The 25th Hour -祓霊庁第七支部事件録-

くみたろう

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第四章: 新人教育

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 昼食の時間を過ぎた13時、やっとご飯だとよろよろして立ち上がる新人の前で、新は凌雅に弁当を渡した。
 日本人的な感覚として弁当を持っていくのが抜けない新は、三食しっかりバランス良く食べる生真面目さをみせる。 
 逆に、ロンドンに来て遊びを覚えた凌雅は真逆を行く。
 ビリヤードやダーツを楽しみながら軽食を口にする、栄養に偏った凌雅に激しく怒った新が、甲斐甲斐しく弁当を作っているのだ。
 それもこれも、ルームシェアをしているので、生活態度を見ての判断である。

「凌雅、ほら」

「ん? あぁ、ありがとう。今日はなに?」

「唐揚げとか」

「おっ! 好きー」

 わくわくと凌雅が弁当を受け取るその隣で、ジェイクがセラフィエルの手を取る。

「セラ、飯にするぞ」

「待ってください、この書類をもう少し見てから……」

「待ってたらいつまでも行けないだろう。ほら、行くぞ」

「あっ……ジェイク、書類を返してください」

 取り上げられた書類を追い掛けるように伸ばされた手は、全く別方向に向いていて、歩き出したジュディに触れた。
  
「…………ん?」

「…………それは私なのだけど、セラ」

 腕に触れて、これはなに? だれ? と握った瞬間、すぐ近くから聞こえる声にセラフィエルは慌てて手を離す。

「あっ……すみませんっ! 変なところとか、触ってないですか? あの……大丈夫ですか?」

「……ふ、大丈夫よ。腕を掴まれただけ」

「ご……ごめんなさい」

「いいわ。ジェイクに意地悪されたら言うのよ」

「しねぇよ」

 クスクスと笑って、ちょうど昼にと戻ってきたティアの方に歩いていった。
 目を輝かせて走りよるティアに置いていかれたテオは、えー……と可愛らしく不満の声を上げる。

「セラ、ほら。今日は何を食べる?」

「そう、ですね。パスタが食べたいです」

「外行くか? 食堂?」

「食堂にしましょうか」

 白杖を伸ばし、床にカツンと音を鳴らして場所を確認する。
 ゆっくり立ち上がったセラフィエルが手を伸ばすと、慣れたように腕を掴み自身の腕を持たせると、ヴィクターを連れたニールが走りよってきた。

「セラさーん! ジェイクせんぱーい! 食堂なら一緒したいっすー!」

「えぇ、勿論いいですよ」

「おい、走ると転ぶぞ…………」

「うわぁぁぁぁ!?」

「………………あぁ、予想を裏切らないな」

「ニール?!」

 何も無い場所に躓き、勢い良く顔から転んで強かにぶつけるニールに、顔を覆うジェイク。
 ヴィクターが慌てて起こしている様子を雰囲気で感じ取るセラフィエルは困ったように眉尻を下げた。

「大丈夫ですか? ニール」

「はい! 腹減りました!」

「……大丈夫そうで良かったです」

 苦笑混じりに言ったセラフィエルに、へへ……と笑ったニールはいつもと変わらない。
 セラフィエル達が見ていたニールの試験は不合格になり、Initiateイニシエイト昇格は出来なかった。
 この事にかなり落ち込んでいたのだが、自分の実力不足を認識したニールはもう一度初心に戻り勉学に励んでいると、ヴィクターが満足そうに話していた。
 少し自信過剰な所があったが、セラフィエルの圧倒的な交渉などを見て、自分はまだまだだと再認識していたと。
 未熟なりに知識や技術を手に入れたからこそ、あの時格上の祓い師であるセラフィエルの凄さが分かったと、笑顔で話すニールがいる。
 折れることなくやる気に火がついたと、ヴィクターも感謝してたのだった。

「ほら、行こうか」

 ヴィクターに促されたセラフィエルは、ジェイクに掴まりながら、逆側に懐いたニールをぶら下げて事務室を出ていった。
 事務所内の一箇所で、ニールを含んだ素敵な栄養ありがとう! と扉に向かって拝む人達がいる中、新人三人は、呆然と見送るしかない。

「……え、仲良すぎない? こんなもんなの?」

 ポカンと口を開けながらリアムが言うと、それを聞いていたニコも、確かにこの間も仲良さそうだったけど……と、答える。ティモフェイは、良く分からないと首を傾げていた。

「ここは二人一組で動くから、コミュニケーションは必須だ。安心して背中を預けられるバディとして最低限の信頼関係は築いた方が良いだろう。任務によっては他のバディと一緒にすることもあるから、事務所内の祓い師は比較的仲がいいぞ」

 アルベルトがホワイトボードを端に動かしながら答える。
 それに三人はなるほど、確かに……と答え、ニコは、じゃあ私も行かなきゃ!と立ち上がった。



___


 
 食堂は、祓霊庁はつれいちょうの三階にある、事務所から一つ階を上がるため、ジェイクはいつもセラフィエルに合わせてエレベーターを使用していた。

「……来たぞ」

「はい」

 いつも通り半歩後ろを歩くセラフィエルの足元を確認しながら歩くジェイクにニールも慣れて、思わず一緒にセラフィエルの足元を見ていた。

「セラさんはスパゲティっすよね! 俺どうしようかな」

 んんん……と悩む姿は過酷な悪魔祓いをする祓い師には見えなかった。

「ニールは、いつものデラックス定食だろう?」

 ヴィクターの言葉にジェイクがギョッとする。
 デラックス定食は安価で山盛りのご飯が食べられる大食らいメニューである。
 所謂デカ盛りと言うやつで、チャーハンに沢山のおかずがぐるりと置いている三人前は軽くありそうなプレートだった。
 ビジュアルを知らないセラフィエルは首を傾げているが、ジェイクは頬を引き攣らせている。

「あれ……食うやつ居るのか……」

「まだまだ食べ盛りっすからあ!」

 確かに二十歳のニールは、ジェイクからしたら食べ盛りだろうが……と言いたいことは飲み込んだ。
 首を傾げて見上げているセラフィエルの頭を無言で撫で、話を遮ったのだった。

 

 
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