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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録
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しおりを挟むニコは、つい最近まで悪魔科のサポートプログラムを受けていた。
家族を悪魔によって失い、自らの体にも消えない侵蝕痕が残されたニコにとって、祓い師となって悪魔を根絶やしにするのが目標でいて一番の願い。
大切な両親を、大好きな弟妹を守れなかった弱い自分自身を憂いてエクソシストではなく、規則に乗っ取った祓い師の道を選ぶ。
根絶やしにしたい。 そのためには、死ぬわけにはいかない。
心に燃やす炎を消さないように、日々、日常生活を取り戻す為にサポートを受けて、やっと第1歩を進んだのに。
ニコは究極的な弱点である極度の方向音痴を出勤初日から発揮したのだった。
だが、それがあったから、ニコは普段はありえないセンチネル2人の悪魔祓いを見ている。
呆然と目を見開き、スカートを翻して体術と投擲を合わせた戦闘を繰り返すジュディと、余裕そうに祈りを込めながら弾丸を放つジェイクに、まるで惹かれるように見つめていた。
さらに、そのサポートをするように動くティアをチラリと見る。
このサポートは、実際に受けてみない事には凄さはわからない。
祓い師のスタイルは様々あって、同じ後衛といえどもジェイクとはまるで違う。
それぞれにあったスタイルを模索して現場に立ち、確立していく過程で1人前となるのだ。
ニコには、どうしても華々しい前衛に目が行く。
私も力の限り悪魔と戦いたいと、飛び蹴りをして悪魔を吹き飛ばし、スカートをふわりと翻すジュディを見た。
そのすぐ横、かするほどの数ミリ単位をしっかりと見極めて発砲したジェイクの弾丸が、悪魔の額を撃ち抜いた。
その姿を、ニコは顔を赤らめて見つめていた。
______
「終わったわね」
炭のようにプスプスと音を鳴らして黒ずみ消えていく悪魔を、ジュディとティアが一緒に見ている。
その隣でしゃがみこんで見ているテオが、可愛らしく、うわぁぁぁ……と声を漏らした。
そんなジュディの元に、かけてきたのは少し小太りの小さな悪魔科のおじさん刑事。
スリーピースがパンパンになり、ボタンが弾けそうになりながら、ドムドムと音を鳴らして全速力で走ってきているのだけは分かる。
通常の人が早歩きする程の速さしか無いのだが。
「ジュディちゃん」
「こんにちは、刑事さん」
「やぁ、こんにちは。ホットラインが来たって聞いて飛んできたんだけど、間に合わなかったねぇ」
ハフハフを呼吸をしているこの刑事、ジャスティン・レイガーは可愛らしい白のハンカチで額から流れる汗を拭いながらニコニコと笑って言った。
見た目も話し方もまったりなジャスティンは、33歳なのだが、外見は40を超えたような老け顔である。
だが、ふんわりした雰囲気や、まん丸い体型からか、可愛いおじさんというのがジャスティンの評価である。
「うわぁ、もう炭みたいだねぇ」
同じように覗き込んだジャスティンが、ナムナムと手を合わせてから、困ったように笑った。
「詳しい話は祓霊庁に行って聞くね。まずはこの場所をどうにかしないとねぇ」
そう言いながら、またドムドムと音を鳴らして走り、場の状態を確認している同僚の場所まで走って行く背中を見送った。
「……刑事、ですか?」
不思議そうにテオが見ながら聞くと、ジュディが頷く。
「そうよ、ああ見えて、とても優秀よ」
一般市民に声を掛け、精神的ショックや、接触痕、侵蝕痕が無いか確認がある。
もちろん街並みの確認、死者の対応に破損した箇所の確認や、その修復に関係する連絡など、悪魔科が行う仕事は多岐に渡り、常に忙しく動いているのだ。
「いつもジュディ先輩が対応してくれてたから、ちゃんと話した事ないです」
「そうだったわね、じゃあこれからは自分から対応できるように練習していくといいわ。嫌でもしなくてはいけなくなるんだから」
「うぅ……」
ポン、とティアの背中を叩きながら歩き出したジュディの後を小さく唸りながらついて行った。
「何処に行くんですか?」
「あのバカの回収とセラフィエルの保護、新人が紛れているから事務所に強制送還よ」
後ろを着いてくる二人に簡潔に話すジュディは、先に向かったジェイドの元へと走り出し、二人も慌てて着いていった。
破壊された街並みの中、沢山いた一般市民は混乱していたのだが、目の前で悪魔祓いの様子をみて大丈夫なんじゃないかと安心感を持ち始めていた。
それは、ジェイクとジュディの軽口だったり、テオの戸惑いながらも完璧に悪魔の攻撃を避け続ける姿に、はたまたティアの可愛さに脳が溶けているのか。
とにかく錯乱状態になることなく落ち着いてジャスティンの話を聞き、誘導や体調変化は無いかと確認していくのを静かに返答する姿をニコは横目で見ていた。
声を掛けても着いてこないニコにジャスティンは困惑していたが、隣にセラフィエルがいることに気付き、じゃあ、おねがいね……と任せて歩いて行った。
なにを頼まれたんだろう……とニコは首を傾げるが、その答えを導き出すことが出来なかった。
ニコは、遠くから近づいて来るジェイクを赤らめた顔で見つめる。
こちらに来るということは、見習い祓い師となるニコの存在に気付いていたのかと、気恥しい気持ちだった。
話しかけようと中腰になった時、走ってきたジュディがジェイクに話掛けて足を止める。
二人は何かを話した後頷きあい、真っ直ぐにニコを見た。その眼差しに期待しか浮かばないニコだったが、初日から遅刻する新人に、優しくするほど二人は甘くない。
ジェイクは面倒くさそうに息を吐き出しながらジュディの後をついて行った。
「貴方、ニコ・ディコルソンで合ってるかしら」
「はい」
ジュディの話に頷くニコの隣には、セラフィエルが座っている。
その腕はもう出血は止まっているが、分かりやすく爪痕が残っていた。
ジェイクの雰囲気がゆらりと変わったのに気付いたセラフィエルは、彷徨うように手を伸ばしてゆらゆらさせるが、それをニコが掴んでしまう。
「今大事な話をするから待っててください」
コソッと話してから、直ぐにジュディとジェイクを見ると、ジュディが不思議そうに首を傾げた。
「まずは事務所に帰ってから詳しく話を聞くわ。だから、セラの手を離して頂戴」
「あ、あの……目が見えないのですよね? だから……」
動揺しながら言うニコの斜め前にジェイクがしゃがんだ。
まだ掴んでいるニコの手をジェイクが睨んで見ていると、ジュディが腕を組んで口を開いた。
「同僚だから当然知っているわ」
ニコの動揺が顔に出ていた。
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