The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

文字の大きさ
50 / 69
第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録

3-8

しおりを挟む

 ニコは、つい最近まで悪魔科のサポートプログラムを受けていた。
 家族を悪魔によって失い、自らの体にも消えない侵蝕痕が残されたニコにとって、祓い師となって悪魔を根絶やしにするのが目標でいて一番の願い。
 大切な両親を、大好きな弟妹を守れなかった弱い自分自身を憂いてエクソシストではなく、規則に乗っ取った祓い師の道を選ぶ。

 根絶やしにしたい。 そのためには、死ぬわけにはいかない。

 心に燃やす炎を消さないように、日々、日常生活を取り戻す為にサポートを受けて、やっと第1歩を進んだのに。
 ニコは究極的な弱点である極度の方向音痴を出勤初日から発揮したのだった。

 だが、それがあったから、ニコは普段はありえないセンチネル2人の悪魔祓いを見ている。
 呆然と目を見開き、スカートを翻して体術と投擲を合わせた戦闘を繰り返すジュディと、余裕そうに祈りを込めながら弾丸を放つジェイクに、まるで惹かれるように見つめていた。

 さらに、そのサポートをするように動くティアをチラリと見る。
 このサポートは、実際に受けてみない事には凄さはわからない。
 祓い師のスタイルは様々あって、同じ後衛といえどもジェイクとはまるで違う。
 それぞれにあったスタイルを模索して現場に立ち、確立していく過程で1人前となるのだ。

 ニコには、どうしても華々しい前衛に目が行く。
 私も力の限り悪魔と戦いたいと、飛び蹴りをして悪魔を吹き飛ばし、スカートをふわりと翻すジュディを見た。
 そのすぐ横、かするほどの数ミリ単位をしっかりと見極めて発砲したジェイクの弾丸が、悪魔の額を撃ち抜いた。

 その姿を、ニコは顔を赤らめて見つめていた。





 ______





「終わったわね」

 炭のようにプスプスと音を鳴らして黒ずみ消えていく悪魔を、ジュディとティアが一緒に見ている。
 その隣でしゃがみこんで見ているテオが、可愛らしく、うわぁぁぁ……と声を漏らした。
 そんなジュディの元に、かけてきたのは少し小太りの小さな悪魔科のおじさん刑事。
 スリーピースがパンパンになり、ボタンが弾けそうになりながら、ドムドムと音を鳴らして全速力で走ってきているのだけは分かる。
 通常の人が早歩きする程の速さしか無いのだが。


「ジュディちゃん」

「こんにちは、刑事さん」

「やぁ、こんにちは。ホットラインが来たって聞いて飛んできたんだけど、間に合わなかったねぇ」

 ハフハフを呼吸をしているこの刑事、ジャスティン・レイガーは可愛らしい白のハンカチで額から流れる汗を拭いながらニコニコと笑って言った。
 見た目も話し方もまったりなジャスティンは、33歳なのだが、外見は40を超えたような老け顔である。
 だが、ふんわりした雰囲気や、まん丸い体型からか、可愛いおじさんというのがジャスティンの評価である。

「うわぁ、もう炭みたいだねぇ」

 同じように覗き込んだジャスティンが、ナムナムと手を合わせてから、困ったように笑った。

「詳しい話は祓霊庁に行って聞くね。まずはこの場所をどうにかしないとねぇ」

 そう言いながら、またドムドムと音を鳴らして走り、場の状態を確認している同僚の場所まで走って行く背中を見送った。

「……刑事、ですか?」

 不思議そうにテオが見ながら聞くと、ジュディが頷く。

「そうよ、ああ見えて、とても優秀よ」

 一般市民に声を掛け、精神的ショックや、接触痕、侵蝕痕が無いか確認がある。
 もちろん街並みの確認、死者の対応に破損した箇所の確認や、その修復に関係する連絡など、悪魔科が行う仕事は多岐に渡り、常に忙しく動いているのだ。

