The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

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 出られないと分かった悪魔は、すぐさまセラフィエルを殺す選択をした。
 それを見ていたジェイクが、ゆっくりと歩き出す。

「…………どうしましたか? 交渉はしないのですか? 僕からの質問に答えると、あなたにとっても良い事がありますよ?」

 《そんなのより、お前を殺した方が早いぃぃ!!》

「…………交渉決裂ですね。では……」

 はぁ……とため息をつくと、パァンと破裂音が響く。
 その瞬間、ドーム状に展開していた祈りの場が割れ、砕かれる。
 キラキラと、まるでガラスの欠片が落ちるかのように上から降ってくるのを思わず見た悪魔だったが、低く響く祈りに顔を向けた。

 銃口を構えてニヒルに笑みを浮かべるジェイク。
 口に挟んだ特製祈祷煙草《サンクティタス》が、小さく揺れた。

「主よ、願わくば我が声を御許に届け給え。
迷い歩む者に鎖を与え、穢れを縛り、暴威を退け給え。
悪しき者よ、汝は逃れられぬ。
御名により、縛られ、沈められよ。」

 パァァァァン…………………

 強い発砲音と共に銃口から放たれたのは銃弾ではなかった。
 飛び出したのは銀色の弾。 それは、悪魔の眼前で花開くようにふわりと形を変えた。
 かと思った瞬間、銀色の鎖がジャラララ……と音を鳴らして悪魔の体をきつく縛る。

 《っ……な……なんだこれはっ……》

 手足を動かし、体を捻っても全く解けることがない鎖に、悪魔は酷く動揺した。
 交渉の場に引きずり出された時でさえ、工場内は稼働して黒い煙を吐き出していたのに、今はそれに意識を向ける余裕もない。
 静かな空間で、鎖の摩擦する金属音と、汚い悪魔の悲鳴だけが響いていた。

「あ、あれってもしかして……!!」

「ジェイクの固有能力だな」

 縛られる悪魔をポカンと見るマシューは、初めて見る現象に困惑していた。

「じゅ、……銃から……鎖が……」

 そんなマシューとは真逆の反応を見せるのはニール。
 テンションが上がってヴィクターの腕を何度も叩いている。

「ちょっ……すっけぇ!! 鎖かっこいいっすよ! ほら! ヴィクター! 見てっ!!」

「痛い痛い! 叩くな! 俺は知ってる!!」

 騒がしいニールは、かなり興奮している。
 固有能力は見せびらかせるものではないので、実際に現場に出なくては見る機会はない。
 しかも、全てを見る訳では無いので、誰がどれだけ、どんな固有能力を持っているのかを知っているのは、お互いのバディだけなのだ。
 まだ固有能力を授かっていないニールは、それが欲しくて仕方なかった。
 本人曰く、「自分だけの力って感じでかっこいいじゃないっすか!!」という脳筋と、お花畑が花咲いている理由だった。

 固有能力。

 イニシエイト級に上がってから、神に何度も祈る事で授けられる専用の固有能力。
 祈りによって発動するのだが、強力だからこそ、その分負荷が強く一日の使用回数に制限がかかる。 負荷軽減のために、神具の使用を義務付けられている。

 強い祈りによって授かる固有能力の修得数は人によって違うのだが、多い人は20を超えるらしい。
 だが、どんなに祈っても25を超えることは決してない。

 逃げようともがけばもがくほどに鎖は体に食い込んだ。
 背に生える蝙蝠に似ている羽や、体の至るところに現れた悪魔の姿。
 人間からかけ離れた姿だからだろう、マシューは畏怖し、震えがずっと止まらなかった。

 そんな悪魔相手に、慈悲深く笑みを浮かべるのだが、悪魔はそれに畏怖する。

「…………本当に、悪魔という生き物は失礼極まりないです」

 眉尻をへにゃりと下げてため息を吐き出したセラフィエルは、光導杖ルクス・カデュケウスをシャンと鳴らす。
 その音が場を引きしめ、新しい風を呼び寄せた。 両手で光導杖ルクス・カデュケウスを握りしめながら伏せ目がちに祈りを捧げる。

「全能の御名により、祈り奉る。
わたしは知れり、汝の欲望を。
わたしは聞けり、汝の嘆きを。
主よ、識別の力をわたしに与え給え。
いまここに、汝の名を呼び、縛り奉る――ルフインレブル。
願わくは、この名をもって、汝を退け給え。」

 セラフィエルが丁寧に、紡ぐように祈ったのは悪魔を名付けて縛る祈り。
 名を持たない悪魔や、データベースに載らない悪魔の名を引き出せなかった場合に使われる、神の名のもとに強制的に悪魔へ名付けを行える祈り。

 悪魔にとっては屈辱的で到底許せない行為。

 《ギャァァアアァァァア!!!!》

 地を揺らすような、怒りや憎しみ、絶望といった負の感情をこれでもかと乗せた叫びに、マシューは腰を抜かして座り込んだ。
 足が勝手にガタガタと揺れ、惨めにも這いつくばって逃げたいと震えている。

 だが、目に入ったのは、空気をはらんで揺れる髪をそのままに、真っ直ぐ宙を見るセラフィエルの姿。 身長よりも高い光導杖ルクス・カデュケウスを持ち、静かな呼吸を繰り返すセラフィエルを見て、次第に落ち着いていったのだった。
 
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