The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

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 安心させるように笑ったセラフィエルは、そっと顔を近づけ、指先で顔を確認した。
 頬は傷跡があり痛みが走るのか、小さく声が漏れた。 だが、痛いと泣き叫ぶ訳でもない幼い子供。
 耳に触れてから、顔をさらに近付け内緒話を始めた。


 (どこかでこっそり、なにかの儀式をしたのですか?)


 それは、近くにいるジェイクにすら聞こえない声量で。 でも、トレイニーにはしっかり聞こえていた。
 ビクッ! と体が跳ねてセラフィエルのローブを強く掴む。
 白いローブに皺がより、どんどんとチカラが強くなっていくと、白杖に戻っていた光導杖(ルクス・カデュケウス) から鈴の音が鳴りだした。

 白杖の見える位置に鈴はないのに、部屋中に鳴り響く音にまるで頭が割れるよう。
 セラフィエルとジェイクは眉を寄せる位だが、コールマン夫妻や新人二人は慌てて耳を抑える。

 トレイニーの手がガタガタと震えだし、グルっ……と白目をむいた。
 どこかで引き攣った悲鳴が聞こえた。 マーガレットか、クラリッサか。

 そこで、セラフィエルはトレイニーを胸の内に抱えたまま、両の手をパァンと合わせる。
 清めの響音が響き、トレイニーの体がビクッ! と揺れて目を覚ました。 至近距離にいるセラフィエルを見上げると、安心させる笑みが浮かんでいて、トレイニーの涙に濡れる瞳が柔らかく緩められてホッと息をついた。
 
 琥珀色の瞳は伏せられていて、手を合わせたまま祝詞を紡ぐ。


「慈悲深き御神よ、我らの胸にある命の灯を守り給え。揺るがぬ心、砕けぬ意志を与え、悪しき者の手から安全を保ち給え。」


「…………今、なにしたの? ここが暖かいよ?」

 自分の胸を抑えながら聞いてきたトレイニーに、セラフィエルは口を開いた。

「トレイニーさん、あなたの中に悪魔がいたのはわかりますか?」

「…………うん」

「今はですね、一時的に体から無理やり出てもらっているのですよ。ですが、トレイニーさんの中に入りたくて戻ってきてしまうのです」 

「……や、やだ」

 青ざめて首を振るトレイニーを抱きしめるように、まだ手の平を合わせたままでいるセラフィエルは、頷く。

「そうですね。完全に追い払ってしまいましょうね。その為に、いまはお話を聞かせて頂きたいのです。祈りをして悪魔が体入らないようにしていますので、短時間ですが、大丈夫ですよ。ちゃんと無事に解決へと導きますからね」

「……このままじゃダメなの?」

「そうですね、まだ根本的な解決をしていませんから、もう少し時間を頂きますね。僕の祈りも永遠には続きませんから。だから、教えてくださいませんか? …………何処でどんな儀式をして、悪魔を呼び寄せましたか?」

「トレイニー!!!」
  
 その優しい言葉遣いから飛び出した『悪魔を呼び寄せる儀式』にチャールズは目を見開き怒鳴り声を上げた。
 マーガレットは恐怖に悲鳴を噛み殺してガタガタと震える。
 そんなコールマン夫妻から少し離れた場所にいるトレイニーは、父親の声に震えて体を小さくさせた。
 


 
 悪魔を呼び寄せる儀式は、重罪になるのだ。



 怒りを滲ませて早歩きでドカドカ近付いてくるチャールズの前にジェイクが立ちはだかった。
 身長の高いジェイクが見下ろすとチャールズは怯んだが、それでも怒りはおさまらないのか、真っ赤な顔はキツくトレイニーを睨みつける。

「何を考えているんだトレイニー! いくらお前でも悪魔を呼ぶ儀式は重罪だと分かっているだろう! なんて馬鹿なまねをしたんだ!!」

「ひっ! ……ごめんなさい! ごめんなさい!! 叩かないでっ! ごめんなさ……」

 縮こまり震えるトレイニーを優しく抱きしめたセラフィエルが大丈夫ですよ……と囁いてから、そっと両手でトレイニーの耳を覆った。

 ガタガタと震える小さな体をセラフィエルは守ると、ジェイクが冷めた目でチャールズを見る。

「これが悪魔を呼ぶ儀式をした理由だろう。学校は楽しい、友達と遊ぶのも楽しい。でも、帰宅を怖がる。 気付いつか? あんたが騒ぐ度に、トレイニーは縮こまり、母親は恐怖している。それが続いて相談相手がいなかったトレイニーは_____悪魔に助けを求めたんだろ」

「………………なにを」

 愕然と呟くチャールズは、ゆっくりとトレイニーを見た。
 耳を塞がれてセラフィエルに抱き着くトレイニーはガタガタと震えている。

 いつもの事だった。
 言われた事が出来ないから。
 言ったことを守らないから。
 ダラダラしているから。
 約束を守らないから。
 騒がしいから。


 だから、その不満は手を振り下ろすことで発散され、震えて謝る姿にいつの間にか満足するようになっていた。


「…………だからって、だからって悪魔を……」

「それくらい、恐怖に晒されて疲弊していたってことだろ」

  
 ジェイクの言葉にチャールズが呆然としているのを感覚で感じ取ってから、セラフィエルはゆっくりと耳を塞いでいた手を離した。 そして、微笑む。



「悪魔に、何かを願いましたか?」

「……………………パパが、いなくなると……いいなって」


 それが、トレイニーのたった一つの願い。

 チャールズは愕然とした。
 自らの娘が、まさかそんな願いを悪魔にするなんてと。
 力が抜けて膝から崩れ落ちたチャールズは、腕をだらりと垂らして俯いた。

「ごめんなさい……私があんなことしたから……友達の話にお願いしちゃいなよって言われたから」

「…………友達、ですか?」

「うん…………いつも一緒にいる子」

「何人ですか? お名前を教えてくれませんか?」

 少し早口になったセラフィエルに首を傾げながらトレイニーは4人の友人の名前を口にした。

 
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