The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

文字の大きさ
18 / 69
第一章:ローズ街工場地区の事件録

1-18

しおりを挟む

 鎖に繋がれ、名で縛られ。
 力を削られた悪魔、ルフインレブル。
 ギチギチと締め上げる鎖から抜け出せないルフインレブルを冷たい眼差しで見ていたセラフィエルは、にこやかに表情をやわらげてニールを見た。
  
「さぁ、討伐をしましょうか貴方の試験ですから、ここからは貴方が」
 
 そう言うセラフィエルに、ニールは肩を跳ねさせた。
 あまりにも急激に雰囲気が変わったセラフィエルに少し驚きながら頷き、先程叩いたヴィクターの腕をまた叩いた。

「い、行こう!!」

 いつも、サポートの第三者がいて弱い悪魔相手に戦ってきたニール。
 今回も最下層の悪魔とはいえ、広範囲にも及ぶ場所を占拠していた悪魔を相手にするのは初めてだった。

 祈りの仕方も交渉の仕方も、バディへの対応も、人によって違うのは分かっていた。  分かっていたが、圧倒的な強さを見せつけられたニールは心を少し折られる。 だが、憧憬する気持ちも浮かんでいた。

「よ、よし!!」

 もう一度気持ちを奮い立たせて悪魔に向かうニールの声を聞いているセラフィエルの隣に濃くなる気配。  ジェイクが近付いてきた。

「行くぞセラ」

「はい」

 セラフィエルの腕を掴み、ジェイクの腕を持たせる。
 まだ白杖に戻す訳にはいかないので、有難く白杖代わりにしながら後ろに下がった。


「もう一気に消滅させた方が簡単でいいのですけど……」

「やめろ」

「わかってます。ニールの試験ですから。でも……」

「……まぁ、落第だな」

「そうですよね」

 最初の祈りを失敗した時点で、ニールの落第は確定していた。 まだ技術面が乏しい。

「でも、知識や判断力、依頼主やその周辺への適切な対応はなかなかでした」

「そうだな」

 ふふ……と笑ったセラフィエルを、ジェイクは見下ろす。
 危なくない場所まで下がってきた2人の傍に、マシューが走りよって来た。 セラフィエル達の様子を見て安全な場所だと認識したマシューだが、まだ心臓がバクバクしている……と震えている。

「……今回は、もう大丈夫ですね」

 十字架とベルを持って悪魔と対話で対決しているニールの隣に祓魔刀《制式三号》を持つヴィクターも控えている。
 今なら、ヴィクターが一振するだけでルフインレブルは消滅するだろう。 それほどまでに力を削った。


「………………疲れたか」  

「いいえ、大丈夫です。ただ……この後の捜索が大変ですね。この場所は広いです」

「まぁ、そうだなぁ」

 ギャ!! という鈍い声を聴きながら、二人の会話に首を傾げるマシューは恐る恐る話しかけた。

「捜索とは……なんだ?」

「…………失踪者です。アレは食事を好まない悪魔ですから、全て綺麗には食べていないと思います。ですから、体の一部を探して……神のみもとへ送ってさしあげしょうね」

 濁った目が遠くを見るように、少しだけ顔をいつもより上げて呟くセラフィエルに、マシューはハッ……とした顔をした。
 失踪者、25人喰った。 即ち、死亡事故が起きているのだ。 マシューは目を伏せる。

「………………ジェシカは」

「25人目だ」

 「……………………」





 
 朝から無断欠勤をしていた秘書のジェシカは、依頼の際に依代とされたジョージと共に来ていた。
 それを考えると、ジョージは既に行方不明になっていた周辺住民のうちの一人だったのだろう。
 殺すことなく体を奪って暗躍し続けた悪魔、ルフインレブルは最後にジョージとジェシカを喰って25人をクリアした。


「………………こんな結末になるなんて」

「悪魔は……人間の命など小さな虫よりも脆く低俗なものとでも思っているようなのです。ですが僕達は生きています。悪魔に蹂躙される為に過ごしているのではありません。支配され、痛みを与えられる事など望んでいません。ですから、僕たち祓い師がいるのです。強敵が多く、必ず犠牲が出ないようにするなど、甘いことは言えません。私たち祓い師にも犠牲が出ることもあります。でも…………」

 セラフィエルはジェイクを見上げた。
 濁った瞳にジェイクは映さないけれど、セラフィエルの目にはジェイクがいる。
 かつて、両親を失った時に、 最後に光を見たあの瞬間。

「…………でも。祓い師が諦めたら……終わりですから」



 あの日、あの時。
 悪魔の序列の中でも高い地位にいた悪魔を追い払った祓い師たち。
 
 25年ごとに起こるとされている厄災がある。
 日も分からず、どこで起きるかも特定できない。
 だが、確実に起きる悪魔からの攻撃に祓い師もエクソシストたちも昼夜を問わず走り回り、祈りを捧げる一日。
 時に激しい戦闘を繰り広げ、沢山の命を散らすその日に、セラフィエルは家族を失った。
 
 遠く離れた場所に住んでいたセラフィエルの街に悪魔の大軍が押し寄せて来たのを、今でも忘れる事はない。
 
 セラフィエルを助けてくれた祓い師の1人は、セラフィエルを庇い殉職した。
 そしてもう1人は、今も隣で常にセラフィエルを守っている。

 くしゃり……と髪を撫で回されたセラフィエルは、ジェイクの手を掴み、「もう!」と怒ったように言いながら乱れた髪を直す。

 あの日のことは、ジェイクも忘れられない25年越しの夜なのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす

河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。 悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

処理中です...