The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第四章: 新人教育

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 新しく入った新人、ニコ・ディコルソンと、テオ・アンダーソン。
 テオについては既に現場に出ているので全ての講習に出る訳では無いのだが、ニコは一から祓い師とはを学ばなくてはならない。
 洗礼を受けたことで、以前よりも意欲を示している様子に指導役のジュディが酷く面倒そうだ。

 ニコは洗礼を境に神への強い傾倒が見られ今後の教育に時間がかかるかもしれないとジュディはセラフィエルに愚痴っていた。
 さらに、緊急で新人教育をあと二人受け入れをすることになり、ジェイクは深い息を吐き出している。

 こういった時、センチネルは交代で新人教育も任される。
 高い知識を持つセンチネルから学ぶことで、間違った知識を植え付けないようにするためだ。
 これにより統一された知識を祓い師達は植え付けられる。

 今回は、近い支部に新人教育を施す人材が三人いるので、今回はまとめて教育することが決まった。
 センチネルの人数が多いこの第七支部で実施が決まり、ニコという信者がいることで疲れを倍増するのにとジュディも少しおつかれ気味だ。



 珍しく晴れ渡る空を、出勤中のセラフィエルが見上げる。
 黒しか映らない濁った琥珀色の瞳にはもちろん映らず、弱視だったセラフィエルの幼少期にもその記憶はない。

 ただ、空気感が違うのだ。

 霧や雨が洗い流していた煤や埃が乾く。 綺麗になったとはいえ、場所によっては道端の馬糞やゴミの匂いが逆に強く漂う場所もある。
 あまり晴れないロンドンの空は、本日の始まりを照らしたしていた。

 

 新人教育の準備にと、ジェイクは出勤時間を一時間早めていた。
 その分退勤時間が一時間早いのだが、朝の一時間は貴重なのだ。
 この準備にはジェイクやジュディと同じセンチネル級のアルベルト・ヴァレンティンも参加している。
 もう二人センチネルがいるが、一人は休みである。

 このアルベルトはセンチネルとしての経歴が長い。 現在37歳のアルベルトは、事務所にいる時でさえ白の祓い師のコートを欠かさず着る程に仕事にプライドをもっている。
 常に最新の情報を取り入れ、現場での悪魔祓いに遅れを取らないようにとアンテナを張り巡らせているアルベルトは、その外見もぴっちりとしていた。
 ふわふわの強いくせっ毛はポマードで撫でつけられている。頭皮にピッタリと張り付いているのではないかと言うくらいに固められ、風に髪が靡くことは無い。
 ふわふわの何がいけないのか誰も分からないが、本人なりのこだわりなんだとか。

 そんなアルベルトは、新人達に配るプリントを準備していてジェイクに突っかかっていた。

「だから、ずれていると言っているだろうが」

「これくらいズレたうちにはいらん」

「貴様の目は節穴か」
 
「あ?」

「やめなさい朝から!  まったく……」

 37歳と29歳男の小さな争いに、少女が仲裁するこの状況にジュディは頭を抱える。
 これから新人が来るのに、こんな些細なことで騒がないでちょうだいと、注意するジュディに、二人はグゥ……と唸った。
 そんな三人が居る祓い師の事務所の扉が開いた。
 中途半端な時間に扉が開き、三人が振り向くと、大柄な男性が佇みキョロキョロとしていた。
 見た事のない人だから、他支部の新人だろう事は予想できる。
 アルベルトはその男性の元に行き、声をかけた。

「他部署の新人か?随分早くついたな」

「あー……はい。遅刻するなって送り出されたんですけど、ここ、あってる?」

「…………………………あぁ」

 敬語とタメ口が混ざった話し方をする男性にアルベルトは眉間にシワを寄せて、かなりの時間を要した後に返事を返した。
 色々言いたい事があったのだが、まだ準備は終わっていない。
 説教したいのを我慢してそこに座っていろ!と声を大にして指示したアルベルトに不思議そうに首を傾げながらも頷き素直に座った男性を見て、アルベルトは深くため息を吐き出した。

 それから5分くらい経過してからだろうか、また扉が開いた。
 そこには見慣れたセラフィエルとティアがいて、扉を開けているセラフィエルに頭を下げながらティアが入室する。
 
 たまたま祓霊庁はつれいちょう前で会ったので一緒に来たのだが、どちらも早く来ている相棒の為に早く出勤してきたのだった。
 とは言っても、ティアの相棒は既に変わっていてジュディでは無いのだが。
 早く来たことに何か言われないかな……とビクビクしているティアと違い、マイペースに自分の席に白杖をつきながら歩いていくセラフィエルを、椅子に座っている男は不思議そうに見ていた。

「セラ、随分早く来たな」

「貴方が早いですからね。少しだけ早く来ました」

 少しとは言っても、始業時間よりだいぶ早い時間帯である。
 そんな時間にも関わらず、セラフィエルはいつもと同じ穏やかな笑みを浮かべて笑っていた。
 すぐ隣まで来たジェイクが優しく腕を取った時、にこやかに笑ってジェイクを見上げる。
 この穏やかさが現場仕事の時に掻き消えるんだよな……と思わず苦笑した。
 
 カツカツと白杖で確認をしてはいるが、毎日通い歩いているこの事務所内、白杖なしでも問題無く移動は出来る。
 ただ、中にはそのまま鞄や荷物を置いたままにしている人がいるため、確認をしなければ転んでしまうのだ。実際それで転んでしまったことがある。
 カンカンと音を鳴らして危険物を確認していたセラフィエルに、ジェイクは訝しげな表情を浮かべて見ていた。

 ――――――セラが、あの男に気付いていない?

 ほんの少しの空気の揺れでも異変を感じ取る程に周囲の空気感を読むセラフィエルが、全く反応していない。
 チラリと男を見ると、ギシ……と音と立てて立ち上がり、足音を鳴らしてセラフィエルに近ずいてきた。
 それにやっと気付いたのか、セラフィエルは肩を揺らしながら振り返り、得体の知れない相手に緊張が解けない。
 重量感のある足音はジェイクよりも大きいのだろう。 セラフィエルは緊張気味に顔があるであろう場所をじっと睨みつけるように見つめた。

 外見など全く分からない目の前の相手は何も言わず、困惑していたセラフィエルが声をかけようと口を開いた時、相手が動いた。
 
 
「ここ、目の悪い人が居たら危ないよ」 
 
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