The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

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 トレイニーの中に戻ってきた悪魔は、無理やり弾き出されて怒っていた。
 口汚い言葉でセラフィエルを罵り、ジェイクに向かって《この鎖を外せぇ…………!》と叫んでいる。それに対峙した時よりも確実に凶暴性を増している悪魔に、セラフィエルは少し眉をしかめた。


「貴方はトレイニーさんに呼び出された、あっていますよね?」

 《あぁ、呼ばれた! そこにいるヤツを殺してくれと言ったからなぁ!》

「…………対価はトレイニーさんですか?」

 《呼び出されただけでこっちのもんだぁ、階級は上がるし、宿主は喰える。これだけで対価以上の収穫よ》

 唇を舐めて、ケケケ……と笑う悪魔は酷く上機嫌で室内を見渡した。
 唇が裂けているのではないかというくらいに上まで上がり充血した目はギラギラして、まるで獲物を選ぶような愉快さを滲ませている。
 そんな娘の姿に、まるで別人のような形相だとマーガレットが息を飲む。
 悪魔は結界に遮られたその先に、目的の人物を見つけてニヤリと笑った。
 
 マーガレットは、恐怖に顔を歪ませた。 この歪む母の顔をトレイニーは体の奥から見ているのだと思うと、新人二人はやるせなさに顔を歪ませるしかない。
 少しでも早く、できるだけおだやかに、この悪魔祓いが終わりますようにと神に祈るが、神に背を向けた悪魔はその願いを叶えることは無いのだ。

 《この小娘は可哀想だなぁ。常日頃から父親に殴られ、母親は怖がって助けてくれない。でも、父親がいないと私にはあなたしかいないのよと縋る母親。こんな家族、いない方がいいよなぁぁぁ?》

「…………なんてこと」

 クラリッサが目を見開き思わず声を漏らす。
 それにエリオットが腕を掴んで首を振った。 悪魔に隙を作ってしまうから、声を出さない方がいい。

 《………………なぁ、あんたぁ。めずらしいな、  祈祷師オラクルだろう》

祈祷師オラクルを知っているのですか?」

 《そりゃ、そうだ。内部に強い祈りの力を持っている祓い師。それは誰でもなれるわけではないし、使いこなすのは大変だと聞くからなぁ。俺も初めて会った…………喰ったら、美味いらしいなぁ? あーーーっははははははは!!! 》

 目を細めて嘲笑うように言う悪魔は楽しそうに高笑いをし、ジェイクの表情に嫌悪が浮かぶ。
 大切な宝物を汚らしくも、無断で踏みにじられたようなフツフツとした怒りが混み上がり、ジャキ……と音を鳴らして祓魔リボルバージャッジメントを持ち直す。

 
「…………セラを喰うだぁ? こいつを食っていいのは俺だけだが?」

「何を言っているんですか?」
 

 なんとも場違いなジェイクの返答にセラフィエルは思わず言葉を返した。
 二人の喰うは噛み合っていなくて、数人から「詳しく!!」という眼差しが突き刺さるのだが、勿論返事は無い。

  
「さぁ、無駄話はこれくらいで。あまり時間が掛かってはトレイニーさんの体にも負担が掛かってしまいます。ただでさえ憑かれている期間が長いですからね」

 シャンシャンと鈴を鳴らすように光導杖ルクス・カデュケウスを動かしたセラフィエルはうっすらと口端を持ち上げた。 
 
 1週間弱もの間、トレイニーは体を奪われていた。 未知の力で体の自由を奪われ、驚異的な力を引き出す悪魔にトレイニーは酷く衰弱しているのだ。
 先ほどは一時的に悪魔を追い出しトレイニーの意識を無理やり覚醒させた。その行為でテンションが上がって体の負荷を感じない様に、自らが無意識にコントロールしていたが、体は既に危険な状態になっているだろう。
 幼い子供が、よく頑張ったものだとセラフィエルは思う。

 だから、遅くても夜までには終わらせて、トレイニーの体の保護及び、回復の為に収容したいのだ。

「交渉はしないよな」

「しません。殲滅します」


 既に体を奪い衰弱させている悪魔は等級が上がっているだろう。 迷ってる暇は無いのだ。
 
 それに、祈祷師オラクルを喰うと階級が上がると噂があったのは、はるか昔。
 一時期、祈祷師オラクルや、それに近しい素質を持つ者が狙われ無惨にも食い殺される事件が多発していた。
 だが悪魔の階級を一時的に上げることもなく、どこからか広められた嘘は、今ではもう信じるものは少ない。

 だが、中にはいるのだ。 古くから生息する悪魔の一部では、今もそう信じて数が減った祈祷師オラクルを喰おうとする悪魔が。

 このことを知っているのなら、古くからいる悪魔の可能性が高い。
 長く生きれば生きるほど悪知恵が働き力が増す。予想より力をつけている可能性もあるが、トレイニーの体力を考えると悠長に待ってはいられないと判断する。

 

 だから、一気に殲滅する。




「主よ、迷える魂を慰め、邪なるものを導き給え。
この場より去らん者も、御光に包まれ、安らぎを得られんことを。
主の御名において、邪は退き、善は静けさに満たされん。」


 シャンシャン……と小鈴が部屋に響き、セラフィエルが祈りを捧げる。
 伸びやかなセラフィエルの声を聞きながらジェイクはゆっくりと祓魔リボルバージャッジメントを持つ手を前に伸ばした。


  《ぐっ……うぅぁあぁ!! お前っ……小娘から、俺を、また……引きがす……気、かぁぁぁぁ》


 セラフィエルが祈ったのは、先程トレイニーから無理やり引き剥がした退魔の祝詞。
 あまり頻繁にやると宿主の体が消耗するので何度もはしたくないのだが、今回はどうしても必要だったのだ。


 トレイニーを餌に、悪魔を呼び出し囲い込む為に。
 
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