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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録
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しおりを挟む安心させるように笑ったセラフィエルは、そっと顔を近づけ、指先で顔を確認した。
頬は傷跡があり痛みが走るのか、小さく声が漏れた。 だが、痛いと泣き叫ぶ訳でもない幼い子供。
耳に触れてから、顔をさらに近付け内緒話を始めた。
(どこかでこっそり、なにかの儀式をしたのですか?)
それは、近くにいるジェイクにすら聞こえない声量で。 でも、トレイニーにはしっかり聞こえていた。
ビクッ! と体が跳ねてセラフィエルのローブを強く掴む。
白いローブに皺がより、どんどんとチカラが強くなっていくと、白杖に戻っていた光導杖(ルクス・カデュケウス) から鈴の音が鳴りだした。
白杖の見える位置に鈴はないのに、部屋中に鳴り響く音にまるで頭が割れるよう。
セラフィエルとジェイクは眉を寄せる位だが、コールマン夫妻や新人二人は慌てて耳を抑える。
トレイニーの手がガタガタと震えだし、グルっ……と白目をむいた。
どこかで引き攣った悲鳴が聞こえた。 マーガレットか、クラリッサか。
そこで、セラフィエルはトレイニーを胸の内に抱えたまま、両の手をパァンと合わせる。
清めの響音が響き、トレイニーの体がビクッ! と揺れて目を覚ました。 至近距離にいるセラフィエルを見上げると、安心させる笑みが浮かんでいて、トレイニーの涙に濡れる瞳が柔らかく緩められてホッと息をついた。
琥珀色の瞳は伏せられていて、手を合わせたまま祝詞を紡ぐ。
「慈悲深き御神よ、我らの胸にある命の灯を守り給え。揺るがぬ心、砕けぬ意志を与え、悪しき者の手から安全を保ち給え。」
「…………今、なにしたの? ここが暖かいよ?」
自分の胸を抑えながら聞いてきたトレイニーに、セラフィエルは口を開いた。
「トレイニーさん、あなたの中に悪魔がいたのはわかりますか?」
「…………うん」
「今はですね、一時的に体から無理やり出てもらっているのですよ。ですが、トレイニーさんの中に入りたくて戻ってきてしまうのです」
「……や、やだ」
青ざめて首を振るトレイニーを抱きしめるように、まだ手の平を合わせたままでいるセラフィエルは、頷く。
「そうですね。完全に追い払ってしまいましょうね。その為に、いまはお話を聞かせて頂きたいのです。祈りをして悪魔が体入らないようにしていますので、短時間ですが、大丈夫ですよ。ちゃんと無事に解決へと導きますからね」
「……このままじゃダメなの?」
「そうですね、まだ根本的な解決をしていませんから、もう少し時間を頂きますね。僕の祈りも永遠には続きませんから。だから、教えてくださいませんか? …………何処でどんな儀式をして、悪魔を呼び寄せましたか?」
「トレイニー!!!」
その優しい言葉遣いから飛び出した『悪魔を呼び寄せる儀式』にチャールズは目を見開き怒鳴り声を上げた。
マーガレットは恐怖に悲鳴を噛み殺してガタガタと震える。
そんなコールマン夫妻から少し離れた場所にいるトレイニーは、父親の声に震えて体を小さくさせた。
悪魔を呼び寄せる儀式は、重罪になるのだ。
怒りを滲ませて早歩きでドカドカ近付いてくるチャールズの前にジェイクが立ちはだかった。
身長の高いジェイクが見下ろすとチャールズは怯んだが、それでも怒りはおさまらないのか、真っ赤な顔はキツくトレイニーを睨みつける。
「何を考えているんだトレイニー! いくらお前でも悪魔を呼ぶ儀式は重罪だと分かっているだろう! なんて馬鹿なまねをしたんだ!!」
「ひっ! ……ごめんなさい! ごめんなさい!! 叩かないでっ! ごめんなさ……」
縮こまり震えるトレイニーを優しく抱きしめたセラフィエルが大丈夫ですよ……と囁いてから、そっと両手でトレイニーの耳を覆った。
ガタガタと震える小さな体をセラフィエルは守ると、ジェイクが冷めた目でチャールズを見る。
「これが悪魔を呼ぶ儀式をした理由だろう。学校は楽しい、友達と遊ぶのも楽しい。でも、帰宅を怖がる。 気付いつか? あんたが騒ぐ度に、トレイニーは縮こまり、母親は恐怖している。それが続いて相談相手がいなかったトレイニーは_____悪魔に助けを求めたんだろ」
「………………なにを」
愕然と呟くチャールズは、ゆっくりとトレイニーを見た。
耳を塞がれてセラフィエルに抱き着くトレイニーはガタガタと震えている。
いつもの事だった。
言われた事が出来ないから。
言ったことを守らないから。
ダラダラしているから。
約束を守らないから。
騒がしいから。
だから、その不満は手を振り下ろすことで発散され、震えて謝る姿にいつの間にか満足するようになっていた。
「…………だからって、だからって悪魔を……」
「それくらい、恐怖に晒されて疲弊していたってことだろ」
ジェイクの言葉にチャールズが呆然としているのを感覚で感じ取ってから、セラフィエルはゆっくりと耳を塞いでいた手を離した。 そして、微笑む。
「悪魔に、何かを願いましたか?」
「……………………パパが、いなくなると……いいなって」
それが、トレイニーのたった一つの願い。
チャールズは愕然とした。
自らの娘が、まさかそんな願いを悪魔にするなんてと。
力が抜けて膝から崩れ落ちたチャールズは、腕をだらりと垂らして俯いた。
「ごめんなさい……私があんなことしたから……友達の話にお願いしちゃいなよって言われたから」
「…………友達、ですか?」
「うん…………いつも一緒にいる子」
「何人ですか? お名前を教えてくれませんか?」
少し早口になったセラフィエルに首を傾げながらトレイニーは4人の友人の名前を口にした。
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