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第三章:中央銀行前・悪魔遭遇事件録
閑話 心配と神の信者
しおりを挟むジュディに連れられてニコが祈りの間に行ったあと、時間もかかるからとティアもテオの指導に向かった。
事務室の端に値するこの場所は、覗き込まない限り誰にも見られる事はない。
二人きりになった時、ジェイクは椅子に座ったセラフィエルを足で挟むように机に腰掛けて、少し下にある相棒の顔をじっと見てから、静かに指先で頬を撫でた。
少しくすぐったい指先に目を細めると、頬を包むように両手でモチッと持たれる。
「……ジェイク?」
「悪かった」
「何がですか?」
「あの時動かないように指示した。側にいなかったから、動いて欲しくなかったんだ」
フニフニと頬を撫でるジェイクの声色は、思っていたよりも弱々しかった。
あの選択を、セラフィエルがどう捉えたのか不安だった。
人数がいる中で、感覚が鋭く周辺把握能力に長けているとはいっても、ジェイクがすぐに駆け付けられる場所じゃないセラフィエルに無理をしてほしくない。それならその場にいて防御に徹して欲しかったのだ。
だが、セラフィエルの好戦的な性格も理解している。ジェイクが戦っているのに、一人離れたところで待たされて嫌に思わないか。
「お前を軽んじていた訳じゃない」
「分かっていますよ。あの場を安易に動いたら足手まといになることくらい理解しています」
至近距離にあるジェイドの頭に今度は優しく擦り付く。
すると、隙間ないくらいにギュッと抱きしめたジェイクは痛いくらいに力を込めた。
「……クソ、お前が現場にいるって聞いて肝が冷えた」
「心配してくれたのですが?」
「当たり前だろ」
はぁ……と、肩に頭を乗せたジェイクは、セラフィエルの柔らかい首筋に唇で触れる。
敏感に感じるセラフィエルが分からない筈もなく、ピクリ……と反応した。
「ジェイク」
「なんだ」
「来てくれてありがとうございます」
「当たり前だろう」
深く息を吐き出したジェイクは、弱い存在ではないとわかっていても、心配はしてしまうと力無く項垂れた。
そんなジェイクの背中を優しく撫でながら口を開く。
「僕はジェイクが来てくださるかなって思っていましたから、嬉しかったですよ」
「……ばーか」
照れ隠しに悪態をつくジェイクに小さく笑った。
顔を上げたジェイクが、そっと唇を寄せてくる。
柔らかな感触が唇に重なり、肩が跳ねた。
「ん、……じぇい、く?」
見えないセラフィエルには、唐突のキスだ。
目を丸くしてジェイクの頬を手探りで探して触れると、その手を握られる。
「調べるから、口開けて」
「昨日洗礼を……」
「うるさい」
後頭部を掴まえられて、引き寄せられる。コロコロ……と椅子のキャスターが動きジェイクにさらに近付くと、強く唇を重ねられた。
唇を舐めて耳をくすぐるように撫でる。
ゾクッと体が震えてジェイクの服を握ると、腰に腕が回って優しく撫でた。
ぬるりと口内をうごめく舌から逃げようとすると、少し余裕が出て来たのか、ジェイクが小さく笑う。
簡単に絡めとられて、小さく放たれた巡祈契の言葉ですら、ジェイクに溺れて聞き取れなかった。
「ん、……は、ぁ……ジェイク、急すぎます」
「心配してんの」
「……はい、ありがとうございます」
顔を赤らめてつかんだジェイクの服をクシャっとしながら答えた。
体内の確認をしたとわかっている。でも、その行為はキスであることに変わらなくて、お互いが大事なバディだからこそ、唐突に恥ずかしさに襲われる。
そんなセラフィエルを微笑んで見ているジェイクは、優しく髪を撫でてから、またセラフィエルを引き寄せた。
「ん、じぇい……く、もう、確認はしました、よね」
何度も角度を変えて覆いかぶせてくるジェイクの口に指先を当てた。
もう十分な行為なのに、しつこく唇を寄せてくる。
