[完結]古の呪いと祝福を送る魔女の口付け

くみたろう

文字の大きさ
12 / 29

12

しおりを挟む

「ただいま帰りました」

 いつも通り玄関で靴を脱ぎながら言うとリビングの扉が開いた。
 長い男性の足が見え、そのまま上を見るとスマホを持つミラージュがニコッと笑っておかえりと迎えた。

「……今日来る日でしたか?」

「雅子さんに呼ばれたの。亜梨子ちゃんのお土産あるからおいでって」

 指差した先は出来たてのデリシャスチョコバナナクレープ。
 それを見てミラージュを見て、ミラージュの後ろから顔を出した母を見て、そしてまたクレープを見る。

「………………はぁ」

 息を吐き出し家に入ってきた亜梨子はミラージュに手渡した。

「どうぞ、チョコバナナです」

「わーい!ありがとう亜梨子」

「いいえ……お母さんの分はありませんからね」

「わかってるわよー、元々ミラ君の分頼んだのよー?」

「……そうですか」

 脱力しながら2階に上がり自室に行って着替えをすませる。
 薄手のパーカーに同じ7分丈のスボンを履いた亜梨子は鞄の中から弁当箱と1枚の紙を手に取り下に戻っていった。

「お母さん、これプリントです」

「はぁい」

 相変わらずソファで2人並んで母はゲームをしてミラージュはもらったクレープを開けている所だった。
 ゲームを中断してプリントを受け取るった母は

「なになにー?あら、体育祭!7月は体育祭あるのねぇ」

「中間が終わったから今から体育は全部体育祭の練習だよー」

「まぁ!亜梨子ちゃんとミラ君はなにするの?」
 
「明日決めるらしいです」

 台所でお弁当箱を洗っている亜梨子の隣にミラージュが来て、クレープを差し出してくる。

「……なんです?」

「はい、食べて」

「……あなたのですよ」

「うん。でも食べたかったんでしょ?亜梨子が食べたくて悩んでるのを雅子さんに買ってきてって言われたもんね?」

「そ……うですけど」

「ほら、あーん」

 口元に持ってきたクレープをチラッと見たあと水道を止めた亜梨子はミラの胸を手で押して離れようとしたがミラージュは動かなかった。

「…………………………」

「…………………………ん?」

「離れてください」

「えー、いいじゃなぁい!亜梨子ちゃんにグイグイ来てくれるイケメンとか素敵だわぁ!ミラ君!もっとやれ!だよ!」

「頑張りまーす」

「何を応援してるんです!それでも母親ですか!そして返事をするんじゃありません!」

 濡れてる両手で遠慮なくミラージュの胸を押し返そうとするが、ミラージュにはちょっと押されてるくらいでビクともしない。
 亜梨子にホイップが付かないように手を挙げているミラージュは、学校では出来ない亜梨子とのイチャイチャ(笑)が出来てご満悦に笑っている。

「はい、亜梨子ちゃんおちついてー」

「あなたが離れたらいくらでも落ち着けます!」

「あら、ミラ君がそばに居ると亜梨子ちゃんドキドキしちゃうの?」

「え?本当?照れちゃうね?」

「馬鹿言うんじゃありません!」

 ミラージュが離れて亜梨子はやっとソファに座り深いため息をはいた。
 今度は母が立ち、ミラージュが隣に座るとあむっとクレープを食べる。

「お、うま」

「果物いっぱい入っていたのも美味しかったですよ」

「へぇ、いいね。亜梨子、今度は俺と一緒に行こうか」

「…………なんでですか」

「あれぇ?亜梨子の眼差しが冷たい!もぉ、亜梨子は本当に俺の事嫌いだよねぇ?」

「………………………………そうですね」

「あらぁ!つめたぁぁい!」

 途中途中二人の会話に乱入する母はエプロンを外して鞄を持った。

「お夕飯のお買い物に行ってくるわね!ミラ君何食べたい?」

「んー、豚汁?」

「はぁい!美味しいの作っちゃうわよ!期待しててねぇ!」

「はーい!」

 いってきまーす!と笑って買い物に向かう雅子を2人でソファから見送る。
 娘ではなく、家に来るクラスメイトに食べたいものを聞く母に亜梨子は微妙な気持ちを抱えながらも、まさかの2人だけでお留守番を言われるとは思わなかったとクレープを食べて寛ぐミラージュを見た。

