The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

2-11

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 新人二人は、祓い師の様子を見ていた。
 数が少ない祈祷師オラトル にとって必須となる循祈契じゅんきけい
 それをすぐ目の前で見てしまい、特にクラリッサは興奮さめやらない。

「まさか、希少な祈祷師オラトル循祈契じゅんきけいを目の前で見れるなんて!」

 キラキラと目を輝かせて話すクラリッサに、エリオットがどうしようもないな……と横目で見ながら、小さなテーブルを壁側に移動させた。
 トレイニーの部屋の隣室。あの殺風景な部屋で、悪魔祓いは実行される。
 その準備として、簡単に投げたり出来るであろう物を端に寄せていく。
 元々室内の物は少なく、短時間で終わりそうだ。

 そんな中、セラフィエルとジェイクも急ぎ準備に取りかかっていた。
 トレイニーの体内を浄化し続けるには、セラフィエルが消耗してしまうし、悪魔が体に戻ってしまう。
 その前に、トレイニーの体を悪魔の干渉から遠ざける準備が必要なのだ。

 セラフィエルは手探りで、ボストンバッグから大きな布を出して中央に敷く。シワを伸ばしたあと、その中心に椅子を置いた。
 その周りに聖水を撒いて、祈りを捧げてから十字架を椅子の背にかける。
 
「そっちは終わったか?」

 俯き手を組んでいたセラフィエルが、ジェイクに答えるように静かに頭を上げた。

「はい」

「んじゃ、塩頼む」

「はい、すぐに」

 トレイニーの時間は刻一刻と減らされていく。 時間に余裕は無い。 
 直ぐに立ち上がったセラフィエルは、ジェイクによって誘導されて渡された皿と塩に祈り、四隅に盛り塩を準備していく。
 皿の下に小さな布を敷くのだが、セラフィエルは指先で裏表を調べる。そこにも退魔の模様が刻まれていて、様子を見ている五人は、普段見慣れない光景に息を飲んだ。
 指先だけの感覚で分かるほどに繰り返された儀式ではあるが、毎回緊張感が伴う。人の命がかかっているのだ。
 
 カーテンが落とされ、外からの光を遮られた。薄暗い室内、何も知らない人から見たら、怪しげな儀式をしようとしているように見えるだろう。
 
 小さな蝋燭の火だけを灯した燭台にセラフィエルが静かに祈った。そして手を離すと____ふわっと空中に浮きコールマン家族は目を見開く。

「えっ。浮いてる……」

「悪魔からの干渉から火を守るために自立型に変えました」

 零れた言葉の疑問に答えるが、意味がわからないと、一斉に不思議そうに首を傾げながらも頷いていた。
 コソコソと、今のどういう意味? と話しているだ、誰も理解していない。

 火は聖なる灯火となる。
 悪魔祓いで灯す時は、出来るだけ悪魔に消されない配慮をしたい。

 ふわりと甘いお香の香りが漂ってきた。
 白煙が香炉から少しずつ吐き出され、室内に留まっている。
 細く長く白煙はくゆりながら部屋を揺蕩い視界を薄ぼんやりとさせていく。


「…………よし、いいな」

 ジェイクが室内を見てから頷くと、セラフィエルはコールマン夫妻と新人2人を壁に沿った場所に立たせて、祈りを込めた塩を盛りながら周囲に円を作る。 持ち込んだ聖水を垂らしていき円環を作った。

 
「ジェイク、いいですよ」

「あぁ」

 ジェイクは祓魔リボルバージャッチメントをカチンと鳴らす。
  特製祈祷煙草サンクティタス を口にくわえて火をつけると、ゆるゆると煙が吐き出される。
 ふっ……と短く息を吐いて 特製祈祷煙草サンクティタス と香の白煙が混ざりだすと、ライター型の祓魔リボルバージャッジメントが火を纏って姿を変えた。
 ジャキ、とシリンダーを出して中を確認。
 既に1発使っているので、残りは5発あるのを見て小さく頷きコールマン夫妻を静かに見つめた。

「…………ぅ」

 すぐ横にいるトレイニーから小さく声が漏れ、セラフィエルは頬に手を当てる。
 急激に落ちていく体温に、汗をじんわりとかいている。
 目も虚ろになってきていて、セラフィエルは時間がないですね……と小さく呟く。
 ジェイクもそれを見たあと、足元に盛り塩と聖水で作った円環に銃口を向けて撃鉄を落とす。

 
「聖なる霧よ、我らを包み、刃も炎も届かぬ壁となれ」

 低いジェイクの声が静かな室内に満ちる。
 銃口が緩やかに標準を捉えると、迷いなく引き金を引いた。
 
 ガウン!

 体に響く銃声に、ビクッと震えて壁に寄りかかる四人から小さな悲鳴が漏れた。
 向けられた銃口が足元を狙っている事から、撃たれるのでは……と怯えていたがらそれは杞憂で、撃ち抜かれた皿に異変すらない。

 銃声が響くと共に、咥える 特製祈祷煙草サンクティタスの煙と香の煙が絡み合い、緩やかに揺れる半透明な壁が出来た。
 ポカンとそれを見て、チャールズが指先で壁に触れると、ふわっと空気に揺れる。

 
「この場に結界を張った。これはアンタ達を守る為の結界だ。そして、部屋全体には悪魔を逃がさない為に封じる結界も張る。ここから出たら守りを失うから、死にたくなければここからは出ない事だ」

 それだけ言ってから、ジェイクはヒョイとトレイニーを抱えて、中央にある椅子に座らせた。
 不安そうにまわりを見て、下に敷いている布を踏まないように足を浮かせている。
 顔色悪く、具合い悪そうなトレイニーが、困ったようにジェイクを見る。

「ふ……踏んじゃう」

「踏んでもいいぞ、 聖印布は踏んでも問題ない」

「 聖印布……?」
 

  聖印布(Sanctum Sigillum) 布製の聖陣で、祓霊庁公式品は古代聖語と幾何学模様で織り込まれている。 
 悪魔祓いの際に、 椅子の下に敷いて対象を「聖陣の中央」に固定するためのもので、暴れる悪魔を留める役割がある。
 これは、下に敷いて使うものだが、緊急時に対象を覆う場合にも使える優れものでもある。

 その聖印布に、そっと薄茶色の靴を履いた小さな足が乗った。 
 ジェイクが、小さな腕と足に白い布で椅子と固定していく。
 トレイシーが手を少し動かすが外れる気配がなく、不安そうにジェイクを見続けた。

「大丈夫だ。この上から、もう1つ体を抑えるが心配するな」

「う……うん」

 眉尻を下げて、泣きそうになりながら頷くトレイシーに、不機嫌そうな顔しか見せていなかったジェイクは小さく笑って頭を撫でた。
 それに、まだ8歳の小さな少女は何かを撃ち抜かれたのだろう、目を見開いて口を開け、ジェイクを見ていた。
 
 怯えている雰囲気が和らぎ、セラフィエルはおや? と顔を上げる。

 (…………また、ジェイクがたらしこんだんでしょうか)

 少し長めの艶やかな黒髪、不機嫌そうだが、笑うと威力の高い綺麗な顔。
 均等の取れた体躯に、高身長。 さらに、高収入の有望株。 
 悪魔祓いの最中でさえ、その魅力は遺憾無く発揮して依頼人ですら虜にする。
 とはいえ、バディであるセラフィエルを第一に考え、近すぎる距離間や気遣いの鬼らしい姿を見たら、「はぁぁぁぁぁ、潤うぅぅぅ……」と拝むのだが。

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