17 / 69
第一章:ローズ街工場地区の事件録
1-17
しおりを挟む出られないと分かった悪魔は、すぐさまセラフィエルを殺す選択をした。
それを見ていたジェイクが、ゆっくりと歩き出す。
「…………どうしましたか? 交渉はしないのですか? 僕からの質問に答えると、あなたにとっても良い事がありますよ?」
《そんなのより、お前を殺した方が早いぃぃ!!》
「…………交渉決裂ですね。では……」
はぁ……とため息をつくと、パァンと破裂音が響く。
その瞬間、ドーム状に展開していた祈りの場が割れ、砕かれる。
キラキラと、まるでガラスの欠片が落ちるかのように上から降ってくるのを思わず見た悪魔だったが、低く響く祈りに顔を向けた。
銃口を構えてニヒルに笑みを浮かべるジェイク。
口に挟んだ特製祈祷煙草《サンクティタス》が、小さく揺れた。
「主よ、願わくば我が声を御許に届け給え。
迷い歩む者に鎖を与え、穢れを縛り、暴威を退け給え。
悪しき者よ、汝は逃れられぬ。
御名により、縛られ、沈められよ。」
パァァァァン…………………
強い発砲音と共に銃口から放たれたのは銃弾ではなかった。
飛び出したのは銀色の弾。 それは、悪魔の眼前で花開くようにふわりと形を変えた。
かと思った瞬間、銀色の鎖がジャラララ……と音を鳴らして悪魔の体をきつく縛る。
《っ……な……なんだこれはっ……》
手足を動かし、体を捻っても全く解けることがない鎖に、悪魔は酷く動揺した。
交渉の場に引きずり出された時でさえ、工場内は稼働して黒い煙を吐き出していたのに、今はそれに意識を向ける余裕もない。
静かな空間で、鎖の摩擦する金属音と、汚い悪魔の悲鳴だけが響いていた。
「あ、あれってもしかして……!!」
「ジェイクの固有能力だな」
縛られる悪魔をポカンと見るマシューは、初めて見る現象に困惑していた。
「じゅ、……銃から……鎖が……」
そんなマシューとは真逆の反応を見せるのはニール。
テンションが上がってヴィクターの腕を何度も叩いている。
「ちょっ……すっけぇ!! 鎖かっこいいっすよ! ほら! ヴィクター! 見てっ!!」
「痛い痛い! 叩くな! 俺は知ってる!!」
騒がしいニールは、かなり興奮している。
固有能力は見せびらかせるものではないので、実際に現場に出なくては見る機会はない。
しかも、全てを見る訳では無いので、誰がどれだけ、どんな固有能力を持っているのかを知っているのは、お互いのバディだけなのだ。
まだ固有能力を授かっていないニールは、それが欲しくて仕方なかった。
本人曰く、「自分だけの力って感じでかっこいいじゃないっすか!!」という脳筋と、お花畑が花咲いている理由だった。
固有能力。
イニシエイト級に上がってから、神に何度も祈る事で授けられる専用の固有能力。
祈りによって発動するのだが、強力だからこそ、その分負荷が強く一日の使用回数に制限がかかる。 負荷軽減のために、神具の使用を義務付けられている。
強い祈りによって授かる固有能力の修得数は人によって違うのだが、多い人は20を超えるらしい。
だが、どんなに祈っても25を超えることは決してない。
逃げようともがけばもがくほどに鎖は体に食い込んだ。
背に生える蝙蝠に似ている羽や、体の至るところに現れた悪魔の姿。
人間からかけ離れた姿だからだろう、マシューは畏怖し、震えがずっと止まらなかった。
そんな悪魔相手に、慈悲深く笑みを浮かべるのだが、悪魔はそれに畏怖する。
「…………本当に、悪魔という生き物は失礼極まりないです」
眉尻をへにゃりと下げてため息を吐き出したセラフィエルは、光導杖をシャンと鳴らす。
その音が場を引きしめ、新しい風を呼び寄せた。 両手で光導杖を握りしめながら伏せ目がちに祈りを捧げる。
「全能の御名により、祈り奉る。
わたしは知れり、汝の欲望を。
わたしは聞けり、汝の嘆きを。
主よ、識別の力をわたしに与え給え。
いまここに、汝の名を呼び、縛り奉る――ルフインレブル。
願わくは、この名をもって、汝を退け給え。」
セラフィエルが丁寧に、紡ぐように祈ったのは悪魔を名付けて縛る祈り。
名を持たない悪魔や、データベースに載らない悪魔の名を引き出せなかった場合に使われる、神の名のもとに強制的に悪魔へ名付けを行える祈り。
悪魔にとっては屈辱的で到底許せない行為。
《ギャァァアアァァァア!!!!》
地を揺らすような、怒りや憎しみ、絶望といった負の感情をこれでもかと乗せた叫びに、マシューは腰を抜かして座り込んだ。
足が勝手にガタガタと揺れ、惨めにも這いつくばって逃げたいと震えている。
だが、目に入ったのは、空気をはらんで揺れる髪をそのままに、真っ直ぐ宙を見るセラフィエルの姿。 身長よりも高い光導杖を持ち、静かな呼吸を繰り返すセラフィエルを見て、次第に落ち着いていったのだった。
51
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
お腹いっぱい、召し上がれ
砂ねずみ
BL
料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。
そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。
さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる