The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録

3-7

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 最後の悪魔祓いだとわかっているティアだが、この瞬間はなにものにも変えられない幸福であると感じている。
 ジュディに頼られ褒められる。たとえこれが最後でも。
 いや、最後だからこそ、褒められる後輩でありたいと、いつもよりも声に力が入った。

 「全能の神よ、我に力を授け給え。
弱き我らに勇気を与え、敵の前に屈せぬ心をお与えください。
汝の聖なる炎にて、我らを燃やし、悪を討ち払いたまえ。アーメン。」

 ワント型の神具は、ヴァンガード級になった自分の為に購入したティア専用バフ特化型の神具である。
 元々バフ、デバフに高い適正があったティアは、完全支援型の後衛である。
 常に足元に聖陣が浮かび、その上に数センチ浮いている。
 静と動でいえば、完全なる静のティアと、機動力抜群のジュディの組み合わせは悪くなかった。

「まったく、今日から新人が入るというのに、タイミングが悪いわ」

 顔色の悪いニコをチラリと見る。
 まだ強くセラフィエルの手を握りしめ、出血までしているのを見てジュディが眉をひそめた。

「ニコ・ディコルソン! 今すぐ手を離しなさい! 出血してるわ!!」

「………………え」

 ジュディが声高らかに言いながら、壁に張り付く悪魔目掛けて神具を5本放つと、空気を切り裂くようなスピードで一直線に悪魔に向かっていった。
 結界を張った先にいる人間達をねめつけるように見ていた悪魔は、はっ! と反応して隣の建物へと身を翻す。
 猿によく似た人型で、太く黒い尻尾が臀部から出ていて、移動する時に建物を強く叩いている。
 そのせいで建物は陥没して、壁が崩れて落ちていた。
 吹き飛ばされた電気トラムの上に落下して、酷い音を立て、それをみた人たちが恐怖に慄く。
  瓦礫によって電気トラムは粉々に砕けたが、隙間から見える腕がピクピクと動き助けを呼んでいるのを見て悲鳴が上がった。
 今状況、普段目にするものではない。怖くて仕方がないもだろう。

「足癖が悪い、悪魔っ……ね!!」

 高くジャンプしたジュディ。その足元には、引きちぎった壁の瓦礫を豪速球で投げられていて、破裂するような音を周囲に響かせていた。
 ジュディがいた場所は、見事に陥没している。
 小さく何かと唱え祈るジュディの周りに現れたナイフは回転しながら悪魔に切っ先を向けていた。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 轟く怒声に、ニコは身体を震わせながらセラフィエルの腕を離すと、じっとりと向けられていた視線が外れ、ジェイクの発砲音が響いた。
 建物から乗り移り、その途中でジュディに投擲した悪魔は、ニヤリと笑って集合住宅のベランダに乗り込もうとした。
 その時発砲音が響き、狙うように放たれた弾丸が悪魔の着地場所を崩す。
 驚き、ぐあ……と声を上げた悪魔は地面に落下していった。

 無事に着地した悪魔は、まるで獣のように四つん這いで指先に力を込める。
 イライラしているのか、グルグルと喉を鳴らしている声が響き、聞きなれない人達の恐怖に震える声が聞こえる。
 悪魔はどこも損傷はしていないようで、忌々しいとジェイクを見ていた。
 大きく太い足が獣のように姿を変えて、鋭い爪がアスファルトを削る。

 ぽつりぽつりと雨足が落ちてきた。
 どんよりとしていた空は泣きだし、地面が少しづつ黒く色付いてくる。
 コンクリートに舗装されていない、土がむき出しの場所は、水が染み込みぐちゃっとしている。
 昨日降った雨が乾ききっていないので、更に足場を悪くした。

 雨の匂いと石炭の煙の匂いが混じって、酸っぱい匂いが強くなる。
 鼻につく香りにセラフィエルは思ず手で鼻を覆いながら、まっすぐ前を見据える。
 最初は駆け付けて祈ろうとしたのだが、ジェイクから強い視線を感じてこの場に留まることにしたのだ。
 セラフィエルの周りには人数が多く、単独で動くのはかえって足でまといになってしまいそうだ。
 祓い師として目が見えない弊害は、やはり多い。セラフィエルはどうしてもひとりで行動するのに制限がかかってしまう。

