19 / 69
第一章:ローズ街工場地区の事件録
1-19
しおりを挟むひとつの事件が終わった。
第七支部に戻ったセラフィエルは、まず祈祷室へと向かう。
仕事終わりのルーティンで、悪魔祓いが終わったら、セラフィエルはひとり静かに神に祈る。
木製の柔らかな室内、丸い窓が設置されていて、部屋に入った正面には、巨大な神を模した像がある。
祈る祭壇があり、セラフィエルはローブを払って膝を着いた。
頭を軽く下げて指を組む。
言葉はない。ただ、静かに祈るのだ。
悪魔に刈り取られた哀れな命を、神のみもとへ導き給え。
…………願わくば、優しい腕に抱いてください。
怖かっただろう。
突然襲われ、生きたまま体を貪られたのだから。
セラフィエルは、悪魔祓いの度にこうして祈りを捧げる。天に召した命のために。
「………………セラ」
「はい」
祈るセラフィエルの後ろから、ジェイクが声をかける。
開いた扉に指で音を鳴らしたジェイクに、セラフィエルはすぐに気付く。
手を離し、白杖を持って振り向いた頃にはジェイクは目の前に来ていた。
ジェイクは静かにセラフィエルの指先に優しく触れると、無言の時間が出来る。
「……………………失踪者が、見つかりましたか?」
「ああ。連絡がきた」
「そう、ですか。相変わらず仕事が早いですね」
祓霊庁の職員であるセラフィエルやジェイクたちの仕事は、あくまでも悪魔祓いのみ。
その後の現場の後始末は、祓霊庁と連携をとる悪魔管轄の警察の仕事なのだ。
工場の奥、部屋の片隅に積み上げられた死体が24体、あったという。25人の犠牲者。ジョージはその最初の犠牲者で、体を奪われ使われていた。
もう、今はその体すら残されていないが。
残された24体からは、古いものほど腐敗臭がして、確認の時に顔を見たが、若い警察は嘔吐をするくらい酷い状態だったらしい。
体の半分は食い散らかされており、日を過ぎていたため腐り落ちていた。
そして、全員、恐怖に引き攣り泣き叫ぶ表情をしていたらしい。
その中には、この事件の依頼に来た秘書のジェシカもいて、まだ体は暖かかったと報告が来ている。
あの、最後の25人目。あの瞬間に、ジェシカは食い殺されたのだ。
「……大丈夫か」
「はい。いつもすみません」
「……祓い師だって、精神的にクるからな。俺にまで無理をする事はない」
引き寄せられて、セラフィエルはジェイクに抱き締められた。
この仕事を天職として働く人が多いが、悪魔との戦いは体力も精神も消耗する。
すり減った精神をそのままにせず、神に祈る事で落ち着きを取り戻す祓い師も少なくない。
悪魔は狡猾に、祓い師の中に忍び込み、内側から破壊しようとするのもいる。
だから、祈祷室へと心を落ち着かせる時間も必要なのだ。
「………………ジェイク」
「なんだ?」
「フローズンコーヒーが飲みたいです」
「………………いま?」
「いま」
セラフィエルのわがままに、「んー……わかった」と悩みながら返事したジェイクに、セラフィエルは笑顔を見せた。
---
事件ファイル22
対象コード: ENV-IMP
脅威等級: 2(Trivial+)
発見地点: 第七支部管轄区域・ローズ街の工場地帯
備考: 小型憑依型悪魔。個人任務で対応可能
内容: 名無しインプによる工場の占拠、汚染。25人の捕食確認。完全捕食ではないため一時的にレッサーデーモンに階級を上げる。交渉失敗、名付け行い、《ルフインレブル》とする。祓い師ニールアプレンティス級(Apprentice/ノービス)により討伐完了。
工場内汚染傾向(微)。聖水で清め済みのため危険なし。
67
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
お腹いっぱい、召し上がれ
砂ねずみ
BL
料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。
そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。
さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる