変わった。
 また、来た時のような熱を感じ、次第に熱風に変わっていく。

 セラフィエルは向きを変えた。 薄れていた煤が蠢いている。 
 それは少しずつ、また形を作っていった。 

 
 ゾワッ…………


 身体中に寒気を感じたのか、マシューがブルっと震えて、渡されていた十字架を握りしめる。
 青ざめた顔でキョロキョロ周りを見るが、マシューに変化は分からなかった。

 だが。祓い師から見たら明らかな変化だった。
 パァン……パァン……と何かを叩くような音が響く。 その後、稼働していない工場が動きだし、黒い煙を吐き出し始めた。

 
「……へぇ、随分早く出てきたな」

 
 煤が濃くなり、しっかりと人の形を作った時、指先が煤から出てきた。
 汚れひとつない綺麗な指先が煤から現れ、次第に手、腕、肩、足……と全身が出てくる。


「………………だ、だれだ…………悪魔じゃ、ない、だろう?」


 姿を現したのは、セラフィエル達が見た事がある男。 依頼に来たジョージだった。

 マシューはやはりジョージを知らないようだ。
 眉を寄せ、困惑したように声を出すマシューに、ジョージが悪魔の姿にはどうしても思えなかった。
 振り向かず、ニールはマシューに話しかける。


「………………いや、これは悪魔っすよ。憑依型の悪魔で、体を乗っ取ってるっす」

「憑依型……乗っ取る……」

「悪魔も色んなタイプがいるんすよ。大きくわけで5つあるんす。憑依型、環境型、幻惑型、捕食型、契約型」

 指折り数えながら言うニール。
 試験中のアピールにも含まれ、チラッとジェイクを見ると目を眇めて見られ、肩を跳ねさせた。  
 アピールは失敗したようだ。

「…………その、憑依型なのか」

「そっすね」

「それは、その……見てわかるもの……なのか?」

 マシューからは、やはり今も普通の人間に見えている。
 疲れているようにぐったりしてはいるが、それでも身体的特徴に悪魔の姿は見えない。

 セラフィエルはニールのいる方向に顔を向ける。 先程の祈りが、もう切れそうなのだ。

「交渉……どうしますか?」

「あっ……とぉ……」

 少し悩む。 それから確認するようにヴィクターを見た。
 このまま交渉を進めるか、討伐に踏み切るか。
 ただ、まだ本体ではないし、悪魔の『名前』 も知らない。 このままでは不利になる。

 今、ニールの頭の中には様々なシチュエーションが流れている。
 このまま交渉を続けるべきか。強制的に排除するべきか。
 レッサーデーモンなら4人で叩けば問題ないだろう。
 階級的には下から数えた方が早いし、ジェイクやセラフィエルの様子を見たニールは任務完了には問題なさそうだと判断している。

 実際、レッサーデーモンくらいならセラフィエルは『名前』を呼ばすとも問答無用で消し炭に出来るから、ニール以外に焦る人はマシューしか居ないのだ。

「………………ギリギリまで、名前を」

「ええ、わかりました」

 光導杖ルクス・カデュケウスを床にタァンと叩きつけると、シャンシャンシャンと澄んだ音が高く鳴る。

「…………貴方の『名前』を教えてくれますか?」

 《教えると思うか?》

「まぁ……教えて頂けないですよね」

 苦笑混じりに言ったセラフィエルは、――――すぅ……と、息を吸う。

 セラフィエルを中心に、床に広がる魔法陣。
 薄く白に発光しているそれに、悪魔は狼狽えた。


「主に祈り奉る。
闇に潜みしものを、どうか光に引き出し給え。
偽りを裂き、覆いを払い、その真なる姿を示し給え。
光は闇に勝り、闇は光を拒むこと能わず。
願わくは、この場にてその正しき姿を顕現し給え」


 祈りによって、魔法陣から出られなくなった悪魔は更に狼狽える。
 
 《な……なんだこれは……なにをした!!》

「…………なるほど。貴方はこちらの世界で祓い師やエクソシストと会うのは初めてなんですね」

 《………………なんの事だ?》

「はぐらかしましたね?」

 焦りは直ぐに自らの中に押さえ込み、セラフィエルを見る。
 にこやかに笑いながら、ジリジリと包囲されているのを、悪魔はまだ気付いていない。
 
 
 

 
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