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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録
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しおりを挟むどうやらこの悪魔は物理型の悪魔らしい。
直接攻撃を躊躇なくしてくるのは錯乱気味だからか、元からか。
「悪魔さん、あなた……聞こえていますか?」
ブオンと空気を裂くような強烈な音を響かせている。
声をかけても反応がない。休日だということもあり、セラフィエルはもとより交渉をするつもりはないのだが、こうも意思疎通が出来ないと面倒でもある。
「レッサーデーモンほどの力はありそうなんですが……それで錯乱ということは」
うーん、と悩むまったりとした様子に、市民は焦りだす。
相変わらず攻撃が来ていて、建物や地面を割り吹き飛ばしたりと好き放題しているのだ。
そのたびに悲鳴が上がり、セラフィエルに声をかける。
「なぁ! 何してんだ! 早く倒してくれ!」
「申し訳ございません。休日……正確には、相方がいない状態での悪魔祓いは原則禁止となっております。防御に関しては問題ありませんので、もうしばらくお待ちくださいね」
ふんわりと返事をしながらも、悪魔からの攻撃を完全に防いでいるセラフィエルに、ニコは小さく服を引っ張る。
「でも! 倒したほうがいいんじゃないですか」
ニコが必死に聞くのは、以前に悪魔に襲われた記憶があるから。
恐怖は自分だけじゃなくて、ほかの人たちが死ぬかもしれないという不安も強い。
だが、そんなニコに、セラフィエルが言った。
「無理なのですよ。規約もですが、見えない僕が今攻撃をしたら、ここら辺一体壊してしまいます」
「……え」
目をこれでもかと見開いてかすれた声を出すニコに、笑顔を見せた。
ジェイクのガイドがなく遠距離で攻撃すれば、被害も甚大だろう。そんなことすれば、謹慎などでは済まされない。
そう思っていたセラフィエルだが、ピクリと反応して前を見る。前方に馬車を持ち上げた悪魔こちら目掛けて投げ飛ばし咆哮を上げた。
何かに苦しんでいる様子は相変わらずで、その様子に眉を顰める。
「もしかして、二段回ほど跳ね上がりました? でも、そんなに強く感じないのですが」
光導杖を向けて跳ね返しながら疑問を口にする。
この暴れようは急激に上がりすぎた力に振り回されているのだろうかと。
実際のところ、現物を見るジェイクの目も考えもないので、正確なところはわからなかった。
「これはいつまで続くのでしょうか」
現在防戦一方のセラフィエルは悩む。
基本的に前衛で戦うセラフィエルは、タイミングは難しいが、防御が苦手なわけではない。
ただ、いつ祓い師が来るか分からない現状でむやみに強い祈りを連発出来ないのだ。媒体を使用できないセラフィエルには、結界の維持は相当な負担がかかる。
体調は万全とは言え、今いるのはセラフィエルただ一人。援護が来るまでここを守り抜かなくてはならない。
セラフィエルにも多少の不安はあるが、それを顔に出して混乱するのはこの場にいる市民だろう。
なら、セラフィエルは、笑顔を浮かべ続けていればいい。
パラパラと落ちる色とりどりのガラスの破片に悲鳴が上がる。
目の前に迫る馬車の騒音を切るような風にセラフィエルは腕を振り上げた。
全員の状態を考えて、一度結界を張った方がいいかと口を開こうとした時、耳になじむ足音が小さく聞え、安堵の息を漏らしながらゆっくりと腕を下げた。
死にたくない!!と混乱した声が上がった時、耳馴染みの良い声が恐怖に染まる広場に響いた。
「天に召します我らが主よ、盾となる刃を我らに与え給え。
舞い巡りて守り、迫り来る闇を弾き払え。」
早口で唱えられた祈りは、ジュディの口からもたらされた。
壁に沿って座りこみ震える市民たち。この前に立ち守っていたセラフィエルの前にジュディが複数の小型ナイフを飛ばした。
眼前に迫っていた馬車は、セラフィエルたちにぶつかる前にナイフが結界の役割を担い、展開した。
キラキラと光る小型ナイフが線のように繋がり、一気に半透明の壁が出来あがっていて、死ぬと思った市民たちは、恐る恐る顔を上げて確認する。
間一髪で結界にぶつかり騒音と共に破壊された馬車が地面にドシャリと落ちたのを、無言で見つめていた。
「…………は、生きて、る」
震えた男性の声がセラフィエル耳に届いた。安心したのもつかの間で、隣にいたニコが無意識なのだろうか、セラフィエルの腕をつかんだ。
何かに葛藤しているのか、悔しそうに顔を歪ませていて、掴む指先に力が籠る。
「……っ」
腕の肉に食い込む指先は爪を立てて、クッキリと爪痕を残していた。
セラフィエルの手伝いをしようとしていたのに、何も出来なくてニコは無意識に力を込めていたようだ。
それを遠くで見ているジェイクの表情はどんどん険しくなり、ジュディは少し我慢しなさいよ……と声を掛ける。
ここからでは、詳しく見えないが、セラフィエルが怪我をしている可能性があるとジェイクは舌打ち一つして特製祈祷煙草《サンクティタス》を咥えた。
ティアはヒェ……と声を漏らし、テオは綺麗な顔を傾ける。
「ジェイクがイラついているから早く終わらせるわ。ティア、行くわよ」
「! はい!!」
バディ解消とともに、もう同じ現場には行かないと思っていたティアはパァと表情を輝かせた。
それを見て、テオが、俺の時と反応が違う……と声を漏らす。
走る出したジュディは、その話し方からは想像できないほど俊敏に動いていた。
体の至る所に隠された暗器がジュディの神具で、その数は誰も知らない。
どんなに長く悪魔祓いが続いたとしても、暗器の数が足りなくなる事はない。 その仕組みは誰も知らないのだ。
走り出したジュディに合わせて、ティアは祈った。
セラフィエルとはまた違う穏やかな声が広場に響き、風に乗ってジェイクと同じ黒いローブがはためく。
長い髪が霧の中で舞ってキラキラと輝いていた。
「主の御名により、この地を清め、闇を退けん。
我らは神の僕(しもべ)、正義の剣なり。
いま、ここに祓いを始める。」
場が広く、範囲結界も施されていないこの場所は、すでに一度セラフィエルによって浄化の祈りで清められている。
だが、血が流れ既に穢れているため、すぐに汚染されていまう。少しでも祓い師の動きやすい環境作りには重ねがけも有効なのだ。
地面から湧き上がる青白い光を受けてジュディは笑った。
「いいわよ、ティア。そのまま攻撃力を上げて頂戴」
「はい!!」
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