「いつもジュディ先輩が対応してくれてたから、ちゃんと話した事ないです」

「そうだったわね、じゃあこれからは自分から対応できるように練習していくといいわ。嫌でもしなくてはいけなくなるんだから」

 「うぅ……」

 ポン、とティアの背中を叩きながら歩き出したジュディの後を小さく唸りながらついて行った。
 
「何処に行くんですか?」

「あのバカの回収とセラフィエルの保護、新人が紛れているから事務所に強制送還よ」

 後ろを着いてくる二人に簡潔に話すジュディは、先に向かったジェイドの元へと走り出し、二人も慌てて着いていった。



 
 破壊された街並みの中、沢山いた一般市民は混乱していたのだが、目の前で悪魔祓いの様子をみて大丈夫なんじゃないかと安心感を持ち始めていた。
 それは、ジェイクとジュディの軽口だったり、テオの戸惑いながらも完璧に悪魔の攻撃を避け続ける姿に、はたまたティアの可愛さに脳が溶けているのか。
 とにかく錯乱状態になることなく落ち着いてジャスティンの話を聞き、誘導や体調変化は無いかと確認していくのを静かに返答する姿をニコは横目で見ていた。
 声を掛けても着いてこないニコにジャスティンは困惑していたが、隣にセラフィエルがいることに気付き、じゃあ、おねがいね……と任せて歩いて行った。
 なにを頼まれたんだろう……とニコは首を傾げるが、その答えを導き出すことが出来なかった。

 ニコは、遠くから近づいて来るジェイクを赤らめた顔で見つめる。
 こちらに来るということは、見習い祓い師となるニコの存在に気付いていたのかと、気恥しい気持ちだった。
 話しかけようと中腰になった時、走ってきたジュディがジェイクに話掛けて足を止める。
 二人は何かを話した後頷きあい、真っ直ぐにニコを見た。その眼差しに期待しか浮かばないニコだったが、初日から遅刻する新人に、優しくするほど二人は甘くない。
 
 ジェイクは面倒くさそうに息を吐き出しながらジュディの後をついて行った。

「貴方、ニコ・ディコルソンで合ってるかしら」

「はい」

 ジュディの話に頷くニコの隣には、セラフィエルが座っている。
 その腕はもう出血は止まっているが、分かりやすく爪痕が残っていた。
 ジェイクの雰囲気がゆらりと変わったのに気付いたセラフィエルは、彷徨うように手を伸ばしてゆらゆらさせるが、それをニコが掴んでしまう。

「今大事な話をするから待っててください」

 コソッと話してから、直ぐにジュディとジェイクを見ると、ジュディが不思議そうに首を傾げた。

「まずは事務所に帰ってから詳しく話を聞くわ。だから、セラの手を離して頂戴」

「あ、あの……目が見えないのですよね? だから……」

 動揺しながら言うニコの斜め前にジェイクがしゃがんだ。
 まだ掴んでいるニコの手をジェイクが睨んで見ていると、ジュディが腕を組んで口を開いた。

「同僚だから当然知っているわ」

 ニコの動揺が顔に出ていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす

河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。 悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

お腹いっぱい、召し上がれ

砂ねずみ
BL
 料理研究家でαの藤白蒼は幼なじみで10個下のΩ晃と番になった。そんな二人の間に産まれた照は元気いっぱいな男の子。泣いたり、笑ったり、家族の温かみを感じながら藤白家の日常が穏やかに進んでいく。    そんな愛する妻と愛する息子、大切な家族のお腹いっぱい喜ぶ顔が見たいから。蒼は今日も明日もその先も、キッチンに立って腕を振るう。  さあ、お腹いっぱい、召し上がれ。

【完結】異世界はなんでも美味しい!

鏑木 うりこ
BL
作者疲れてるのよシリーズ  異世界転生したリクトさんがなにやら色々な物をŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”(๑´ㅂ`๑)ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”ŧ‹”うめー!する話。  頭は良くない。  完結しました!ありがとうございますーーーーー!

処理中です...