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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録
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しおりを挟む室内には幾重にも重なる結界が張り巡らされ、それを効果的に維持する蝋燭が複数揺れている。
清められていた室内は悪魔の侵蝕と共にじんわりと空気が重くなり、何か柔らかい膜が体内に張り付いているような、そんな違和感を全員が感じていた。
重なり合う結界は逃がさない為のものと、その場に留まる人達を守る為のもので、この結界がある限り弾き出された悪魔は室内から逃げる事も別の宿主を作る事もできない。
そして空間の聖別を作るために、聖印布(布製で出来た聖陣)を敷き、聖陣の中央に置いた椅子と十字架を安置。 そこに祈りを込められたトレイニーが座ることによって聖域を作り出し、宿主に戻る事を完全に禁忌としたこの空間が作りあげられていた。
弾き出された悪魔は、黒く霧がかり天井の隅に逃げている。ぐるぐると数人の声が重なる耳障りな叫びが室内に響く中、風の通りがないのに、外と中を隔てるカーテンがバサバサと揺れた。
夕方に迫る時間のはずなのに、陽の光が差し込まず室内は冷えた空気が漂っている。
結界内にいる4人は、急に冷えだした室内に困惑し、チャールズが訝しげに腕をさすった。
悪魔からの干渉に酷く驚いた4人は、無意識にトレイニーを見た。
悪魔が弾き出されたトレイニーは、ガクリと体から力が抜けて背もたれに体を預けている。
手足が縛られているから逆に椅子から滑り落ちる危険も無くなったわけで、セラフィエルは椅子に寄りかかる時に鳴る微かな音を確認してから、盲た瞳をゆっくりと開く。
微かな光しか感じないセラフィエルは特に闇を孕む場所に顔を向けた。
空間に滲み出るように現れる姿は、随分と歪で禍々しい。闇を纏っているような、霧のような。
憑依型の悪魔は祓い師でも捉えずらいのだが、そんな悪魔相手でもジェイクに躊躇いはない。
緩やかに、だが時に素早く動く悪魔の姿を逃がさないと、鋭くした眼差しが滲む影を捉えて視線が動く。
動く度に空気が揺れて、室内の温度を2℃ほど下げる。 その気温の変化に、コールマン夫妻や悪魔科新人の2人は捉えることが出来ないなりに、悪魔の存在を認識した。
空気が揺れる。
悪魔が動く度に空気が揺らいで不可思議な道をつくる。 それから砕かれた星の軌道のように美しいのが皮肉だ。
セラフィエルは、それを直感で感じていた。
光導杖 から手を離したセラフィエルは空中に浮かんでいるのを指先で撫で感じてから、手を胸の前で組んで目を伏せる。
そして小さく開いた唇から零れる祝詞は美しいのに、その効果は随分と攻撃的だった。
「全能の御神よ、我らの手に穏やかな光をお授けください。触れるものすべてに安らぎと清浄を満たし、闇より守り給え」
足元に小さく広がる円形の聖陣は風を孕んで光が溢れた。
まるで光が混ざる粒子のように、風に舞ってふわっと揺れたかと思ったら、周囲の光が寄り固まり、セラフィエルの組んだ手の近くに集まり形作る。
それほど大きくはないが、突如現れた光の玉は次第に矢に姿を変え、鏃が動き回る悪魔を捉えてゆっくりと動いていてた。
標準を合わせ放たれた矢はそれほどスピードはない。
生成された数も一つで、最初は焦っていた悪魔も鼻で笑って簡単に避けた。
キラキラと闇を切り裂くような光の矢は悪魔の隣を通り過ぎ、闇に紛れるように姿を消してしまい、コールマン夫妻は酷く不安に駆られる。
《なんだ、祈祷師とはいえ強くないな》
最初は構えていた悪魔もニヤリと口を裂けさせながら笑った。
古くから伝え聞いた祈祷師という存在は、力を内包した旨味の強い人間なんだとか。
結局力が跳ね上がることは無かったが、味はとの人間よりも美味いと、食べた悪魔は口を揃えて言った。
だから、この悪魔はどちらにしてもセラフィエルを捕食するつもりなのだ。
獲物がわざわざ目の前に来て、簡単に美味い餌が手に入れれると悪魔は舌舐りする。
「…………まったく、これだから寄生型は好きではありません」
実体化すること無く物理をすり抜ける悪魔は、セラフィエルにとって気配を察知しづらい悪魔だと舌打ちを零す。神経を研ぎ澄まして気配を追っていたのだが、突然気配が掻き消えた。
ん…… 、と周りを見るように顔を動かすと、生暖かい風が顔にかけられ、耳元で嫌にねちっこい声が響く。
《喰わせろ》
聞こえたしゃがれ声にビクッと肩を動かすと、直ぐにジェイクの腕がセラフィエルの頭を抱き寄せ、ガゥン! と銃声が響く。 突然の悪魔の接触に心拍が上昇した。
「…………感覚が掴みづらいです」
「まぁ、しかたないだろう」
寄生型は、そもそも肉体を持たない。
動くことによって音や気配で場所を特定するセラフィエルにとって、実体を持たない悪魔の存在は場所の特定が少し難しい。
抱き寄せられて胸に収まるセラフィエルが、ため息混じりに不満を漏らしながらジェイクの服を握ると、抱きしめる腕に少しだけ力が入った。
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