The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録

閑話 修正請願

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 雨足が完全に上がった午後。
 全員着替え終わった後に、事務所に集まった今回の緊急出動メンバー。
 その場には、セラフィエルとニコもいる。
 セラフィエルは椅子に座り、その机に腰掛けるジェイクは煙草を吸っていて、セラフィエルに怒られていた。

「ジェイク、机に座らないで下さい。煙草も吸ってはいけません」

「いいだろ」

「いけません」

 ダメだしをされて、ジェイクは少し考える。
 そして、近ずき頬に触れた。

「……じゃあ、お前」

「喫煙室に行きなさい」

 至近距離にあるジェイクの頭に強烈な頭突きをしたセラフィエルは額を赤く染めた。
 相当な衝撃だったのか机から崩れ落ち、頭を抑えてしゃがみ込むジェイクをジュディが呆れたように見ている。

「煙草くらい我慢しなさい」

「出来たら苦労しねぇ」

「まったく」

 ジュディは呆れながらコーヒーを飲んだ。
 そんな様子を、戸惑いながら見ているニコ。
 声を掛けてもいいのか所在なさげにしてるのに気付いたティアはそっとジュディの袖口を掴んだ。

「あの、ジュディ先輩……」

 目配せしてニコの困惑を伝えると、えぇ……そうね……とジュディが答えた。
 全員が座って居るのを見てから、話し出す。

「色々話さないといけないのだけど、まず先に確認させて頂戴。貴方は祓い師希望でいいのよね?」

「はい」

 ジュディの言葉に、迷いなく答えたニコは頷く。 願っていた就職先なのだ。もちろんYESしかない。
 その強い意志を感じたのか、ジュディは頷き力を抜いた。

「じゃ、まずは挨拶をするわ。私はジュディ・オルセン。貴方のバディとなるセンチネル級の祓い師よ。階級とか細かなことは後々教えていくわ。今ここにいるのは、同じく今日から配属になるテオ・アンダーソンと、そのバディとなるティア・ワトソン。今後知識を蓄えるための教育の時に顔を合わせるから、覚えているといいわ」

 暖かなコーヒーに息を吹きかけて言うジュディに、ニコは動揺した。
 年齢を重要視しないこの祓い師という制度を分かっているつもりではあったが、実際に年若い少女に教えられる違和感は拭いきれない。

 そしてチラリとジェイクを見た。
 この場に居る人の中で紹介されていない唯一の人は、自分の机の引き出しを開けて弾丸の数を確認をしていた。
 数がかなり少なくなっていて、思わず舌打ちするジェイクは、軽く頭をかいて上を見上げた。

「……彼が気になるのかしら」

「あ……」

「彼はジェイク・アッシュフォードよ。たまたま今日は時間があったから新人教育の手伝いを頼んでいたの」

 知りたかった情報を知って少しだけ嬉しそうに頬を染めるニコの心拍が早まる。
 すこし落ち着かない様子になったニコに気付かないセラフィエルではない。
 注意深く様子を伺っていると、直ぐにニコは確認をした。

「あの……私のバディって変更とか……」

「無理よ。その時手の空いている祓い師の中から相性を考えて上層部から決定通知がくるの。勝手に私達が変えていいものではないわ。何よりジェイクはセラのバディよ」

 被せるように答えたジュディに言葉を失った。
 あの弾丸を打つ姿を一番近くで見たいと、ニコは思ってしまったのだ。
 だが、まさかセラフィエルがバディだと思わなかったのか、目を見開いて呆然としていた。

「……ジェイクが良かったのかしら」

「い、いえ! あの……」

 目をさ迷わせて返答に困っているニコだが、チラリとジェイクを見るのは止められない様だ。
 あの圧倒的なまでの攻撃スタイルを見たニコは、まさしく理想と言ってもいいだろう。
 だからこそなのだが、この後の会話はニコには衝撃的だった。

「事前にやってもらったテストで貴方は後衛に適正があるみたいだから、どちらにしてもジェイクとバディを組むのは無理よ。ジェイクは基本的に後衛だもの」

 ___後衛?!

 その衝撃はテオにも多大な衝撃を与えた。

「嘘でしょ?! あれだけ立ち回りをしていてどうして後衛?!」

「セラが前衛だからだが」

「………………いや、え?」

 ジェイドの返事によく分からないと首を傾げるテオの綺麗さに、ニコも混乱した。
 もう、何に驚けばいいのか分からない忙しさだ。

「ジェイクは器用なのよ。前衛も後衛もどちらにも適性があるのよね」

「そんなん、ありなんですか」

「あるのよ。バディに固執しているバカだけど、腕は一流だから。固有能力がどちらも対応しているのがいい例ね」

「……信じ……られない」

「規格外なのよ。こんなのと比べたらダメよ、自信が無くなってしまうわ」

 あっさり話すジュディの認識は第七支部では常識で、むしろセラフィエル至上主義と化したジェイク含め二人は無くてはならない存在になっている。
 それが理解できていない二人は、酷く困惑した。  特に見習として現場に出ているテオの衝撃は計り知れない。

「自分のバディについて分かったかしら」

「分かりました」

 困惑しながらも答えたニコに、ジュディは穏やかに笑った。

「じゃあ、まずは祓い師になる意思を確認出来たから、修正請願をして、先に祓い師となってもらおうかしら」

 ジュディがそう言って立ち上がりニコに言うと、聞き馴染みのない言葉に不思議そうに首を傾げた。
 もちろんそれを知らないのはニコだけなので、真剣に聞いているのは彼女だけだ。
 

「修正、請願……ってなんですか?」

「簡単に言ったら、神に誓う儀式よ。私たち祓い師は、神に祈りを捧げ、そのお力を借入れて悪魔祓いをするわ。その為に、前もってこういった理由で悪魔払いを試行致します。ですのでどうか、お力をお貸しくださいって誓いを立てるの」

 カラカラ……と音を立ててホワイトボードを持ってくる。
 そこには、分かりやすく祓い師が祈り、その頭上には神様が力を降り注ぐコミカルなイラストが書かれて居た。
 それに丸を付けて、その前に修正請願と書く。

「これをしないと祓い師にはなれないわ」

「この修正請願をしたら祓い師に……」

「これは、見習いのための修正請願よ。階級が上がる度にこれを何度もやり直すの。悪魔祓いを続けていくとね、当初の思いが少なからず変わっていくわ。そうすると、神様は願う内容が違うと気付いてお力を貸してくださらなくなるの」

「……え」

「だから、少なくとも階級が上がる試験の前には修正請願で新しい誓いを立てるのよ」

「階級……」

 それはまた後で教えるわ。
 そう言ったジュディに導かれるままに、ニコは祈りの間に向かって行った。
 
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