The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第二章:セントクレア郊外・少女憑依事件録

閑話 セラフィエルの連休

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 朝10時、セラフィエルは白杖を片手に外を闊歩する。
 11月も近くなり、寒さが強くなってきたこの頃、薄めのコートを着たセラフィエルは冷たい風に身をすくめた。
 向かい風に髪が後ろに流れるが、セットなどほぼしないセラフィエルのサラサラの髪は靡くだけ。
 そんなセラフィエルの隣には今日もジェイクがいて、正面から来る男性が何かに集中しているのかぶつかりそうになる。
 セラフィエルの肩を直ぐに掴んだジェイクが抱き寄せ、事なきを得た。

「……ジェイク?」

「ぶつかる」

 やはりジェイクがそばに居る事で、注意力散漫になるセラフィエルは気付かず不思議そうにジェイクを見上げた。

 昨日体を交えたばかりだと言うのに、二人は穏やかな空気感を纏っている。
 最初の頃は戸惑っていた。恥ずかしさや申し訳なさが支配して困惑するのに、穏やかに口端を上げて笑うジェイクはいつも通りすぎる。
 それに目を見開いたが、ジェイクが耳元で囁いた言葉にビクリと体を揺らした。

「お前が祈祷師オラクルだって周りは知ってるんだから、動揺すんな。循祈契じゅんきけいは勿論、体の交わりが必要なのは全員分かってる」

 あまりにも動揺すると、祈祷師オラクルだからこそ、周りに感づかれるのだ。
 眉尻をこれでもかと下げて不安げに瞳を揺らした当時16歳のセラフィエルは、まるで助けを求めるように震える指先でジェイクのローブを握っていた。
 
 
 

 
 ___


 
 今日はトレイシーの悪魔付きが終わった翌日、ジェイクの言った通り休み申請が通り、セラフィエルは2連休をもらう。
 ジェイクは今日のみの休みで、現在洗礼を受ける為に二人連れ添って歩いているのだが、困っ様に笑うセラフィエルはジェイクを見上げた。

「ジェイク……僕に付き添わなくていいんですよ。折角の休みじゃないすか」

「危ないだろう、さっきだってぶつかりそうだった」

「危なくありませんさっきはたまたまです」

「途中体内を侵されたらどうする気だ」

「…………平気です」

 昨日を思い出し、赤らめた顔で睨むと、ジェイクは鼻で笑った。

「………………前回そう言って大丈夫じゃなかったが?」

 チラリと隣を歩くセラフィエルを見下ろすジェイクの鋭い言葉に、事実だから言葉を飲み込む。
 セラフィエルは前回も洗礼を後回しにした。
 その結果、洗礼の場所に行くまでに体内の巡回経路を全て蓄積された神の力により塞がれて、ボロボロになるまで体が酷使されて倒れたのだ。
 ジェイクが直ぐにセラフィエルを抱き抱え緊急措置、すなわち体を繋げて事なきを得たのだった。
 それなのに、セラフィエルは懲りずに大丈夫だと言い張る。

「…………あんまり我儘言うなら無理やり抱くぞ」

「ま、街中ですよ!!」

 顔を赤らめて注意するセラフィエル。
 循祈契(じゅんきけい)でも持たず、洗礼が間に合わない程に神の力に汚染された、または、急激に汚染される現象に見舞われた場合、循祈契(じゅんきけい)では間に合わない為、それ以上の交わりを持って体内を強制的に浄化して正常化させる必要がある。
 体を交えて、直接膨大な力を叩き込む必要があるのだ。
 
 それは常に行うものでは無い。

 定期的に洗礼を受けて体内を浄化すれば悪魔祓いも効率がいいのだ。
 ただこの洗礼、一回に2時間程かかる為、時間がもったいないとセラフィエルはギリギリまで伸ばすのだ。それで倒れたら意味もないのに。


「昨日補給しましたから、大丈夫なのに」

「俺が心配なんだよ」

 心配性のバディに困ったように笑ったセラフィエルはいつもの様に腕に捕まったまま目的地に向かった。


 洗礼を受ける場所は一般向けに市内にもあるのだが、セラフィエルはいつも祓霊庁内にある洗礼の間で行っている。
 悪魔祓いに必要なアイテムの貸出場所がある場所からさらに地下に降りると、洗礼を受ける場所がある。

 洞窟のような凸凹とした室内は足を取られやすく、セラフィエルは直ぐにジェイクに腕を掴まれた。

「相変わらず道が悪いな」

 道は悪く、電気も通っていない薄暗い中で、ぼんやりと青白く光る石。
 それが照明となって辺りを照らしていた。

「セラ、着くぞ」

「はい」

 先に進んだ場所には広く透明度の高い湖があって、全体的青く発行していた。
 湖の内側から光が上がっていて、洞窟全体を照らしている。

 祈祷師オラクルにとっての洗礼は、この清らかな水の中に身を沈めて、体内に淀む穢れを洗い流す行為をいう。
 誰にも手を借りることなく出来る洗礼ではあるが、湖は深く足場も悪い。
 目の見えないセラフィエルを心配するジェイクがそばに控えるのも仕方がないだろう。

 そばに置いてある白い着物に似た薄い衣装に着替える為の衝立の中に姿を消したセラフィエルを見送ったジェイクは、岩壁に背を預け、腕を組んで目を閉じた。

 シュルシュルと衣擦れの音がする。
 人が来ないからこそ、簡易的な衝立で仕切られた脱衣所しかないのだが、祈祷師が少ない今、使うのはセラフィエルくらいなもの。
 そばに居るのはジェイクだけだからこそ、なんの問題がないとセラフィエルは気にしなかった。 


「ジェイク」

「なんだ?」

「時間が掛かりますから、途中で帰宅して構いませんからね」

「帰らねぇから、変な心配すんな」

 頑なに残っていると言って聞かないジェイクに、仕方のない人ですね……とため息を吐いてからセラフィエルが衝立から出てきた。
 肌が透ける程の薄い衣を着たセラフィエルを見たジェイクが静かに煙草を出して咥えると、水に片足を付けたセラフィエルが振り向いた。

「ジェイク、煙草駄目ですよ」

「お前が代わりをするか?」

「しません!!」

 まったく……と階段状になっている湖の中に身を沈めて行く。
 水深は深く、奥まで行くとセラフィエルの肩まで浸かってしまうくらいには深い。トプン……と頭まで入ってしまうと、体内に澱んでいた物が洗い流されるのがわかり、重かった体が少しずつ軽くなっていった。

 特別なにかをする訳では無い。
 静かに水に浸かっているだけで清浄化されるこの洗礼に使われる水は神の水と呼ばれていた。



 
「セラ。明日から新人が入る話は聞いているか?」

 静かなこの場所で、ジェイクの声が落ちたのは洗礼を初めて40分程経った後だった。
 仰向けて浮かんでいたセラフィエルは体を起こして振り向いた。
 既に3本の煙草を吸い終わり、4本目に火を付けようと小さなリボルバーの銃口から火を出しながら、ジェイクは静かに話し出した。

「サポートされていた侵蝕痕 がある新人の女子と、他支部から二人だな」

「急ですね」

「他部署からは人数も足りないし、研修も兼ねての移籍だ。イニシエイドだと」

「バディはどうしたのです?」

「……死んだと」

「そう……ですか」


 それだけ言って会話は途切れた。
 ゆっくりと体を水に浸しながら、目を閉じて見知らぬ同僚の冥福を祈る。
 
 
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