The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

2-18

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 窓から見える外は誰もいなく静寂だけがその場にあった。
 セラフィエルの隣に座るジェイクは、無意識にセラフィエルの肩に腕を乗せていて抱き寄せて、ボーッと外を眺めている。 
 抵抗なく紅茶を飲んでいたセラフィエルは見上げた。

「疲れましたか?」

「……ん? いや。お前の休み申請を戻ったら直ぐにしないとなって……」

「もう……僕の事はいいですから」

「お前、たまに抜けてるから」
 
 どうということの無い会話であったが、この殺伐とした室内では非常に不釣り合いだ。
 
 様々なことがあり、憔悴して肩で息をするマーガレットと、思考の渦に取り残されているチャールズ。
 ピリピリとした雰囲気が室内に充満していた。
 エリオットとクラリッサは、まるで助けを求めるようにチラチラとジェイクを見るが、ジェイクに動く気配はなくて、余計に動揺している。
 だが、これからの事後処理は彼らの仕事だ。既に仕事は終わらせた二人は何時でも祓霊庁はつれいちょうに帰社出来る状態である。

「今、何時ですか?」

「……25時37分」

「では、まだですね」

 ジェイクの声に反応したセラフィエルが軽くため息を吐くと、ジェイクが顔を上げて覗き込んで来る。

「しんどいか?」

「いえ、少し眠くなってきているだけです」

「寝るか? 起こすぞ?」

「悪魔祓いを終わらせて泊まり込みがないんです、流石に失礼ですよ」

 そうか、とだけ言ったジェイクが、ローブの中にある煙草を出そうとすると、セラフィエルの腕が伸びてきた。
 ギュと腕を掴むセラフィエルの手を見て、その腕をつたい顔を見る。

「セラ?」

「人様のご自宅ですよ」

 1時間以上は煙草を吸っていないジェイクは無意識に手を伸ばしてたのか、黙り込んでから手をもどす。
 チラリとセラフィエルの唇を見るが、はぁ……とため息を吐き出して頭をかいた。


 ____

 こうも待たされているのには理由があった。
 トレイニーを迎えに来た悪魔科の職員は時間通りに来たのだが、マーガレットがかなりごねたのだ。
 

「お願い! 連れていかないで!! 大事な娘なのよぉ!!」

 トレイニーを抱き締めて泣き喚くマーガレットに新人2人は困惑していた。
 気持ちはわかる。でも…………。

 そんな新人ならではの優しさは、支援員達には通じない。
 こういった場合の対応もよくあるのだろう、無表情ながら少しの慰めを口にするだけで、トレイニーは瞬く間に連れ去られてしまった。

 泣き崩れるマーガレットに、なんと声をかけようかと困惑するエリオットとクラリッサ。
 時間的にも今後の話は時間を置いてした方がいいと提案したいところだが、話を聞く様子がない。 声を掛け、肩を叩くが首を横に振るだけ。

 そんなマーガレットが煩わしくなったのか、とうとうチャールズが顔を顰め、怒りで震えながら声を張り上げた。

「うるさい! 深夜だぞ!! ただでさえ今日の事で噂になりそうなんだ!  こんな時に泣くな、鬱陶しい!!」
  
 誰よりも自分の心配をしているチャールズは、爪を噛みながらブツブツと何かを言い出した。
 あまりにも自分勝手な言い分に流石に思うところがあったのだろう。
 マーガレットの表情が一段と険しくなる。
 

「…………そ、そんな酷い……トレイニーが連れていかれたのよ! なんで平気なの!」

 今までは怖がり震えるばかりだったマーガレットも、今回ばかりはと叫んだ。
 溢れる重苦しい気持ちが部屋を充満している。
 こんな場面だからこそ、人の本性というものが現れるのだ。
 世間体を何よりも気にするチャールズの醜く歪んだ表情をセラフィエルは見えないが、聞くだけでその腐った性根は十分だと吐息を漏らした。

 現在午前1時48分。
 今直ぐにでも帰宅したい所なのだが、今安易に外には出られない。
 深夜0時を過ぎた時間を24時、そして、午前一時を回ると、危険な時間帯25時となる。
 この時間は悪魔が活発に活動し、様々な現象をおこす。
 だから、決して一人で外出をしてはいけない。
 屋内であれば、どの建物にもこの時間帯を指定した魔除けが建築の際に施されている。
 全ての時間を指定した魔除けでは、聖陣が余りのも大きくなってしまい施せない事と、費用の問題もある。
 オプションとして、範囲を変えたり時間を伸ばしたりなどは可能だが、25時台の魔除けの聖陣は建築法にも含まれる義務なのだ。
 
 だから、トレイニーの搬送が時間に関係して早く対応したり、セラフィエルとジェイクが足止めをされているのもそのせいである。


 もうじき25時も終わる時間に差し掛かるというのに、ひたり……と闇を呼び寄せそうな負の感情を爆発させた二人の昂りをまた感じて、ジェイクにもたれていたセラフィエルは目を開ける。
 ジワッ……と忍び寄る気持ちの悪いじめっとした感覚は、悪魔を無意識に呼び出してしまう前兆と類似していた。
 清浄な空気に変えていたのに、今では汚染がはじまり出している。
 セラフィエルだけじゃなく、ジェイクもそれに気付いていて、小さく舌打ちをした。

「これ以上仕事を増やされたらたまらん」

 不機嫌そうに言ったジェイクが立とうとすると、その手をセラフィエルが握る。

「僕がしますよ」

「…………体調は」

「数回祈っても問題ありません」

 数秒セラフィエルを見つめたあと。ジェイクは諦めてように座り直した。


 シャン……シャン……

 光導杖(ルクス・カデュケウス)」 の姿が変わり、小鈴が音を奏でる。
 それに全員の視線を集めた。

 深夜の張り詰めた空気に清廉な鈴の音が響く。

 
「主よ、我らの盾と救い主、汝の聖なる御手を我らの上に掲げ給え。
汚れたる闇よ、汝の前にひれ伏し、聖なる光の炎に焼き尽くされんことを。
我らの魂を清め、我らの道を照らし給え。
汝の御名にて悪しきものを祓いたまえ」


 悪魔祓いの最初に祈る場の空気を正常化させる、浄化の祈り。
 さらにチャールズとマーガレットの前にしゃがみ光導杖(ルクス・カデュケウス)を横向きにして静かに祈った。


「全能なる御神よ、今ここに眠れる魂を御手に抱き給え。汝の光を纏わせ、闇の侵入を断ち、意識なき身を護り給え。」


 先程トレイシーに何度もかけていた精神保護の祈り。
 この二重の祈りを受けて、不安定な二人精神がピタリと落ち着く。
 瞬きを繰り返しながら、ゆっくりとセラフィエルを見上げた。


「……今の時間、負の感情は魔を呼び込みます。せっかく払ったのに、また悪魔を招いてしまいますよ。大丈夫、娘さんは良くなります。いまは不安でしょうが、今後の為にも落ち着いてください。あなた達も精神の乱れを感じます」

「………………貴様に何がわかるんだ」

 激昂していた気持ちは落ち着いたが、その反動で気が抜けたチャールズが静かに言った。
 それに、セラフィエルは笑う。

「僕は経験者ですから、多少はわかりますよ」

 その言葉を聞いて、小さく目を見開いたチャールズは俯き、小さく頷いた。




 
 
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