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しおりを挟む「……はぁ」
憂鬱な気持ちのまま亜梨子は学校へと向かっていた。
あの連続で見ていた夢は久しぶりに見ること無く、しっかりと睡眠をとれたのだが、昨日の朝に言われた知り合いの子供の様子を見に行けと言われた事にまだむしゃくしゃしているのだ。
結局父は亜梨子にその頼みを覆すこと無く、今日にでも行ってきてくれとのたまった。
テスト週間に入ると突っぱねたが、既に今日行くと連絡しているといい笑顔で言ってきた父に盛大に舌打ちをしてから無言で家を出てきたのだ。
ピローン
イラつく今の亜梨子には、スマホの通知音すらギリギリと歯噛みしたくなる。
乱暴にスカートのポケットから取り出したスマホからメッセージアプリを起動すると、父からご丁寧に相手の住所と地図が添付されていて、また盛大に舌打ちしたのだった。
正直父だけの頼みなら亜梨子は行かなかっただろう。
しかし、既に相手方に連絡が行ってるというでは無いか。妙に真面目な所がある亜梨子はそれを放置は出来なかった。
「……なぜ、昨日の今日……しかもテスト週間」
今日はお弁当だった亜梨子は机に箸や弁当箱、お茶を順番に出していく。
その向かいには机をくっつけて同じ様に昼食の準備をするミラージュがいた。
綺麗に折りたたまれたお弁当箱を包むバンダナを机の端に置いて、大きめの弁当箱を机の真ん中に置く。
ペットボトルも一緒に置いたミラージュは亜梨子を見て食べようかと促した。
「亜梨子ちゃん今日はお弁当なんだね」
「お母さんが作ってくれましたから」
「パンのが多い気がするね?」
「サンドイッチも手作りですよ、今ハマってるらしいです」
「あれ手作りなの!?売り物かと思った」
「それは喜ぶ感想ですね」
お箸をつつき、少し嬉しそうに笑う亜梨子にミラージュは優しく微笑みながらご飯を口に運んだ。
今日もミラージュの弁当は彩り良く飾られている。
白米と炊き込みご飯は半々になっていて、メインは肉巻きらしく幅をとって鎮座している。
端には卵焼きやウィンナー、キンピラなども仲良く並んでいるのを綺麗な手つきでミラージュは取り出していく。
「そういえば、亜梨子は今日随分怒っていたね?」
バキ……
「え?なんですか?」
「……えー、へこんでる」
飲んで机に置いた瞬間に言われたので掴んでいたペットボトルを力一杯へこました。
そして引き攣った笑みを浮かべて口を開く
「……え?なんですか?」
「あー、うん。なんでもない」
怒ってるなぁ……と呟いて眉尻を下げたミラージュは肉巻きを箸で掴み亜梨子に差し出した。
「……はい?」
「はい、あーん」
「……冗談ですか?」
「あれぇ?冗談に見える?」
「ぶちのめしますよ」
「それはそれでいいかもなぁ」
「こっわ」
他愛もない話をしているうちに気が紛れてくる亜梨子も、落ち着いて食事が出来るようになってきた。
肉巻きは結局受け取って貰えなくて悲しく箸を戻したミラージュはそのまま自分の口に運んだ。 あまじょっぱく味付けされた肉巻きは柔らかく中に入っているアスパラも良い歯ごたえだ。
「亜梨子、テスト勉強してる?」
「勿論してますよ」
「お!じゃあさ、一緒に」
「嫌です」
「えー、そんな食い気味に言わなくてもー」
「桃葉達と勉強しますから」
「そっかー、残念だなぁ……」
全然残念そうに見えないいつもの笑みを浮かべているミラージュを眉を寄せて見つめる。
「いつもの取り巻きとすればよろしいのでは?」
「取り巻きじゃないってー、オトモダチ!」
実際にそばに来る女性達と恋愛などはしていないミラージュは、あくまで友人として接しているのだ。全て平等に。
しかし、自分がミラージュの特別になりたいと鼻息荒く息巻く女性達は日々ミラージュの隣を獲得しようと頑張っている。
「オトモダチ……ですか」
「あれ?あれあれあれあれ、もしかして亜梨子ちゃんったら嫉妬ー?」
「ぶちのめしますよ」
「あらま」
ニマニマとしながら言うミラージュに、亜梨子はギッ!と睨み付ける。
そんな可愛げひとつない亜梨子にもミラージュは楽しそうに目を細めて見たのだった。
「ねぇミラー、今日から放課後勉強会するから一緒にしよう。ねぇ、いいっしょ?」
食後、いつも通りに別々に帰ってきた亜梨子とミラージュ。
先に戻ってきた亜梨子は次の授業の準備を始めていたが、ミラージュの友達達はまだワイワイと騒いでいる。
桃葉はふんわりと笑い郁美は眉を寄せてそちらを見るが、特に何も言ったりはしない。
ただ、表情からうるさいなぁ……と言っているのが丸わかりである。
「今日は早く帰るから無理かなー、また今度ね」
「えー、私ミラと勉強したいのにぃ!なんか用事あるの?」
「まぁね」
笑って断るミラージュが亜梨子の隣を通り過ぎる時、バレないように一瞬だけ髪をくいっと引っ張って行った。
「っ……」
「ん?亜梨子どうしたの?」
「……なんでもありません」
ふっと眉を寄せて振り返った亜梨子。
ミラージュはこちらを見ること無くそのまま席に戻って行ったのがまた不愉快だった。
前を向き取り出した教科書やノートを積んで端に置いた亜梨子は頬杖をつきながらスマホに表示された住所を見て深い深いため息を吐き出した。
「………………はぁ」
亜梨子は今、自宅から徒歩5分のマンションの一室の前に立っていた。
白と青の2色の6階建てマンションのここは5階。
綺麗なエントランスをぬけた先にあるエレベーターは5人ほど乗れるくらいの広さがあり、鏡で身だしなみを確認した亜梨子は指定されたお家の玄関の前で佇んでいる。
部屋番号が間違っていないのを確認した後、見た表札に眉を寄せる。
柳
そう一言書かれた表札は、亜梨子が気に入らないと豪語する人物と同じ苗字だ。
デザイナーさん、とだけ聞いていた為知らなかった苗字に歯ぎしりしつつ、たまたま同性なのだろうと気持ちを切り替えインターホンを鳴らした。
「…………はーい」
「…………………………は」
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