17 / 588
セルジオという精霊
セルジオは最高位闇精霊の1人だ。
どの種族にも最高位の者がいて、その種族を束ねる者となっているが、それについては確証がなかった。
人間の知りえない人外者の世界の1つなのだろう。
セルジオは最高位闇精霊の1人であり、他者に頭を下げられる存在である。
自分というものを持ち、他者に頭を下げない繊細であるが傲慢でいて強欲であると認識されている。
その事について、セルジオも否定はしない。
だからこそ、アリステアという人間に少なからず共感しその力の一部を貸したことに周りは驚いていたという。
そんな彼の周りにも移民の民が現れることは不思議な事ではない。
縦の繋がりを欲しがる人間や人外者からの様々な会合や、最高位精霊だからこそ参加しなければならない舞踏会等に顔を出すと、挨拶に来る人外者のパートナーとして移民の民を紹介されるからだ。
昔から、なぜか移民の民の花嫁を持つことをステータスと考える者が多い。
狙われると分かっていて人目に晒される場所に連れていき見せびらかすように挨拶をする。
勿論それにも意味があるのだが。
「セルジオ様こんにちは、今日は良い夜ですね」
「…………ああ、リーシアか」
「はい、セルジオ様を見かけましたのでご挨拶と共に私のパートナーの紹介をしに来ましたの」
挨拶に来たのは夕影の精霊だった。
火属性の中位精霊であるリーシアはお淑やかに話すがその性格は自己顕示欲が強く残忍。
隣にいる男性は異世界から呼ばれた移民の民である事は言われずともわかった。
あまり顔色の良くない男性で、常にリーシアの動向を伺っている様子があり、セルジオを紹介された男性は、頭を下げつつ何か言いたそうな目をしていた。
「…………お前も移民の民を呼んだんだったな」
「ええ。移民の民は素晴らしいですわよ?力は増えますし、なによりとても美味しいのですわ」
「……悪趣味だな」
「まあ、これも移民の民を楽しむ1つではありませんか?ふふ……私は全てを楽しみたいのですわ」
「そうか」
「セルジオ様も呼ばれたらいいですわよ」
「いらん…………もう失せろ」
「かしこまりましたわ、ではまた」
うふふ。と相変わらず笑って言うリーシアに連れられ離れていく男性をちらりと見てから視線を外した。
ほのかに香る花の残り香があり、顔をゆがませたセルジオはそこから離れることにした。
すると、また別の妖精が現れたがセルジオに気付かなかったその妖精は軽くぶつかってくる。
「あ、申し訳ない……おや、セルジオ殿ではないか、久しいな」
「…………ああ」
「すまない、今日はパートナーの初の舞踏会なんだ。挨拶はまたにさせてもらうよ」
同じ精霊ではない雪結晶の妖精はキラリと輝く雪をハラハラと散らしながらそばに居た小さな少女を連れて離れていった。
「…………子供じゃないか」
人外者の好みは千差万別。
移民の民を呼び寄せる人外者は同性を呼ぶ場合も子供を呼ぶ場合もあるが、セルジオにその感性はない。
遂にはアクセサリー感覚で移民の民を呼ぶ人外者も増えてきて、そのような呼ばれ方をした移民の民は飽きたら下げ渡されるか喰われるか。
移民の民は、狙われかどわかされるので、大事に守られる反面、簡単に切り捨てられる時もあるのだ。
それでも移民の民を呼び寄せるその理由を人間は正しく理解していない。
移民の民は人外者の花嫁だ。
そう人間の間では言われ続けていて、人外者はそれを訂正しない。
なぜか。それは、人外者の最大の特徴に関係する。
旨みが強いのだ。
甘い花の香りは、人外者を呼び寄せ狂わし 、その血肉は甘露である。
そして、食べれば食べる程に力を増し妖精や精霊、幻獣の位を上げる。
だからこそ、その特性を人間に知らされ保護という名の隔離から移民の民を守り、また人外者の力の増長をバレないようにしているのだ。
人間とは、強欲で身勝手だから。
そして他者の移民の民は基本的に奪うことを良しとしていないが、その甘露の血肉を狙い力の増強を求めて争いが起こる。
甘い花の香りが強ければ強いほどに、人外者にとっては麻薬のような存在なのだ。
同じ移民の民には何度か会ったことがある。
その全てに、周囲から守るように伴侶が隣に佇んでいて、同じ高位の精霊や妖精からは伴侶を探さないのか?と無遠慮に聞かれることもしばしばあった。
別に移民の民を必ず花嫁にする必要はないし、人間でも同じ精霊でも、妖精だって伴侶にする事は可能だ。
だが、別段誰かをそばに置きたいとも強烈に惹かれる者に会うことも無く、伴侶に特段趣を感じていないセルジオにとって、その手の話は煩わしいだけだった。
そうだったはずなのだ。
メイという存在に会うまでは。
移民の民に少なからず惹かれるのは人外者としての性だろう。
しかし、その中でもあの少女はなにかが違った。
人間らしからぬ不思議な感覚に人間もどきと比喩したが、気付いた時には部屋中に充満する甘ったるく纏わりつくような花の香りが麻薬のように媚薬のようにセルジオに絡みつく。
契約も何もしていない移民の民に強く惹かれるのは自分のモノにしたいと深層で願ってしまうから。
触れたいと強く願うのはその甘露に溺れたいから。
その名を呼びたいと思うのは、名の魔術で自分に縛り付けたいから。
「………………なんの対価もなく教える理由を、お前に触れない理由を……考えろよ。お前から俺に堕ちてこい」
一体いつの間に、メイを傍に起きたいと思うくらいに惹かれていたのだろう、まだ会って大した期間も過ごしていないのに。
1人部屋でワイン片手に2つの赤い月を見上げたセルジオは、今まで見てきた移民の民には欠片も惹かれなかった自分の変化をじわりと感じ、迸る独占欲という熱が燻っていることに口端を持ち上げた。
あなたにおすすめの小説
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!