The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

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 トレイニーの両親であるリチャード・コールマンとマーガレット・コールマンは、震える体を必死に押さえ込み、2階に上がっていく。
 その後ろを4人は着いていくのだが、少し長い階段を見上げたジェイクは、すぐに腕を掴んでいるセラフィエルの肩を叩いた。


「セラ」

「はい」

「抱くぞ」
 
「ぶふぅ!!」

 ヒョイとジェイクがセラフィエルを横抱きにすると、  その言葉の衝撃と実際の行動に驚き、エリオットは軽くむせていた。

「ちょっ……言葉選びどうにかしてください!!」

「……何がだ」

「何が?! なんでそんな誤解を招く言い方をするんですか……抱き上げるとか! 抱えるとか! あるじゃないですか!!」

「大して変わらないだろ」

「変わりますってぇぇぇぇ」

 他人の家で騒ぐな、とジェイクから注意が飛び、エリオットは慌てて口を閉じる。
 クラリッサは「抱く……」と顔を赤らめて身体をクネクネさせていた。この新人大丈夫か……とジェイクは見てから、階段を上がり始める。

 この騒がしさに、緊張で体に力が入っていたリチャードとマーガレットの力が少し抜けた。
 笑みを浮かべるほどの落ち着きは保てなかったが、ふっ……と力を抜くキッカケにはなったようだ。

 呼吸音が変わり、穏やかに吐き出される息に気付いたセラフィエルは小さく笑みを浮かべる。
 そして、歩く振動で、階段の段数を数えていた。

 (7、8、9、10……)

 振動を感じる度にジェイクの温かさも感じる。
 何故かジェイクの体温や香りは眠気を呼びやすく、胸にこてん、と頭を預けたセラフィエル。
 ふぁ……と欠伸をすると、無言で頭突きされた。
 煩くしないように、優しくしたが衝撃はあるのだ。

「……痛いですよ」

「目は覚めたかよ」

「貴方の香りと温かさが悪いのですよ。なんですか、この眠気は」

「知るか、バカめ」

 ナチュラルにイチャイチャしている二人を後ろから凝視している2人。
 緊張感の欠けらも無い様子に、払い師の威厳が崩されていった。


 階段を上がり、廊下に出たセラフィエルは床の小さな傷に気付いた。
 靴底から感じる凸凹感。 足を滑らせて確認してから、壁も触ると、こちらも切り傷が盛大に入っている。
 壁に寄ったことで、床に近い場所にある少しの凹みを感じて、また足で数回床をさすった。

「…………ここに何かありましたか?」

「あ……はい。以前は小さなチェストがあって、ちょっとした小物を入れたり、花を飾っていました」

 チャールズが答えるが、その声は少し震えている。
 今はないという事は、暴れて破損したか、投げ飛ばしたか。 きっと悪魔の影響だろう。
 見ることは出来なくても、情報は沢山溢れていてセラフィエルはそれを丁寧に1つずつ拾い集めていく。

「……だいぶ侵食されてるかもしれませんね」

 静かなセラフィエルの声にマーガレットが、小さく震えた。
 自分の娘の姿が信じられないと小さくつぶやく姿を、痛ましそうに顔を歪ませるエリオットとクラリッサ。
 動く様子のないマーガレットをチャールズが促し歩き出した。 その表情は険しい。

 
 また、カツカツと白杖が床を鳴らす音がする。


 廊下の一番端、扉には可愛いネームプレートでトレイニーと書かれ、歪な猫のぬいぐるみがぶら下がっている。

「………………ここがトレイニーの部屋です」

 チャールズに言われて足を止めた。
 ジェイクの腕に手を当てているセラフィエルは静かに音を探るが、扉越しには何も聞こえない。
 先程の男性の唸り声は静まり返り、さっきのが幻聴のように思えるが、確実に悪魔はいる。

「…………なにも聞こえませんね」

 クラリッサが困惑する様子で思わず零れた言葉に、何人かが頷く。
 
 セラフィエルは、ゆっくりとコールマン夫妻を見た。
 そして、確認事項を説明する。

「これから調査、悪魔祓いを行います。この先は自ら確認をする為に同行することも可能ですが、その際に危険が伴います。怪我、命の危機に陥る、または死亡する可能性もあります。できる限りこちらでも守る為に動きますが、悪魔の強さによってそれが出来ない可能性もあります。いかがしますか?」

 目を見開き、2人は顔を見合わせる。
 険しい顔で頷いたコールマン夫妻は、真剣な表情で頷いた。

「勿論、行くわ」

「よろしくたのむ」

「……では、こちらを肌身離さずお持ちください。悪魔からの攻撃から守る効果があります。ですが、万能ではありません。 間違っても自分から娘さんに近づくことはしないで下さい」

 ゆらゆらと手を宙に伸ばし、2つの十字架をコールマン夫妻に差し出す。
 チャールズがそれを受けとり、ひとつをマーガレットに渡した。
 チャリ……と鎖が鳴る音がしているのを頷いてから、セラフィエルはジェイクを見上げた。

「じゃあ、行くか」

「はい」
 
 ジェイクが言うと、セラフィエルは扉の前に聖水を撒いた。

 
 「天にまします我らの神よ、我に力を授け、汝の聖なる光で闇を祓いたまえ」

  
 まだ室内に入る前に、セラフィエルは祈りを捧げた。
 その横で、ジェイクが祓魔リボルバー《ジャッジメント》でカチン……と火を灯すと、ライターからリボルバーの形に変える。
 ジャキ……と音を鳴らしながらシリンダーを出して、弾が入っているのを確認すると、マーガレットが息を飲んだ。

「っ……銃を、つかうんですか?!」

「ん? ああ、使うが心配は無い。弾は聖銀弾(セイギンダン / Argent Round)だ。体は傷付かない」

 シリンダーをガシャンと戻してから、ジェイクはセラフィエルの背中に触れた。
 それに背筋を伸ばしたセラフィエルは穏やかに微笑んで頷いた。



 ギィ…………



 扉をゆっくりと押し開いた。
 ピンクと白で統一された室内は、可愛らしい家具や、レースがあしらわれたベッドがある少女らしい部屋なのだが、その全てがズタズタに切り裂かれている。
 ジェイク達は想定内だと室内を眺めてから、中央を見た。

「っ……!! ぐぅぅぅああああ…………」

「ひっ!!」

 室内の真ん中、部屋に似つかわしくない無骨な木製の椅子に座る幼い少女はロープで体を拘束されていた。
 薄茶色に汚れた白のワンピースは、元々質が良かったのだろう。 同じ色のリボンで髪を飾っていたのだろうが、片方は解け、もうどこにあるか分からない。
 掻き乱したように髪を振り乱して俯く少女の顔は、髪に隠れて見えなかったが、その口からは絶え間なく唸り声が響いていた。
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