The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 悪魔祓いには、4つのフェーズが存在する。 
 

 1. 調査段階~異常現象を確認、悪魔の種類を推定

 2. 名前同定~特徴から正しい名前を特定

 3. 実体化~正しく呼べば弱点露出し、実体化する。ただし、ここで名前を間違えると悪魔は階級を上げて強化される。

 4. 討伐フェーズ~交渉し条件付きで退去させるか、問答無用で消滅させる。または封印する。悪魔の強さや性質によって変化する。


 この全てがスムーズに出来ないと、悪魔祓いは完遂できないのだ。



「…………名前は、そんなに大切なのか?」

 マシューはニールの少し後ろに来て、小声で聞く。
 セラフィエルと悪魔しかいない聖陣の中で、静かな舌戦が繰り広げられている。
 それを黙って見ている3人の祓い師。
 この異様な様子に困惑しているマシューは、答えてくれそうなニールに問いかけた。
 チラリと視線を向けたニールが真剣に頷き、場の空気を邪魔しないように声を落として話し出す。

「悪魔は階級によって強さが位置付けられているんすけど、弱いほどに具現化できないんすよ。それは、良い面も悪い面もあって。悪魔には好みがあるっす。喰うのが好き、汚すのが好き、支配するのが好きとか。それに合わせて強い力を欲するんす。だから、色んな方法で階級を上げようとして暴れるんす」

 俺たちにとっては迷惑極まりないっすよねぇ。と淡々と話す。
 そのニールの眼差しは、セラフィエルを捉えていた。
 今セラフィエルがしている事は、本来ならニールがしなくてしなけない儀式だった。
 昇進試験では、一連の流れを把握、実施が必要だから。

「じゃあ、実体化しない方がいいんじゃないか?」

「そう思うっすよね~。俺も最初意味がわかんなかったっすよ」
  
 はは……と苦笑したニールがまた話し出すのを、ヴィクターとジェイドはチラッと見る。


「悪魔祓いは悪魔を縛る行為っす。相手の真名を見つけて名を固定すると、朧気だった存在が神の名のもとに形を作るっす。そうしないと、祓い師は完全に悪魔を消滅も封印も撤退もさせられないんすよ。まずは、実体化。上手く名前を固定出来ると弱体化させるから、一石二鳥っす!!」

 それも階級が上がると難しいし、そもそも強い悪魔は初めから実体化したまま現れる。
 ただ、そこまで強いと厄災級となるため、あまり顕現しない。

「………………なんで、アイツ1人にやらせるんだ」

 セラフィエルが、暴れだした悪魔の攻撃を受けて腕を切った。
 ピクッ……とジェイクは反応しつつも、まだ見守っている。
 だが、指先にかかるトリガーはすぐに引けるように準備して。

「…………名を呼ぶのも交渉の1つだからだ。悪魔は狡猾だからな、大勢で話しかけると矛盾やほころびを見つけて掻い潜り、時には祓い師に決定的な敗北を叩きつけたりする。だから、交渉は基本的に1人。そこにはリスクもある。近い場所でひとりで対峙するには精神や肉体に負荷がかかる。だから、バディを組んで緊急時は割り込み避難させる必要があるんだ。全て儀式の一環だな」

 だから、ニールが攻撃されて動けなくなった時、ヴィクターは交渉の場に立てなかったのだ。
 まだ若く未熟な祓い師の場合は、この段階で失敗する事もある。
 そういった場合に備えて、アプレンティス級にはサポートで祓い師が1人着いていき、カバーする事も多々あるのだ。



「………………あの、目が見えないヤツで、大丈夫なのか?」

 やはり、ハンデがあるのは不安に駆られるのだろう。
 そう聞いた時、悪魔はセラフィエルに攻撃を仕掛けた。




 ______________





 聖陣から立ち上がる光の粒子は、ふわりと風に乗りユラユラしながら上に上がっていく。
 服や髪に空気をはらんで、青い短髪が揺れた。 
 ふくらはぎまである規定の白いローブが1度バサッ……と揺れて、中の服が見える。
 白い平服。 十字架の着いた飾りが縫い付けられた聖職者らしい服だが、その生地は薄い。

「…………小型のインプ。いえ、レッサーデーモンですか。25人を喰った事で階級を上げましたが……貴方、言うほど人肉はお好きではないでしょう?」

 《なんだと……》

 セラフィエルの濁った琥珀の瞳が揺れる。
 幼い頃に少しだけ見えていた期間があったとはいえ、色弱のセラフィエルには正しく理解は難しい。  
 そんなセラフィエルにも、鮮明に覚えているものはある。
   

 当時、厄災級とも言える実態化した悪魔が両親を貪る姿。



 食にこだわりを持つ悪食の悪魔は、生きたまま人を食らった。
 何よりも食事が好きで、人の血肉を覚えた悪魔は月明かりが入る室内で照らされて、恍惚と顔を赤らめていた。
 それを目の前で見ていたセラフィエルにはわかる。

 
   
「貴方の求めるものは、食ではありません…………汚染ですね」


 
 風の刃が飛んできて、セラフィエルの腕を勢い良く切りつけた。  
 少し深く切ったのか、ローブは血に汚れて床に滴っていく。
 それに視線すら向けないセラフィエルは、ただ真っ直ぐに悪魔を見つめた。
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