「まだ」
「もう終わって、ちょ……だめです、跡つけないでください」
唇から頬、顎に喉と下がってきて、首筋にあたる湿った感触。それは熱く、一瞬強い痛みを呼んだ。
「……よし」
「よしじゃありません」
2人だけの空間。
少し歩けば騒がしい同僚たちが忙しなく動く事務所内で、この場所だけが隔離された2人だけの世界になっていた。
周囲の騒がしい人達がいたら、ジェイクも騒がしく応答する。 だが、落ち着きのあるセラフィエルと二人きりの時は、酷く静かな時間が訪れる時があるのだ。
それは心穏やかで満たされる二人の空間が出来ていて、静かに深く呼吸する。
殺伐とした日常から切り離されたような、そんなふくよかな時間が流れていた。
ゆっくりと離れたジェイクは穏やかに笑っていて、優しくセラフィエルの手を握る。
「……はぁ」
「安心しました?」
「そうだな」
「それは良かったです」
自分が襲われたと言うのに、まったくいつもと変わらないセラフィエルに苦笑する。 伊達に場数を踏んでいないのだ。
そんな二人のまったりとした時間は唐突に終わった。
呆然としているような不思議な顔をしているニコは、フラフラと事務所に入ってきて、そのままセラフィエルたちがいる場所に戻ってきた。
至近距離にいる二人を気にする余裕が無いほどに洗礼に衝撃を受けたニコは、ドサ……と椅子に座って、呆然と足元を見ている。
「……大丈夫か?」
ジェイクが思わず聞くと、ゆっくりとニコは顔を上げた。
泣きそうな顔でジェイクを見たかと思うと、感極まったようにくしゃりと顔を歪ませて立ち上がる。
ジェイクはガタンと音を立てて机から立ち上がるが、駆け寄ってくるニコへの対応に遅れ、物凄い速さで近付いてくる新人に絡め取られた。
「ジェイクさん! あれは……あれは素晴らしいです!」
ぐっ……と手を掴まれて、至近距離で話しだしたニコの勢いが凄い。
あの茫然自失はどうしたのか、ジェイクが引くほどの勢いで詰め寄ってくるニコにジュディもため息を吐く。
稀にいるのだ。 洗礼の衝撃が強すぎて神に傾倒する祓い師が。
ニコもこのタイプだったようで、ジェイクは酷く面倒くさそうにしていた。
自我が強く自己肯定感が強いほど、この症状が出やすい。
そして、分かりやすく他者にこの素晴らしさを説くのだ。
「こんな素晴らしいことはありません!神は偉大です!! 悪魔を滅せよと私たちに教え導いてくださいます!! ジェイクさん、あなたも神の素晴らしさを……」
「やめろ! 離れろ!!」
グイグイと来て掴む手を振り払い、胸が触れ合う程至近距離にいるニコの肩を押し返した。
押し返されたニコは、すぐ近くにいるセラフィエルを見て手を伸ばす。
同じ目に合いそうだと瞬時に理解したジェイクがセラフィエルを引き寄せて、庇うように抱き締めた。
わ……? と現状を理解していないセラフィエルは、ジェイクの固い胸板に強かに顔をうちつける。
「めんどくせぇな! 神の信者は!!」
「バチ当りです! そうだ! 私と一緒にバディを組みましょう!! 神の素晴らしさを説いて差しあげますから!!」
「差しあげんで結構!! ジュディ! お前の相棒だろう! 今すぐ回収しろ」
「いやよ」
「嫌だと?!」
先程の静けさが嘘のように騒がしい。
ジェイクを気に入ったのか、ニコはジェイクばかりに話しかける。
話しかければかける程にジェイクは警戒してセラフィエルを抱きしめる腕に力を込めた。
ギュッと抱きしめられているセラフィエルはジェイクの服を握り締めてボーッとしていた。
いつまで続くのでしょうか……とぼんやり考えて、もぞりと顔を上げる。
「…………もう、帰ってもいいでしょうか」
「だめだ!」
「……だめですか」
まぁ、予想してましたけど……と、力を抜いて、ジェイクの胸に頭を寄せた。
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