The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第一章:ローズ街工場地区の事件録

閑話 2

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 マイヤー刑事は、ニコニコと今この場にいる8人の祓い師にドーナツを配っていく。
 事務員にも、さぁさぁ! と渡しているマイヤー刑事は今日も上機嫌だ。
 基本的に怒っている所を見た事がない。
 
 セラフィエルとジェイクは既に食べているので遠慮したのだが、準備しているドーナツは40個ほどあった。  
 箱にたっぷりと入ったドーナツに、この場にいる人たちはきゃあきゃあ! と喜んで選んでいる。
 いつも喧嘩をしないように、種類を豊富に、また複数買うマイヤー刑事。
 訪問時は祓し師たちの目が輝く。

「相変わらずすごい量を買うよな」

「休みや現場に出ているから、この場にいるのはいつもこれくらいの人数ですのにね」

 クスッと笑って、またハンバーガーを食べる。

 祓霊庁の祓い師は現場に出る人たちだけで30人、15組がいる。
 そのほか、フリーの祓い師や相棒が休みの為、同じくフリー対応になっている祓い師合わせて5人いるのだ
 そのほか事務職が8人と、それなりの人数がいるのだが、日中は出払っていて残っているのは3組~4組といった所だ。 仕事が終わり雑務処理や、次の依頼待ちで事務所にいるのだが、時間を持て余す時も多々ある。
 
「…………ん? マイヤー刑事か」

 奥の部屋に続く扉が開くと、3つのファイルを持ったライオネスが入ってきた。
 少し草臥れた様子のライオネスは、白髪が増えた気がするこの祓い師を纏める副支部長。

「やぁ、ライオネス! お邪魔しているよ!」

 皆が持っているドーナツに思わず苦笑したライオネスは「いつも悪いな」とドーナツを示した。
 それに人好きをする笑みで軽く手を振るマイヤー刑事。


「久しぶりだな、わざわざここまで来るのは」

「新人が入ったんだ。それで顔合わさせにな」

 そう言って、少し後ろにいた2人を前に出す。
 全員、食べる手を止めて新人の刑事を見ると、緊張がぶり返したのか、2人はソワソワし始めた。

 そんな様子を雰囲気で感じとったセラフィエルは、口からハンバーガーを離す。 伸びてきたジェイクの手が口の端に来て、親指でソースに、拭いとって行った。
 どうしても、かぶりついて食べる食事は口を汚しやすいのだ。
 
 舐めとる音が聞こえて、セラフィエルはおしぼりをジェイクに渡すと、受け取ったジェイクはセラフィエルの口を拭く。

「…………違います。指を拭いてください」

「もう拭いた」

「僕は自分で拭けます」

「どうだか」

 以前、しっかり拭けていなかった事を、ジェイクは未だに笑う。
 ペシペシと軽く腕を叩くと、小さく笑うジェイクの声が聞こえてムッとした。

 すると、ライオネスの咳払いが響く。

「お前たち、イチャつきたいなら後にしろ」

「…………イチャつき?」

「何言ってんだ」

 ライオネスの注意にセラフィエルは首をかしげ、ジェイクはグイグイとセラフィエルの口を拭きながら呆れたように言う。
 意味のわかっていない2人だが、周りの女性祓い師は崩れ落ち震えていた。

「あああぁぁぁ……いい!! この2人からしか得られない栄養があるのよぉぉ!!」

「あのスマートな対応! 当たり前にセラのコーヒーを飲むのも、ハンバーガーの包みを開けてあげるのも! 」

「セラフィエルの机に座ってるからとにかく距離が近い! 近距離保護者感が私を全力で殴ってくる!!」

「なんにも出来ない赤ちゃんセラをヨシヨシするジェイク…………イイ!!」

「………………何をしてるのよ」

 一部激しい荒ぶりを見せている中、廊下に繋がる扉が開く。
 ジェイクと同じセンチネル級の祓い師で、薄ピンク色のセミロングヘア少女、ジュディ・オルセン。
 まだ18歳でセンチネルまで登り詰めた天才と言われているジュディは、低身長の常に目をトロンとさせているような少女だった。
 その後ろには目を丸くする高身長の女性、ティア・ワトソン。  ジュディとバディをしている女性で、ニールと同じく昇進試験を受けている最中である。

 ジュディの声を聞いたセラは立ち上がり、白杖を持つ余裕も無く歩き出した。

「ジュディさん?  おかえりなさ……わぁ!!」

 テンションが上がり、注意力散漫になったセラフィエルは、机や椅子にぶつかり転びそうになる。
 そんなセラフィエルの腹部に回るジェイクの腕。
 ひょいと抱えられたセラフィエルはキョトンとすると、頭に小さな衝撃がくる。

「まったく。あなたはいつまでたっても落ち着きがないわ。少しは周りを確認なさい、怪我をするわよ」

「……ふふ。はぁい」

「………………わかっているのかしら」

 セラフィエルは、この祓い師を酷く気に入っている。
 ジュディの声を聞いただけで周りを確認しないポンコツになるくらいには。

「………………お前たち、もういいか」

「あ…………」

 マイヤー刑事と新人2人を待たせているのに、祓い師たちは全員いつもと変わらない緩やかさだ。
 すんませーん、と軽い口調で謝る祓い師たちに、新人達は少し戸惑っている。

  
 悪魔科に配属される刑事の八割は、悪魔災害被害者だ。
 過去に何らかの悪魔との接触があり、身体の一部に痣・焼痕・刻印状の変化が残る。 これらは「接触痕」あるいは「侵蝕痕」と呼ばれていて、ひと目で痕持ちだとわかるのだ。

 この接触痕は時間を経て治癒されるが、侵蝕痕は基本的に消去・治療不可能で、本人の生涯にわたり残存する。 肉体的な後遺症だけでなく、精神的影響(悪夢・幻視・感覚異常など)を伴う例も多く報告されていて、生涯付き合って行かなくてはならないものとなるのだ。

 それはセラフィエルもだった。
 元々視力が弱く弱視だったのだが、悪魔との接触と直接的な攻撃で視力を完全に消失させた。

 こういった悪魔災害被害者は数多くいて、そんな人達に優しい会社は多く存在している。
 この祓霊庁もだし、警察内部の悪魔科もである。
 その他民間の悪魔に関連する会社は、応じて悪魔災害被害者に優しかった。

 そんな悪魔災害被害者の共通は、祓い師の洗練された佇まいや、神聖さ。
 窮地に助けられるからこそ、そのイメージは根強く残っている。
 実際、今は頼りっぱなしでそばにいないと落ち着かないジェイクも、あの災害時セラフィエルは神聖で厳かで、そして力強く映っていた。
 もう見えないが、今でもセラフィエルは黒のローブを翻して戦うジェイクの姿は脳裏に焼き付いているのだ。


「じゃあ、挨拶をさせてもらうな」

 にこやかに紹介されたのは、セラフィエルと同じ侵蝕痕がある男性と、接触痕がある女性だった。


「はじめまして、この度悪魔科に配属され、現場も任されることになりました。エリオット・マレンです」

「同じく クラリッサ・ヴェルナーです」

 ふたりが同時に頭を下げた。
 
 
 
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