 かといって、特製祈祷煙草《サンクティタス》を吸い、祓魔リボルバー《ジャッジメント》片手に不敵に笑むジェイクがセラフィエルを手放す日は来ないのだが。

 ガウンガウンと銃弾が放たれ、ジュディの暗器が宙を舞う。
 地面に四つん這いに倒れている悪魔が三白眼を光らせて、ジェイドを見た。
 ダラダラと流れる涎がアスファルトの上で雨と混じり流れていく。
 まだまだ弱る様子を見せない悪魔の等級は思ったよりも高いのかもしれない、随分と打たれ強い。
 力よりも速さと数で勝負するジュディは長期戦になりやすく、それがわかってるから、いつもは後衛に居るジェイクが前衛に出て、好き勝手に発砲していた。
 
 雨足が強くなってきて、体が冷えてきた。
 抑えているような小さなくしゃみをセラフィエルがすると、それを目ざとく聞いたジェイクは、空になった弾丸に祈りを捧げながら装填する。
 昨日洗礼を受けたばかりだから、体が冷えやすいセラフィエルを心配してジェイクの表情が変わった。

「ヤルぞ」

「物騒な言い方ね」

「あのぉ、先輩方?俺は何したら?」

「出勤初日なんだから見学なさい!」

「盗める場所は盗め」

 様々な祈りを縦横無尽に動きながらブレる事なく唱えるジュディと、避ける悪魔の着地点を計算しているのか、寸分の狂いなく撃ち抜き悪魔を追い込むジェイク。
 そして、必要な時に必要な分だけ適切に援護し祈りを増幅するティアを見ていて、から笑いを漏らした。

「そんな動きする人は、第五支部にいませんって……どう盗むって……うおっ」

 透き通るような声で、はは……と笑いながら独り言を言うテオのすぐ側に、逃げて来た悪魔が着地した。
 思わず低い声を上げたテオは後ろに飛び退く。 長い腕を活かして建物の鉄柱を掴み、くるりと場所を離れた。

「こっちの悪魔随分活発じゃないですか?」

「そう? こんなものよ」

「街中で騒ぐなら、静かな方だろう」

 既に70本は軽く投げ、祈りを高速で唱えているだろうジュディは、壁に足を掛けてジャンプする。
 体が斜めになりながら、危機一髪で悪魔を避けたジュディ。
 祓い師のローブが捲れ、膝丈のフリルたっぷりのスカートもめくれた。

「おい、中見えるぞ」

「ドロワーズ履いているわ」

「そうじゃないだろう」

 戦闘が始まってから止まる事なく動き続けているジュディは、今も息が切れていない。
 無尽蔵な体力を持っているジュディはまだまだ余裕そうだ。
 片足を上げて蹴り飛ばしたジュディの力に吹き飛ばされた悪魔は、セラフィエル達が居る方に飛ばされた。
 ぎゃあ! と叫ぶ声を聴きながら、片足を上げたままのジュディがぽつりとつぶやく。
 
「……しまったわ。吹き飛ばす場所を間違えた」

「おい」

 そんな声を聴きながら小さく笑ったセラフィエルの口が開く。
 光導杖ルクス・カデュケウスの小鈴が高く音を鳴らして警告しているのを聞きながら、地面にドンと音を鳴らして打ち付ける。

「主よ、どうぞ我らを守り給え。光の盾よ、我らを覆い彼の外敵から身を守り給え。
いかなる闇も、この身に届かせることなかれ。」

 一時的に張ったジュディの結界ではない。ブワンと音とを鳴らして大きくドーム状に展開された結界が、悪魔をはじくように軽く吹き飛ばした。
 それを見て、ジェイクが小さく口の端を上げる。

 それとは対照的にしまった……とピタリと止まって言ったジュディだったが、セラフィエルがいることで何の問題もなかったと息を吐き出す。
 ゆっくりと足を下したジュディの頭をジェイクが軽く叩いた。
 
「馬鹿力め」

「失礼ね」

 そう言いながら装填したジェイク。小さな祈りが口の中で紡がれる。
 足元にはバラバラと薬莢が落ち、足で払ったあと、指先でガンベルトを触る。
 思ったよりも使用していたようで、残りの弾数が少なくなっていた。

「………………」

「ジェイク? どうしたのよ」

 見上げたジュディが体制を整える為に深呼吸をすると、ジェイクは黙ったままガンベルトを撫でた。

「……まさか、もう弾数が無いとか言わないわよね?」

「残り30発だな」

「馬鹿じゃないかしら!! どうして加減をしないのよ!!」

「セラが居ないのが悪い」

「なにを子供のようなことを言っているのよ!!」

 耳の良いセラフィエルはそれをしっかりと聞いて、俯きフルフルと体を震わせた。
 ジェイク……本当に馬鹿ですか……と呟いたのを、少し落ち着いたニコが不思議そうに見ていた。
 

 
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