[第一部完結]美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

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セルジオという精霊


 セルジオは最高位闇精霊の1人だ。
 どの種族にも最高位の者がいて、その種族を束ねる者となっているが、それについては確証がなかった。
 人間の知りえない人外者の世界の1つなのだろう。
 セルジオは最高位闇精霊の1人であり、他者に頭を下げられる存在である。
 自分というものを持ち、他者に頭を下げない繊細であるが傲慢でいて強欲であると認識されている。
 その事について、セルジオも否定はしない。
 だからこそ、アリステアという人間に少なからず共感しその力の一部を貸したことに周りは驚いていたという。

 そんな彼の周りにも移民の民が現れることは不思議な事ではない。
 縦の繋がりを欲しがる人間や人外者からの様々な会合や、最高位精霊だからこそ参加しなければならない舞踏会等に顔を出すと、挨拶に来る人外者のパートナーとして移民の民を紹介されるからだ。
 昔から、なぜか移民の民の花嫁を持つことをステータスと考える者が多い。
 狙われると分かっていて人目に晒される場所に連れていき見せびらかすように挨拶をする。
 勿論それにも意味があるのだが。

「セルジオ様こんにちは、今日は良い夜ですね」

「…………ああ、リーシアか」

「はい、セルジオ様を見かけましたのでご挨拶と共に私のパートナーの紹介をしに来ましたの」

 挨拶に来たのは夕影の精霊だった。
 火属性の中位精霊であるリーシアはお淑やかに話すがその性格は自己顕示欲が強く残忍。
 隣にいる男性は異世界から呼ばれた移民の民である事は言われずともわかった。 
 あまり顔色の良くない男性で、常にリーシアの動向を伺っている様子があり、セルジオを紹介された男性は、頭を下げつつ何か言いたそうな目をしていた。

「…………お前も移民の民を呼んだんだったな」 

「ええ。移民の民は素晴らしいですわよ?力は増えますし、なによりとても美味しいのですわ」

「……悪趣味だな」

「まあ、これも移民の民を楽しむ1つではありませんか?ふふ……私は全てを楽しみたいのですわ」

「そうか」

「セルジオ様も呼ばれたらいいですわよ」

「いらん…………もう失せろ」

「かしこまりましたわ、ではまた」

 うふふ。と相変わらず笑って言うリーシアに連れられ離れていく男性をちらりと見てから視線を外した。
 ほのかに香る花の残り香があり、顔をゆがませたセルジオはそこから離れることにした。
 すると、また別の妖精が現れたがセルジオに気付かなかったその妖精は軽くぶつかってくる。

「あ、申し訳ない……おや、セルジオ殿ではないか、久しいな」

「…………ああ」

「すまない、今日はパートナーの初の舞踏会なんだ。挨拶はまたにさせてもらうよ」

 同じ精霊ではない雪結晶の妖精はキラリと輝く雪をハラハラと散らしながらそばに居た小さな少女を連れて離れていった。

「…………子供じゃないか」

 人外者の好みは千差万別。
 移民の民を呼び寄せる人外者は同性を呼ぶ場合も子供を呼ぶ場合もあるが、セルジオにその感性はない。
 遂にはアクセサリー感覚で移民の民を呼ぶ人外者も増えてきて、そのような呼ばれ方をした移民の民は飽きたら下げ渡されるか喰われるか。
 移民の民は、狙われかどわかされるので、大事に守られる反面、簡単に切り捨てられる時もあるのだ。
 それでも移民の民を呼び寄せるその理由を人間は正しく理解していない。
 移民の民は人外者の花嫁だ。
 そう人間の間では言われ続けていて、人外者はそれを訂正しない。
 なぜか。それは、人外者の最大の特徴に関係する。
 旨みが強いのだ。
 甘い花の香りは、人外者を呼び寄せ狂わし 、その血肉は甘露である。
 そして、食べれば食べる程に力を増し妖精や精霊、幻獣の位を上げる。

 だからこそ、その特性を人間に知らされ保護という名の隔離から移民の民を守り、また人外者の力の増長をバレないようにしているのだ。
 人間とは、強欲で身勝手だから。

 そして他者の移民の民は基本的に奪うことを良しとしていないが、その甘露の血肉を狙い力の増強を求めて争いが起こる。
 甘い花の香りが強ければ強いほどに、人外者にとっては麻薬のような存在なのだ。

 同じ移民の民には何度か会ったことがある。
 その全てに、周囲から守るように伴侶が隣に佇んでいて、同じ高位の精霊や妖精からは伴侶を探さないのか?と無遠慮に聞かれることもしばしばあった。
 別に移民の民を必ず花嫁にする必要はないし、人間でも同じ精霊でも、妖精だって伴侶にする事は可能だ。
 だが、別段誰かをそばに置きたいとも強烈に惹かれる者に会うことも無く、伴侶に特段趣を感じていないセルジオにとって、その手の話は煩わしいだけだった。

 そうだったはずなのだ。
 メイという存在に会うまでは。

 移民の民に少なからず惹かれるのは人外者としての性だろう。
 しかし、その中でもあの少女はなにかが違った。
 人間らしからぬ不思議な感覚に人間もどきと比喩したが、気付いた時には部屋中に充満する甘ったるく纏わりつくような花の香りが麻薬のように媚薬のようにセルジオに絡みつく。

 契約も何もしていない移民の民に強く惹かれるのは自分のモノにしたいと深層で願ってしまうから。
 触れたいと強く願うのはその甘露に溺れたいから。
 その名を呼びたいと思うのは、名の魔術で自分に縛り付けたいから。
 



 

「………………なんの対価もなく教える理由を、お前に触れない理由を……考えろよ。お前から俺に堕ちてこい」

 一体いつの間に、メイを傍に起きたいと思うくらいに惹かれていたのだろう、まだ会って大した期間も過ごしていないのに。
 1人部屋でワイン片手に2つの赤い月を見上げたセルジオは、今まで見てきた移民の民には欠片も惹かれなかった自分の変化をじわりと感じ、迸る独占欲という熱が燻っていることに口端を持ち上げた。

 
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