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第一章:ローズ街工場地区の事件録
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しおりを挟む鎖に繋がれ、名で縛られ。
力を削られた悪魔、ルフインレブル。
ギチギチと締め上げる鎖から抜け出せないルフインレブルを冷たい眼差しで見ていたセラフィエルは、にこやかに表情をやわらげてニールを見た。
「さぁ、討伐をしましょうか貴方の試験ですから、ここからは貴方が」
そう言うセラフィエルに、ニールは肩を跳ねさせた。
あまりにも急激に雰囲気が変わったセラフィエルに少し驚きながら頷き、先程叩いたヴィクターの腕をまた叩いた。
「い、行こう!!」
いつも、サポートの第三者がいて弱い悪魔相手に戦ってきたニール。
今回も最下層の悪魔とはいえ、広範囲にも及ぶ場所を占拠していた悪魔を相手にするのは初めてだった。
祈りの仕方も交渉の仕方も、バディへの対応も、人によって違うのは分かっていた。 分かっていたが、圧倒的な強さを見せつけられたニールは心を少し折られる。 だが、憧憬する気持ちも浮かんでいた。
「よ、よし!!」
もう一度気持ちを奮い立たせて悪魔に向かうニールの声を聞いているセラフィエルの隣に濃くなる気配。 ジェイクが近付いてきた。
「行くぞセラ」
「はい」
セラフィエルの腕を掴み、ジェイクの腕を持たせる。
まだ白杖に戻す訳にはいかないので、有難く白杖代わりにしながら後ろに下がった。
「もう一気に消滅させた方が簡単でいいのですけど……」
「やめろ」
「わかってます。ニールの試験ですから。でも……」
「……まぁ、落第だな」
「そうですよね」
最初の祈りを失敗した時点で、ニールの落第は確定していた。 まだ技術面が乏しい。
「でも、知識や判断力、依頼主やその周辺への適切な対応はなかなかでした」
「そうだな」
ふふ……と笑ったセラフィエルを、ジェイクは見下ろす。
危なくない場所まで下がってきた2人の傍に、マシューが走りよって来た。 セラフィエル達の様子を見て安全な場所だと認識したマシューだが、まだ心臓がバクバクしている……と震えている。
「……今回は、もう大丈夫ですね」
十字架とベルを持って悪魔と対話で対決しているニールの隣に祓魔刀《制式三号》を持つヴィクターも控えている。
今なら、ヴィクターが一振するだけでルフインレブルは消滅するだろう。 それほどまでに力を削った。
「………………疲れたか」
「いいえ、大丈夫です。ただ……この後の捜索が大変ですね。この場所は広いです」
「まぁ、そうだなぁ」
ギャ!! という鈍い声を聴きながら、二人の会話に首を傾げるマシューは恐る恐る話しかけた。
「捜索とは……なんだ?」
「…………失踪者です。アレは食事を好まない悪魔ですから、全て綺麗には食べていないと思います。ですから、体の一部を探して……神のみもとへ送ってさしあげしょうね」
濁った目が遠くを見るように、少しだけ顔をいつもより上げて呟くセラフィエルに、マシューはハッ……とした顔をした。
失踪者、25人喰った。 即ち、死亡事故が起きているのだ。 マシューは目を伏せる。
「………………ジェシカは」
「25人目だ」
「……………………」
朝から無断欠勤をしていた秘書のジェシカは、依頼の際に依代とされたジョージと共に来ていた。
それを考えると、ジョージは既に行方不明になっていた周辺住民のうちの一人だったのだろう。
殺すことなく体を奪って暗躍し続けた悪魔、ルフインレブルは最後にジョージとジェシカを喰って25人をクリアした。
「………………こんな結末になるなんて」
「悪魔は……人間の命など小さな虫よりも脆く低俗なものとでも思っているようなのです。ですが僕達は生きています。悪魔に蹂躙される為に過ごしているのではありません。支配され、痛みを与えられる事など望んでいません。ですから、僕たち祓い師がいるのです。強敵が多く、必ず犠牲が出ないようにするなど、甘いことは言えません。私たち祓い師にも犠牲が出ることもあります。でも…………」
セラフィエルはジェイクを見上げた。
濁った瞳にジェイクは映さないけれど、セラフィエルの目にはジェイクがいる。
かつて、両親を失った時に、 最後に光を見たあの瞬間。
「…………でも。祓い師が諦めたら……終わりですから」
あの日、あの時。
悪魔の序列の中でも高い地位にいた悪魔を追い払った祓い師たち。
25年ごとに起こるとされている厄災がある。
日も分からず、どこで起きるかも特定できない。
だが、確実に起きる悪魔からの攻撃に祓い師もエクソシストたちも昼夜を問わず走り回り、祈りを捧げる一日。
時に激しい戦闘を繰り広げ、沢山の命を散らすその日に、セラフィエルは家族を失った。
遠く離れた場所に住んでいたセラフィエルの街に悪魔の大軍が押し寄せて来たのを、今でも忘れる事はない。
セラフィエルを助けてくれた祓い師の1人は、セラフィエルを庇い殉職した。
そしてもう1人は、今も隣で常にセラフィエルを守っている。
くしゃり……と髪を撫で回されたセラフィエルは、ジェイクの手を掴み、「もう!」と怒ったように言いながら乱れた髪を直す。
あの日のことは、ジェイクも忘れられない25年越しの夜なのだった。
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