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第四章: 新人教育
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しおりを挟む別室での新人教育は可能だが、アルベルトがあえて事務所内での教育を推奨した。
教育だけでなく、実際に働いている祓い師を見なくては分からないことも多々あるためだ。
実際に、新人三人は朝から忙しなく動く祓い師達をチラチラと見ていた。
大量の書類を持って動いていたり、データベースを整理する事務員。
連日泊まりがけで仕事をしていたヴィクターとニールが疲れを引き摺って事務所に戻り、そのまま祈祷室へと向かっていった。
新しい事件の内容の読み込みや、地図で場所を調べたりしている祓い師もいるし、かと思えば、待機組は未読の事件報告書をコーヒー片手に見ていたりと自由に動いている。
中にはまだ見習いでバディに教えを乞うている人もいた。
窓際の席で、ブラックコーヒーを飲むフリーの祓い師が、前回のトレイニーの資料を見ている。
背もたれに体重を乗せて、軽く足を組むその人も東洋人だった。
フリーの祓い師である新と偶然にも同郷の彼は月島 凌雅。
茶髪にピアス、首元のボタンを外した白シャツに、茶色のスラックスを履いている。
机に肘をついて、頬杖をつきながら資料二枚目をめくると、特記事項で循祈契の文字。
そして、ジェイクの隣で椅子に座っているセラフィエルをチラリと見た。
──
「じゃあ、始めるわよ」 .
ジュディが巨大なホワイトボードの片隅に立って言った。
その逆隣には、高身長のアルベルトがいる。
小さなジュディがさらに小さく見えてしまい、リアムが思わず笑うと、鋭い睨みが飛んできた。
そんなジュディの少し後ろには月島凌雅もいる。
「まず、祓い師とはなんたるか……は、理解しているだろうけど、そこから噛み砕いて話していくわ」
頭が痛い……と先程呟いていた人物とは別人のように三人に向き直るジュディをセラフィエルは笑み崩れて声に耳を傾けている。
相変わらずジュディが好きなセラフィエルは軽く体を揺らすご機嫌ぶりである。
それを眺めるジェイクも機嫌よく煙草を出した瞬間、セラフィエルに腕を掴まれた。
「事務所で何をしようとしているのですか」
「…………バレたか」
「バレないとでも?」
まったく、とため息を吐き出しながら止めたセラフィエルの肩に寄りかかり、目を瞑ったジェイクに呆れた吐息を出してから、セラフィエルは前を向いた。
本来ならセンチネルだけが教育に着く。
通常はひとりにひとり教育係が着くのだが、今回は集団の為、センチネルが代わる代わる教えることになる。
それに伴いサポートとして、フリーのヴァンガードである月島凌雅も参加する事となった。
総勢センチネル五名と、ヴァンガード一名体制だ。
これに、ジェイクが対応になった時に限り、セラフィエルも同行する事となった。
同じく本日は休みのアルベルトと、もう一人のセンチネルであるフェリックス・マーカスのバディも、必要時は補助として万全の体制をとっている。
なぜなら。
「もー、実地でガッ! とやっちゃだめなんすかー?」
「ジェイクさん、ここは先に神に祈りを捧げてから……」
「…………あ、腹減った」
揃いも揃って問題児ばかりなのだ。
最初に詰め込まなくてはならない知識を頭に入れなくてはならないのに、それすらままならない。
凌雅は困ったなぁ……と苦笑しているが、ジュディとアルベルトの怒りはどんどんと強くなる。
「聞け! お前たち!! 死にたいのか!!」
「そんな大袈裟なぁ、パッと倒せるんじゃないの~? だって、みんな無事じゃないっすか」
疲れきった状態で書類を作成するニールをチラリとリアム見た。
そのバッチはリアムよりも上だが、同じApprentice。
だがニールは多少の技術不足と現場経験地が足りないが昇進試験を受けることが出来るほどの知識量を要している。 一緒にされては困るのだ。
その視線を感じとった祓い師たちの眼差しが強くなる。
ガタリと音をならし、座っていた椅子からアルベルトが立ち上がりかけたその時だった。
リアムの肩に誰かの腕が回る。 しなやかな白い肌は、少し見慣れない。
「知識はいらねぇの? なら、どんな階級のどんな特性の悪魔が来ても、祈りなしでどうとでも出来るって訳だ? そりゃすげぇなぁ。 俺ら祓い師いらねぇんじゃん? なぁ?…………んじゃあさ、最初は何すんだ? どうやって悪魔を識別する? どうやって対抗するんだ? 人に憑いてる時は? 死者が出そうな時は? 自分が危険に陥った時は?広範囲に災害が起きてたら? 誰とどう連携する?」
リアムの耳元から柔らかな声が響く。
優しく撫でるような声色なのに、そこには怒りしかない。
ゾワリと肌を撫でる恐怖に固まると、耳元で吐息がする。
「いや……えーっと」
ダラダラと汗をかきながら困ったように笑ったリアム。
いつの間に来たのか分からなかったニコとティモフェイは目を丸くして現れた人物を見ていた。
にこやかに爽やかな笑みを浮かべているのに、そこはかとなく影がある。
「祓い師なめんなよ。お前の勉強不足はバディを死なせる結果になる。勿論お前もな。死にたくなかったら、その花が咲いているような空っぽな頭に死に物狂いで知識を詰め込んで技術を磨け。現場はそれからだ阿呆め」
パシィン! と後頭部を勢い良く叩かれたリアムは、いってぇぇぇぇえ!! と声を上げ、両手で後頭部を抑えながらうずくまった。
そんなリアムの姿を見て鼻を鳴らした男は足音を鳴らしながらアルベルトの方に向かう。
酷く安心した表情で笑み浮かべ、吐息をこぼしたジュディの音を聞いて、腰を浮かしかけていたセラフィエルは座り直して息をついた。
「まだ時間には早いですよね?」
セラフィエルの質問に、足を止めたその人が小さく笑って親指で凌雅を示す。
「呼ばれた。なんか大変だから早く来てって。そしたらこれだろ? 今回の新人は随分とじゃじゃ馬だな。……しごきがいがあっていいじゃないか」
にやりと邪悪なまでの笑みでリアムを見るその人に、ヒェ……と飛び上がる新人三人。
彼が、フリーの中で最高位であるセンチネルの祓い師────三ツ矢 新だった。
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