「ん?」

「なんでもないです」

「そう?」

 口の端に着いたホイップを親指で拭い舐めとるミラージュは妙に色気が溢れていた。
 伏せ目がちに亜梨子を見て首を傾げるミラージュ。  

「……亜梨子はさ」

「はい?」

「教室にいる時より今の方が優しいね?」

「そうですか?……いえ、そうですね、その通りだと思います」

 優しい……?と考え込んでから、たしかに教室で居る時のようにミラージュを全力で拒否していない自分に気付いた。
 今でも教室にいる時は極力そばに寄らないように、あまり話をしないようにしている。
 桃葉達ではなく、クラスメイト達の突き刺さる視線や勘繰った言葉が嫌だから。
 でも

「……二人なら平気?俺がそばに居ても嫌じゃない?」

 肩が触れ合い密着して座るミラージュに亜梨子は今気付いた。
 こんな至近距離にいたのに、亜梨子は気にもしてなかったのだ。

「…………そうですね、初対面の時よりは苦手ではありません」

 そう言いながらも少し体を離すと、ミラージュはその距離を詰めてきた。

「そっかぁ、前より話してくれるようになったし、近付いても嫌がらなくなったからかなり嬉しいよ」

「近いのは嫌がります」

「あれぇ?」

 ふふっと笑いながら座り直すとミラージュも同じく隣に座り直した。
 その肩が触れ合っているのに気付いているが亜梨子はもう何も言わない。

「あ、亜梨子は体育祭なにする?最低個人3種目でしょ?何かしたいのある?」

「……したいの、ですか。特にはないですけど……借り物競争だけはしたくありません」

「借り物競争かぁ、結構いやぁなの有るみたいだしね」

「毎年借り物競争は誰もやりたがらないですからね」

「俺も借り物競争以外がいいなあ」

 ねー?とソファの背もたれに頭を当てて亜梨子を見るミラージュに亜梨子は眉を寄せた。
 ソファに頭を乗せてサラサラの髪がソファの背もたれに綺麗に広がっている。
 緩く微笑むミラージュは溢れんばかりの色気をたれ出し、流し目で亜梨子を見ているのだ。
 亜梨子はギュン!と心臓が締め付けられ顔に熱が集まるのを感じて、手に触れたクッションを強く握った。

「……」

「わっ!何!?どうしたの!?」

 いきなりクッションを顔に押し当てられたミラージュは体を起こして声を出す。
 しかし、声を掛けても返事がない亜梨子の両手腕を掴むと、反射でビクリと体が強ばりクッションを持つ力が抜けた。
 ポトリとクッションがミラージュの顔から落ち、目が合った2人は数秒見つめあっていた。
 そして、軽く力を入れたミラージュに亜梨子は抵抗すること無くソファに押し倒された。
 トサリと軽い音がなり髪がふわりとソファから床に流れ落ちていく。

「……もぅ、なんのイタズラ?」

 赤らめた顔で目を見開きミラージュを見ている亜梨子を下敷きにして至近距離でまん丸に見開いた瞳を除きこんだ。
 クッションで乱れた前髪をそのままに、ミラージュは驚いて固まる亜梨子の片手を離して首の後ろに回すと、ビクリ!と大袈裟に体を揺らす。

「……亜梨子?いたずらっ子にはお仕置きするよ?」

 首の後ろに回された腕がグイッと亜梨子を引っ張り起こすと、ミラージュの胸にトンと体が当たり亜梨子は一気に体温を跳ね上がらせる。
 そのまま抱きすくめて亜梨子の流れる髪を優しく撫でると、ちらりと見えた真っ赤に染った耳に気付き口端を持ち上げた。

「……なぁんだ、イタズラじゃなくて照れ隠しだったかぁ……かぁわい」

「は……はははは、はなれなさい!!」

 少し空いた隙間から手を差し込み顔を覆う亜梨子にミラージュはあははは!と笑う。
 背もたれに体を預けて緩く腰に腕を回しているミラージュは初めて見せる亜梨子の照れている様子に可愛いと何度も伝えていた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで

ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。 だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。 「私は観る側。恋はヒロインのもの」 そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。 筋肉とビンタと回復の日々。 それなのに―― 「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」 野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。 彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。 幼馴染ヴィルの揺れる視線。 家族の温かな歓迎。 辺境伯領と学園という“日常の戦場”。 「……好き」 「これは恋だ。もう、モブではいたくない」 守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、 現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。 これは―― モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。 ※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。 ※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。 ※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界で王子の暗殺頼まれました

菱沼あゆ
恋愛
 社長にフラれ、呑んだくれて寝たOLの未悠(みはる)が目を覚ますと、そこは社長そっくりの王子が居る異世界だった。  元の世界に戻るきっかけもつかめず、十七歳と年を偽り、居酒屋で働く未悠に、騎士なんだか魔導士なんだかわからない怪しげな男が、王子の花嫁になってみないかと持ちかけてくる。 「お前が選ばれることなど、まずないと思うが」  失礼な奴だ……。 「もしも、王子のお側近くに行くことができたら、この剣で王子を刺せ」  あの顔を刺したいのはやまやまだが、人としてどうだろう……?  そんなことを思いながらも、未悠は自分より美しいのでムカつく王子に会いに城へと向かう――。 (「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。)

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

元お助けキャラ、死んだと思ったら何故か孫娘で悪役令嬢に憑依しました!?

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界にお助けキャラとして転生したリリアン。 無事ヒロインを王太子とくっつけ、自身も幼馴染と結婚。子供や孫にも恵まれて幸せな生涯を閉じた……はずなのに。 目覚めると、何故か孫娘マリアンヌの中にいた。 マリアンヌは続編ゲームの悪役令嬢で第二王子の婚約者。 婚約者と仲の悪かったマリアンヌは、学園の階段から落ちたという。 その婚約者は中身がリリアンに変わった事に大喜びで……?!

悪役令嬢はヒロイン(♂)に攻略されてます

みおな
恋愛
 略奪系ゲーム『花盗人の夜』に転生してしまった。  しかも、ヒロインに婚約者を奪われ断罪される悪役令嬢役。  これは円満な婚約解消を目指すしかない!

『呪いのせいで愛妻家になった公爵様は、もう冷徹を名乗れない(天然妻は気づかない)』

星乃和花
恋愛
【完結済:全20話+番外3話+@】 「冷徹公爵」と呼ばれるレオンハルトが、ある日突然“愛妻家”に豹変――原因は、妻リリアにだけ発動する呪いだった。 手を離せない、目を逸らせない、褒めたくなる、守りたくなる……止まれない溺愛が暴走するのに、当のリリアは「熱(体調不良)」と心配または「治安ですね」と天然で受け流すばかり。 借金を理由に始まった契約結婚(恋愛なし)だったはずなのにーー?? そんなふたりの恋は愉快な王都を舞台に、屋敷でも社交界でも面白……ゆるふわ熱烈に見守られる流れに。 甘々・溺愛・コメディ全振り! “呪いのせい”から始まった愛が、最後は“意思”になる、にやにや必至の夫婦ラブファンタジー。

黄金の魔族姫

風和ふわ
恋愛
「エレナ・フィンスターニス! お前との婚約を今ここで破棄する! そして今から僕の婚約者はこの現聖女のレイナ・リュミエミルだ!」 「エレナ様、婚約者と神の寵愛をもらっちゃってごめんね? 譲ってくれて本当にありがとう!」  とある出来事をきっかけに聖女の恩恵を受けれなくなったエレナは「罪人の元聖女」として婚約者の王太子にも婚約破棄され、処刑された──はずだった!  ──え!? どうして魔王が私を助けてくれるの!? しかも娘になれだって!?  これは、婚約破棄された元聖女が人外魔王(※実はとっても優しい)の娘になって、チートな治癒魔法を極めたり、地味で落ちこぼれと馬鹿にされていたはずの王太子(※実は超絶美形)と恋に落ちたりして、周りに愛されながら幸せになっていくお話です。  ──え? 婚約破棄を取り消したい? もう一度やり直そう? もう想い人がいるので無理です!   ※拙作「皆さん、紹介します。こちら私を溺愛するパパの“魔王”です!」のリメイク版。 ※表紙は自作ではありません。

処理中です...