39 / 69
第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録
2-18
しおりを挟む窓から見える外は誰もいなく静寂だけがその場にあった。
セラフィエルの隣に座るジェイクは、無意識にセラフィエルの肩に腕を乗せていて抱き寄せて、ボーッと外を眺めている。
抵抗なく紅茶を飲んでいたセラフィエルは見上げた。
「疲れましたか?」
「……ん? いや。お前の休み申請を戻ったら直ぐにしないとなって……」
「もう……僕の事はいいですから」
「お前、たまに抜けてるから」
どうということの無い会話であったが、この殺伐とした室内では非常に不釣り合いだ。
様々なことがあり、憔悴して肩で息をするマーガレットと、思考の渦に取り残されているチャールズ。
ピリピリとした雰囲気が室内に充満していた。
エリオットとクラリッサは、まるで助けを求めるようにチラチラとジェイクを見るが、ジェイクに動く気配はなくて、余計に動揺している。
だが、これからの事後処理は彼らの仕事だ。既に仕事は終わらせた二人は何時でも祓霊庁に帰社出来る状態である。
「今、何時ですか?」
「……25時37分」
「では、まだですね」
ジェイクの声に反応したセラフィエルが軽くため息を吐くと、ジェイクが顔を上げて覗き込んで来る。
「しんどいか?」
「いえ、少し眠くなってきているだけです」
「寝るか? 起こすぞ?」
「悪魔祓いを終わらせて泊まり込みがないんです、流石に失礼ですよ」
そうか、とだけ言ったジェイクが、ローブの中にある煙草を出そうとすると、セラフィエルの腕が伸びてきた。
ギュと腕を掴むセラフィエルの手を見て、その腕をつたい顔を見る。
「セラ?」
「人様のご自宅ですよ」
1時間以上は煙草を吸っていないジェイクは無意識に手を伸ばしてたのか、黙り込んでから手をもどす。
チラリとセラフィエルの唇を見るが、はぁ……とため息を吐き出して頭をかいた。
____
こうも待たされているのには理由があった。
トレイニーを迎えに来た悪魔科の職員は時間通りに来たのだが、マーガレットがかなりごねたのだ。
「お願い! 連れていかないで!! 大事な娘なのよぉ!!」
トレイニーを抱き締めて泣き喚くマーガレットに新人2人は困惑していた。
気持ちはわかる。でも…………。
そんな新人ならではの優しさは、支援員達には通じない。
こういった場合の対応もよくあるのだろう、無表情ながら少しの慰めを口にするだけで、トレイニーは瞬く間に連れ去られてしまった。
泣き崩れるマーガレットに、なんと声をかけようかと困惑するエリオットとクラリッサ。
時間的にも今後の話は時間を置いてした方がいいと提案したいところだが、話を聞く様子がない。 声を掛け、肩を叩くが首を横に振るだけ。
そんなマーガレットが煩わしくなったのか、とうとうチャールズが顔を顰め、怒りで震えながら声を張り上げた。
「うるさい! 深夜だぞ!! ただでさえ今日の事で噂になりそうなんだ! こんな時に泣くな、鬱陶しい!!」
誰よりも自分の心配をしているチャールズは、爪を噛みながらブツブツと何かを言い出した。
あまりにも自分勝手な言い分に流石に思うところがあったのだろう。
マーガレットの表情が一段と険しくなる。
「…………そ、そんな酷い……トレイニーが連れていかれたのよ! なんで平気なの!」
今までは怖がり震えるばかりだったマーガレットも、今回ばかりはと叫んだ。
溢れる重苦しい気持ちが部屋を充満している。
こんな場面だからこそ、人の本性というものが現れるのだ。
世間体を何よりも気にするチャールズの醜く歪んだ表情をセラフィエルは見えないが、聞くだけでその腐った性根は十分だと吐息を漏らした。
現在午前1時48分。
今直ぐにでも帰宅したい所なのだが、今安易に外には出られない。
深夜0時を過ぎた時間を24時、そして、午前一時を回ると、危険な時間帯25時となる。
この時間は悪魔が活発に活動し、様々な現象をおこす。
だから、決して一人で外出をしてはいけない。
屋内であれば、どの建物にもこの時間帯を指定した魔除けが建築の際に施されている。
全ての時間を指定した魔除けでは、聖陣が余りのも大きくなってしまい施せない事と、費用の問題もある。
オプションとして、範囲を変えたり時間を伸ばしたりなどは可能だが、25時台の魔除けの聖陣は建築法にも含まれる義務なのだ。
だから、トレイニーの搬送が時間に関係して早く対応したり、セラフィエルとジェイクが足止めをされているのもそのせいである。
もうじき25時も終わる時間に差し掛かるというのに、ひたり……と闇を呼び寄せそうな負の感情を爆発させた二人の昂りをまた感じて、ジェイクにもたれていたセラフィエルは目を開ける。
ジワッ……と忍び寄る気持ちの悪いじめっとした感覚は、悪魔を無意識に呼び出してしまう前兆と類似していた。
清浄な空気に変えていたのに、今では汚染がはじまり出している。
セラフィエルだけじゃなく、ジェイクもそれに気付いていて、小さく舌打ちをした。
「これ以上仕事を増やされたらたまらん」
不機嫌そうに言ったジェイクが立とうとすると、その手をセラフィエルが握る。
「僕がしますよ」
「…………体調は」
「数回祈っても問題ありません」
数秒セラフィエルを見つめたあと。ジェイクは諦めてように座り直した。
シャン……シャン……
光導杖(ルクス・カデュケウス)」 の姿が変わり、小鈴が音を奏でる。
それに全員の視線を集めた。
深夜の張り詰めた空気に清廉な鈴の音が響く。
「主よ、我らの盾と救い主、汝の聖なる御手を我らの上に掲げ給え。
汚れたる闇よ、汝の前にひれ伏し、聖なる光の炎に焼き尽くされんことを。
我らの魂を清め、我らの道を照らし給え。
汝の御名にて悪しきものを祓いたまえ」
悪魔祓いの最初に祈る場の空気を正常化させる、浄化の祈り。
さらにチャールズとマーガレットの前にしゃがみ光導杖(ルクス・カデュケウス)を横向きにして静かに祈った。
「全能なる御神よ、今ここに眠れる魂を御手に抱き給え。汝の光を纏わせ、闇の侵入を断ち、意識なき身を護り給え。」
先程トレイシーに何度もかけていた精神保護の祈り。
この二重の祈りを受けて、不安定な二人精神がピタリと落ち着く。
瞬きを繰り返しながら、ゆっくりとセラフィエルを見上げた。
「……今の時間、負の感情は魔を呼び込みます。せっかく払ったのに、また悪魔を招いてしまいますよ。大丈夫、娘さんは良くなります。いまは不安でしょうが、今後の為にも落ち着いてください。あなた達も精神の乱れを感じます」
「………………貴様に何がわかるんだ」
激昂していた気持ちは落ち着いたが、その反動で気が抜けたチャールズが静かに言った。
それに、セラフィエルは笑う。
「僕は経験者ですから、多少はわかりますよ」
その言葉を聞いて、小さく目を見開いたチャールズは俯き、小さく頷いた。
47
あなたにおすすめの小説
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
お腹いっぱい、召し上がれ
砂ねずみ
BL
料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。
そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。
さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる